昨日ファミレスにてテスト勉強をするつもりで行ったのだが、結局勉強をしたのはほんの数十分で、それに加えとんでもなく気まずい時間を侑と過ごしたのである。
それから半日程が経ち、学校に今日も行くと、沢山の生徒から注目されている。その原因は多分…いや絶対に角名のストーリーに私がいたことである。
「今日○○めっちゃ見られとるやん」
『困りましたな。Amen』
「いや誰やねん」
いつもと変わらないフルーツサンドと牛乳を購買で買い、いつもと変わらない人といつもと変わらない静かな教室で昼食を取るつもりだった。…のだが。
「あれちゃう?昨日角名くんといた女子って」
「え、彼女??」
「しかも宮くんたちともいたよね、?」
「胸は勝った」
午前の授業が終わり、やっと昼休みだと思った瞬間、2年2組の教室前の廊下が沢山の生徒で埋まった。いつも何かと一緒にいるバレー部2年は学校では学年問わずかなりの人気を誇っており、特に角名や宮兄弟は女子とあまり絡まない。
ある人は物珍しそうに私を見る。
ある人は殺意を含んだ目で私を見る。
中には泣いている女子もいた。私が悪いのか…?
「うわ…めっちゃ人いる」
と言うのは昨日私が写っているストーリーをあげた張本人である。その隣には腹減ったわ。はよ昼飯買うてこよ。と言う治の姿が見える。私はこの好機を逃すまいと口パクで“たすけて”と言おうとしたとき。
「自分ら人の迷惑考ええや」
そう言ったのは昨日同じことで怒られていた侑だった。心の中で人のこと言われへんやん、と思いつつ、治に言われて少し意識しているからか不覚にもドキッとしてしまう。
侑の一言に女子のほとんどが帰ろうとしていたのだが、侑が私を庇ったような形になったのを見て1人の男子が
「もしかして侑の彼女こいつなん?」
といかにもな陽キャが少し笑いを含んだように言った。それに対して侑が少し顔を赤らめながら反論する。そんな侑に不覚にもときめいてしまった自分が馬鹿らしくなって逃げたくなった。そしてさっき帰ろうとしていた女子がまた戻ってくる。
「ほな俺○○ちゃん狙っちゃおっかな。可愛いし」
そう言いながら私の腕を強引に掴む。なんだか急に怖くなり、動けなくなって抵抗できない。さっきまでは他人事のように眺めていたが、一気にみんなの嫌な視線を感じ、声すら出なくなった。喉のすぐそこまできているのに何故か声だけでない。
「…その汚い手離せや」
聞いたことの無いくらいの低い声に私はすぐに顔を上げて声のする方を見上げた。私を助けてくれたのは意外の人物であった。
『あ、…侑』
侑を見て安心したのかやっと声が出た。…と思った矢先、さっきまで掴んでいた陽キャの腕が侑の腕に変わった。さっきよりも強引な気がするが、何故か不快さを感じない。そのまま親友を置いて私を屋上まで引っ張りながらずんずん進んでいく。女子からの視線や私たちを噂している声なんて感じられない程、侑の背中を必死に追いかけた。
『ちょ、侑…!まって…!』
「……………」
待ってと訴えたが返事は返ってこない。それから何度か侑に声をかけたが全て無視され、あっという間に屋上前まで来てしまった。ドアノブに手をかけようとした侑だが、鍵がかかっているようで「開かへんのかい!!」と侑の声が響いた。
『ふふっ』
緊迫した雰囲気が侑の一言で打って変わり、思わず控えめな笑い声が出てしまった。
「…笑うなや」
と言うのは今していたことに恥ずかしくなったのか少し頬を赤らめる侑。そしてやっと気づいたのか、強く握っていた私の腕を離す。その腕は少しだけ赤くなっていてヒリヒリしている。
「…すまん。気づかんかった。」
『ほんまや。ちょっと痛いし』
やけに素直な侑に対してわざと悪態をつく。それでないと侑に恋心を抱いてしまいそうな気がして。
「ほんっっま可愛げないなあ!」
きっと侑も一緒だ。
『……まあでもちょっとだけ。ほんのちょびっとだけだけどかっこよかった…』
そう告げた侑の顔はさっきよりも赤く、きっと私もそうなのだろう。
「おまっ…。マジで吹っ飛ばすぞ…」
私たちの歯車が動いたとしたら、きっと今日なのだろう。少しずつだけれど、拙い形だけれど、だんだんお互いの歯車が噛み合って今、この瞬間にやっと動き出したのだろう。
コメント
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続き楽しみにしてます!!!!!