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「お帰りなさいませ、ご主人様」
エドマンドが出迎えてくれる。いつもの光景なのに。誕生日なのに。本来なら俺はここでブルースターをプレゼントする予定でいた。
でも俺の買った花は青ではない。
「あぁ。」
「市場はどうでしたか?わくわくされていたようですが。お目当てのものは買えましたか」
いつもの会話。いつもの温度。
違うのは俺と花だけ。
「……今日はもういい。他の使用人にもそう伝えろ。」
「どうされたのですか」
「なんでもない。話しかけないでくれ」
……こんなはずじゃなかったのに。こんなことなら変なプレゼントでも贈ってセンスがないと言われた方がずっとずっとマシだ。
俺は自室の扉の鍵を閉めて、へなへなと座り込んだ。
「…花を買うぐらい、できるだろ」
花、買えなかった。ブルースター。エドマンドが好きなやつ。見た目は知らない。でも、星のようだと言っていた。きっと綺麗なのだろう。
喉が変に鳴った。じわりじわりと視界がにじみ、耳が自分の声のみを拾い出す。それが1人という事実を突きつけてくるように思えた。
コンコン。ドアが叩かれた。
現実に引き戻される。
「……誰だ。今日は来るなと伝えたはずだ」
俺は声が震えないように努めた。
「エドマンドです。」
「使用人としてではなく、あなたの友人としてここに参りました」
「何しに来た?」
わざと冷たく突き放す。
「祝われに来ました。」
…傲慢だ。それが、あまりにもいつも通りで。
でもなぜだか、心の奥が少しだけ軽くなったような気がした。
「ブルースター、買えましたか?」
……きっとエドマンドは全て知った上で来ている。俺がサプライズをしようとしたことも、今日市場にそのためのプレゼントを買いに行ったことも。
もうどうせ、隠しても意味がないんだ、俺は正直に答えた。
「赤いアネモネ買った」
一拍
「…素敵ですね」
偶然にも、店員さんと同じ言葉だった。でもエドマンドの言葉の方が何倍も優しくて温かく感じる。この花で正解なのかもしれない、と思わせてくれる。
「赤いアネモネ、学名アネモネ・コロナリア。ギリシャ語で風という意味があるアネモスが語源となっています。」
淡々と説明を続ける。その声が妙に柔らかくて、本当に使用人としてではなく、友人としていることを感じさせてしまう。
「花言葉、聞きますか?」
こちらが返事をする前に、エドマンドは言った。
「…君を愛する」
音が止まった気がした。
目線が手元の花束に転がる。赤色。青じゃない。
心臓が大きく鳴る。顔がほてりだす。
「私は、ご主人様からそのアネモネを受け取りたいです」
喉が詰まる。頭の中で意味を反芻する。
君を愛する?
「花言葉を知ってるのに?」
「ええ。」
あまりにも静かな肯定。
「くださるのでしょう?違いますか? 」
違わない。でも、これはエドマンドが好きなブルースターではない
「間違えたのに?」
「私に贈ろうとなさる気持ちは間違いではないでしょう?ならば、問題ではないのでは?」
降参だ。エドマンドには勝てない。
俺は、鍵をゆっくりと回した。
黒色の、美しい青年が視界に入る。口には優しげな微笑みを浮かべて。
また泣きそうになる。
いい、泣いても構わない。きっとエドマンドは受け止めてくれる。
震える声で言った。
「……誕生日おめでとう」
エドマンドは困ったように笑って、赤色の花束を受け取った。
「はい、ありがとうございます。」