テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
はるにし
72
りー
69,261
1,327
翌日、学校の教室。
昨晩から一睡もしていない目黒は机に突っ伏して頭を抱えていた。
そこに、同じクラスの向井康二とラウールがガサツに机を囲んでやってくる。
🧡「なぁ、めめ…朝から様子おかしいで?体育のサッカーもシュート外しまくっとったし、ほんで魂抜けた顔してどうしたん?」
写真部と料理部を掛け持ちしている康二が、お気に入りの一眼レフカメラの手入れをしながら話し掛ける。
その隣でラウールがポテトチップスをポリポリ食べながら、「もしかして、昨日お使い頼まれたケーキ屋の店員さんに一目惚れでもしたの〜?(笑)」と、恋に恋する、では無いが男子校故にそう言った類の話に飢えているラウールは軽い口調でからかっている。
そんな中恐る恐る顔を上げ、2人の目を真剣な顔で見据えた。
🖤「…笑わずに聞いてくれ」
🧡🤍「「ん?」」
🖤「……俺、人生で初めて、一目惚れってやつをしてしまったかもしれない」
康二の持っていたカメラがガチャンと音を立てて机に落ち、ラウールは食べていたポテチを喉に詰まらせて盛大にむせ返った。
🧡「えっ、あの目黒蓮が!?」
🤍「面倒くさい事はしたくない、ってクールな一匹狼(笑)が!?」
🖤「…なんか今、バカにしたか?」
🤍「いやいや、してないよ! 心外!」
ラウールが両手をパタパタと振って否定する。
🧡「絶対してたよな?一匹狼(笑)ってとこ、めっちゃ強調してたもん」
康二がすかさずツッコミを入れる。
🖤「……やっぱ言うんじゃなかった」
目黒は再び、両手で自分の顔を覆った。
耳のあたりがほんのりと赤く染まっているのが夕日のせいだけではない事は一目瞭然だった。
昨日の今日だ。
学校からの帰り道、母に言われてふらっと立ち寄った小さなケーキ屋『Patisserie SNOW』。
そこで出会った、明るく柔らかい笑顔のパティシエ。
「ろうそく何本お付けしますか?」と優しく問いかけられた瞬間、胸の奥を撃ち抜かれた様な衝撃を受けて以来、目黒の頭の中は彼でいっぱいになっていた。
授業中、先生に当てられてもぼーっとして返答をしなかった事で教科書で軽く叩かれたり、何も無いところで躓いて転びかけたり、結果としてこの親しい友人2人に白状せざるを得なくなったのだ。
静まり返った教室の空気を吸い込み、康二がふっと表情を緩めた。
茶化していたトーンから、少しだけお兄ちゃん風を吹かせる様な、優しい声音に変わる。
🧡「いやー…、めめにも春が来たんかぁ…! で、どんな人なん!?写真とか撮ってへんの? 見せてや!」
🖤「写真なんかあるわけ無いだろ……、っていうか出会ったの昨日だし、名前もまだ…」
🤍「うわー!そんなの少女漫画の世界じゃん!」
🖤「…っ、うるさいな……」
ラウールは信じられないという顔だが、どこかワクワクしているのが隠しきれていない。
🖤「……名前は、レシート見れば分かるかもしれないけど……」
目黒は頭を抱えたまま、ぐしゃぐしゃと自分の黒髪を掻き乱した。
🧡「なるほどなぁ、名前も分からん、連絡先も交換してない、ただ『ケーキ屋の店員さん』って事か。ハードル高すぎやろ、やっぱり少女漫画やん!」
康二が膝を叩いて笑う。
🧡「で? その人はどんな人なんや? めめをここまで狂わせた人の生態を詳しく教えてくれや」
🖤「……男、だよ……、身長は俺よりちょっと低いくらい……だけど、すっげぇ綺麗で、でも可愛くて……なんていうか、笑うと太陽みたいな人で……」
🤍「語彙力皆無じゃん」
ラウールがクスクスと笑いながら、「でもさ、めめがそこまで言うって相当だよ。普段、可愛い子に話しかけられても『ふーん』で流すくせに」と感心した様に頬杖を付く。
🖤「流すっていうか、興味なかったから……」
🧡「それが昨日たった1回ケーキ買っただけで『一目惚れしてしまったかもしれない』って悩んでるんやろ? それはもう「かもしれない」やなくて完全に恋に落ちてもうてるやん」
康二がパシャリと、シャッターを切る様な仕草をした。
🖤「……どうすればいいと思う?」
先程まで項垂れていた目黒が意を決した様に顔を上げた。
その真剣な瞳に、康二とラウールは少しだけ面食らう。
ふざけて茶化していたけれど、目黒本人は本気なのだと伝わってきたからだ。
🧡「どうすればって、そりゃあお前……」
康二は腕を組み、フッと鼻を鳴らした。
🧡「また買いに行くしかないやろ、ケーキ屋なんて何回行っても不自然やないし甘いもん好きキャラで行けばええねん」
🖤「甘いもん好きキャラ……」
🧡「そう! 『昨日もらったショートケーキが美味しかったんで、また来ました』って言えば、向こうも絶対に悪い気はせえへん。そこからちょっとずつ名前聞いたり、話す様になったり、ステップ踏んでいくしかないやろ」
🤍「おっ、康二くん意外とまともな恋愛アドバイスじゃん」
ラウールがからかう様に言うと、「失礼な! 俺だってこれでも恋バナの聞き役くらい何回もやってるわ!」と康二がむくれる。
🖤「……でも、康二の言う通りだな」
目黒は小さく頷いた。
昨日、逃げる様に店を飛び出してしまった事を今更ながら後悔する。
🖤「次に行ったら、ちゃんと顔見て、ちゃんと話す」
🧡「そうそう! 焦ったらあかん。まずは『常連客』のポジションをゲットするんや。ちなみにそのケーキ屋はどこなん?」
🖤「駅前の入り組んだ所」
🧡「あー、あそこか!その店、確か近くの不動産屋のオーナーとか、出入りしてるおっちゃん達も多いらしいから変に怪しまれへん様にな」
康二が、どこで仕入れたのか地元の細かい情報を付け加える。
🤍「不動産屋?」
🧡「そう、深澤不動産ってあるやろ? あの通りの。あそこの人達、結構あのケーキ屋の差し入れとかもらって仲良いらしいで。ま、めめに関係あるかは知らんけど」
🖤「……」
目黒はぼんやりと、あのケーキ屋の周辺の景色を思い浮かべる。
🤍「とにかく!」
ラウールがパンッと手を叩いて、立ち上がった。
🤍「今日の放課後、さっそく部活サボって……いや、部活終わってから、買いに行くしかないでしょ。アシストが必要なら、僕達も遠くから見守ってあげるよ。怪しまれない程度に!」
🖤「いや、お前らが居たら絶対変なテンションになるから来ないでくれ」
🤍「えー、冷たっ! せっかく恋のキューピッドになってあげようと思ったのに!ね、康二くん!」
🧡「ごめん、今日はパス。この後料理部あんねん」
🤍「えー!」
わいわいと騒がしい友人達の声を聞きながら、目黒の胸につっかえていた物は少しだけ軽くなっていた。
一匹狼などと呼ばれ、どこか周囲と壁を作っていた高校生活。
だけど、今こうして自分の恋のために本気で考えてくれる仲間がいて。
そして――あの街角の小さなケーキ屋には、自分をこれほどまでに狂わせた温かな笑顔の人が居る。
(…今日の放課後、また、あの人の所に行こう)
カレンダーの予定でも、誰かの命令でもなく、自分の意志で動き出す初めての恋。
夕暮れの教室で、目黒蓮の青春の歯車が、カチリと音を立てて大きく回り始めた。
コメント
4件

🖤頑張れ 続き待ってます♪
深澤不動産...。 登場に期待しかないです😆