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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
第109話 言えなかった言葉
それから数日が経った。
特別な出来事は、何も起こらなかった。
朝起きて、学校へ行って。
帰ってきて、ご飯を食べて。
眠る。
そんな普通の日々だった。
けれど琴葉にとって、
その「普通」は以前とは少し違っていた。
誰かと一緒にいることが、怖くない。
何かを話さなくても、無理に話題を探さなくていい。
沈黙が続いても、
「嫌われたかもしれない」
なんて考えなくなった。
――少しずつだけれど。
そんなある日の帰り道。
律からメッセージが届いた。
『今日、少し話したい』
短い文章だった。
琴葉は画面を見つめる。
以前なら、何か悪いことをしたのかと
不安になっていたかもしれない。
でも今は違った。
『わかった。いつもの場所?』
『うん』
二人が向かったのは、あの小さな図書館だった。
ベンチに座ると、律はしばらく黙っていた。
「……どうしたの?」
琴葉が聞く。
「話したいことがある」
「うん」
律は膝の上で手を組んだ。
「この前、帰りたくないって言っただろ」
「うん」
「あのとき、理由を聞かなかったけど」
律は一度、息を吐いた。
「本当は、少しだけ分かってた」
琴葉は黙って聞いた。
「俺も昔、家に帰りたくない日があったから」
その言葉を聞いた瞬間。
琴葉は、昔の記憶を思い出した。
律が何度も「大丈夫」と言っていたこと。
自分のことより、誰かの顔色を気にしていたこと。
何かを聞いても、
「別に」
と笑っていたこと。
あれは、平気だったからじゃない。
平気なふりをしていただけだった。
「……今も?」
琴葉が聞く。
律は少し考えた。
「たまに」
「そっか」
「でも、昔みたいに一人で抱え込むことは減った」
「どうして?」
律は琴葉を見る。
「話していいって知ったから」
その一言が、琴葉の胸に響いた。
「ありがとう」
「え?」
「言ってくれて」
琴葉がそう言うと、律は少し笑った。
「俺も、ありがとう」
「何が?」
「聞いてくれて」
それだけだった。
けれど二人にとっては、それだけで十分だった。
昔は、言葉にできなかった。
助けてほしい。
怖い。
寂しい。
帰りたくない。
そばにいてほしい。
そんな言葉を、二人とも何度も飲み込んできた。
でも今は違う。
言ってもいい。
聞いてもいい。
頼ってもいい。
それを二人で覚えていく。
帰り道。
駅までの道を歩きながら、琴葉が突然言った。
「ねえ、律」
「ん?」
「私、もう一つだけ言えてなかったことがある」
律が足を止める。
「何?」
琴葉は少しだけ緊張しながら笑った。
「……あの頃、律が隣にいてくれたこと、本当に嬉しかった」
律は黙っていた。
「たぶん私、ちゃんと伝えたことなかった」
「……うん」
「だから、今言いたかった」
少しの沈黙。
そして律は、ゆっくり口を開いた。
「俺も」
「え?」
「琴葉が隣にいてくれて、嬉しかった」
琴葉の目が少し潤む。
「……今度はちゃんと言えたね」
「うん」
「じゃあ、よかった」
二人はまた歩き始める。
駅の明かりが少しずつ近づいてくる。
昔なら、ここで別れていた。
それぞれの場所へ帰って。
それぞれの不安を抱えて。
それでも「大丈夫」と言っていた。
でも今日は違う。
「明日も会う?」
琴葉が聞いた。
「会う」
「即答」
「だって、会いたいから」
琴葉は笑った。
「そっか」
駅の入口で、二人は立ち止まる。
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日」
それぞれの方向へ歩き出す。
数歩進んだところで、琴葉が振り返った。
律も振り返っていた。
目が合う。
二人とも、少し笑った。
言えなかった言葉は、
もう過去の中だけに置いていかない。
これからは。
思ったことを、ちゃんと言葉にしていく。
それがきっと――
二人がこれからも
一緒に歩いていくための、新しい約束だった。
コメント
1件
あああもう読んでて定期的に泣きそうになったんだけど!!😭💕💕 「言えなかった言葉」が一つずつ「言えた言葉」になっていくの、心臓掴まれたよ…。特に律が「昔、家に帰りたくない日があった」って初めて言葉にしたシーン、めっちゃグッときた…二人ともずっと平気なふりしてたんだね。 最後の振り返って目が合うところとか「明日も会う?」「会いたいから」とかもう反則でしょ〜〜!!!😭✨ 普通の日々の尊さをこれでもかってくらい感じる回だったよ…!次の展開もめっちゃ楽しみにしてるね!🌟