「お祖母ちゃん、今日、尊くんと朱里ちゃんを連れてきて良かったでしょう?」
小牧さんがドヤ顔で言い、周りの方々がドッと笑う。
「……そうね。皆には感謝しないと。……なかなか尊に声を掛けられずにいたけれど、勇気を出して一歩前に進むと、こんなにも明るい景色が見えるのね」
百合さんの言葉のあと、将馬さんが微笑んだ。
「尊、朱里さん。これからはもっと気軽に訪ねてくれ。良かったらお盆や正月、何かイベントのある日も、そうでない日も、何かあったら連絡してほしい」
「ありがとうございます」
尊さんは微笑んでお礼を言う。
私は彼がやっとお正月やお盆に〝親戚の集まり〟に参加できるのだと思うと、嬉しくなって涙ぐんでしまった。
「うぅ、うう~~……」
「……何泣いてるんだよ」
尊さんはグスグス泣き始めた私を、苦笑いして抱き締める。
「だって……っ、うぅっ、……うれじい……っ」
これまで孤独に戦ってきた尊さんが、やっと親戚に受け入れられて愛されている。
願ってやまなかった姿を見て感極まった私は、涙を止められずにいた。
「朱里さんは優しい人ね」
百合さんは立ちあがって私の前にしゃがむと、そっと腕をさすってくる。
「あなたみたいな女性が尊の相手で安心したわ。尊を宜しくお願いいたします」
彼女に頭を下げられ、涙腺が臨界点を超えた。
「うぅう……っ、よろじぐお願いじばずっ」
皆、べしょべしょに泣き崩れた私を、微笑んで見守ってくれていた。
そのあともスイーツを食べながら飽きる事なく話をし、アンコールを受けて尊さんがピアノを演奏してくれた。
一曲は、あかりちゃんが好きだった『きらきら星』を色んなバージョンでアレンジした、モーツァルトの『きらきら星変奏曲』。
そして本当の最後のアンコールには、渾身のリスト『ラ・カンパネラ』を弾いてくれた。
全員で拍手した頃、速水邸のチャイムが鳴り、いつの間に頼んだのか特上寿司と茶碗蒸し、唐揚げが届く。
「贔屓にしているお店、とても美味しいのよ」
百合さんが言って、皆で美味しいお寿司をいただき、お腹がこなれたあと、おいとまする事にした。
「また、いつでも来てちょうだい」
そう言って、百合さんは私たちの手に何かを持たせた。
「ん……、んっ?」
私と尊さんの手には、立派な水引で飾られた『ご婚約祝』のご祝儀袋がある。しかも結構な厚みがあるんですが……。
「いけません」
中に少なくないお金が入っていると察した尊さんは、まじめな顔でご祝儀袋を返そうとする。
けれど百合さんは固辞した。
「私は今まであなたに何もしてあげられなかったわ。お年玉すらあげられなかった。だから……」
「こんなに沢山、いただけません」
尊さんはなおも首を横に振り、返そうとする。
「いーじゃないの!」
そんな二人の間に割って入ったのは、ちえりさんと小牧さんだ。
「備えあれば憂いなしって言うじゃない」
「そうそう。結婚式、新婚旅行の足しにするとか、いずれ生まれるベイビーのために使うとか、色々使い道はあるわ」
二人の今後、特に子供について言われ、尊さんは溜め息をつく。
百合さんはそんな彼の手を、両手で包んだ。
「遺言書にあなた達の事を書きたいと思っているけれど、可能なら生きているうちに、孫に何かさせてちょうだい。そのほうが税金もあまりかからないしね」
彼女は最後に少し悪戯っぽく言う。
尊さんが「受け取れない」と感じるのは分かるけれど、ここは受け取っておいたほうがいい気がした。
「尊さん。今は受け取らせていただきましょう。ちえりさん達の言う通り、大切な事に使ったら〝生きたお金〟になります」
彼は少し困った表情をしていたけれど、私に言われて「分かったよ」と微笑んだ。
「……では、謹んで受け取らせていただきます」
「ありがとう」
百合さんはホッとしたように笑い、私と尊さんの手を順番に握ってきた。
「元気でね。また必ず来てちょうだい」
「はい!」
返事をすると、百合さんも周りの皆さんも、嬉しそうに笑う。
そして改めて婚約祝いの食事会をする約束をして、速水邸を出た。
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コメント
2件
😭うれじい( ´ii`。)💦
うれじぃよぉ〜😭 よろじぐお願ぃじまず〜🤧