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月の光が彼女の頬を照らす。

「忘れたくなかったよ」


僕は、深海の底を知った気持ちだった。見えたのは、一瞬。測り切れない大きさに自分の存在など忘れていた。


僕は、執務室を出た。なんとなく目に入った夜の美しさに惹かれ、いつの間にかロビーで立ち尽くすことになった。

今日の夜の海は、波もなく静かだ。本当は、いつもこの風景かもしれないが、忙しなくて気付いていなかった。

夜のカーテンに一人、包まれながら見る海。僕たちは上空を忘れて、深海を覗きに行く。この空だって、同じくらい注目される価値はあるはずだよな。一人、心で呟いた。

結局、この船の目的だとか嘘をつく人間がいる理由もよく分からなかった。そんなに一気に言われても分かるはずもない。ましてや、それが真実みたいな、僕の目的だったとか。勝手に決めないで欲しいところだ。

「おう、珍しいな。子供はいい子でねんねしとけ」

背後からたくましい声が聞こえた。振り向かなくても、それは海軍長さまだと分かった。

「随分とシケた面してんのな」

海軍長さまは隣に腰を下ろした。

「こんな遅くまで任務だったんですか?」

「あたりめぇだろ。この船では幹部みたいなもんだからよ」

「へぇ…」

僕は、言葉が思いつかなかった。脳が疲弊しているのかよく考えられなかった。ただ、意識が海上へ吸い寄せられているみたいだったから。

「お前、本当にシケてんな」

「そんな事ないですよ…」

声は沈んでいくように小さいものだった。

「なんだ、なんか知っちまったか」

僕は、黙っていた。知るには足りない程度の事だったから。

「どうせ今になって分かる事なんざ大したことねぇんだ」

海軍長さまは励ましなのか、僕を哀れに思ったのか。自論を語り出した。きっとこれも、フェレンさんが言った、記憶喪失を誤魔化すための言い訳だ。

「海軍長さまも…忘れているんですか?」

つい、そんな事が口から零れた。

「あぁ?」

怒りに満ちた声だった。けれど、海軍長さまが僕を怒ることはなかった。

「あぁ、お前もその話を聞いたんだな」

「その話ってなんですか…」

「いや、分かるだろ。どうせフェレン辺りから聞いたんだろ」

彼は、知ったようだった。

「目的を忘れてるかどうかの話だろ」

海軍長さまは僕が避けている事柄を躊躇なく、口にした。

「くだらねぇな」

彼は鼻で笑った。さぞ、つまらないとでも言うように。しかし、海軍長さまは唯一嘘をついていないように思えた。

「海軍長さまは船の目的を知っているのですか?」

「なんでそんな嬉しそうなんだよ」

「嬉しいなんて思ってないですよ。それよりも質問に答えてください」

「んなもん、知らねぇって」

「そんな、嘘をつかないでください」

僕は、はやる気持ちを抑えられなかった。だって、海軍長さまは嘘をつかないから。なぜだか、そんな安心感があった。

彼の答えを待っているとき。返ってきたものは、平手打ちだった。視界が一瞬にして、海に変わる。

「嘘じゃねぇよ」



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