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彼の答えを待っているとき。返ってきたものは、平手打ちだった。視界が一瞬にして、海に変わる。

「嘘じゃねぇよ」


え…?

僕はその時、何が嘘なのか否なのか分からなかった。まるでショートした機械のように、海から視界を戻す動作一つでさえも思考が停止し、出来なかった。

ただ、彼の声には悔しさを秘めたような、底知れない強さが浮かんでいた。

「目的なんざ覚えてねぇ。そもそも聞いた記憶も確かじゃねぇ」

その言葉は、フェレンさんが話した事実を違う言葉で肯定しているだけだった。

「あろうがなかろうが、俺らがやれることは一つだろ」

そういって、海軍長さまは立ち上がった。まるで目的を叶えに行くような迷いのない姿勢だった。

「俺の世界破壊はこの船でしか叶えられねぇ。それだけのことだ」

その背中が遠ざかる頃、僕は今更重くなった足を動かした。決して、力強いあの背を追うつもりではないと自分でも分かっていた。疲労なのか、新たな目的が生まれたのか。僕は、今日を終えるため、部屋へ戻った。


「きっと明日には、街へ着くだろう」

フェレンさんは倉庫から荷物を運んできたところだった。

「この部屋にそんなに荷物を置いてどうするんですか」

「この荷物は次の任務で使うんだ。これは君の分だよ」

「えー!俺一人でこんなですか?」

「しょうがないだろ、彼はもうこの船を降りるんだから。二人分の任務を君一人でこなしてもらうんだから」

ネクトとフェレンさんは、荷物運びに勤しんでいた。僕は、二人が持ってきた荷物を開封したり、まとめる手伝いをしたりしていた。いつもは二人と同じ作業をしているはずだった。それが少し違うのは、自分はもうクルーの一員ではないからだった。

「ほんとに降りちまうのかよ」

背後でネクトが力無く聞いてきた。

「もちろん、僕は決めたんだよ」

僕は、力強く言い切った。ネクトは、僕の言葉が本心かどうか顔色を伺っていた。でも、僕の変わらない姿勢に諦めたような表情をした。

「そっか。この船にお前の目的は見つからなかったか」

僕は、海軍長さまと話した翌朝。室長であるフェレンさんにこの船を降りる決断を伝えた。もう、海軍長さまにもネクトのお兄さんにも、ネクトにも全員に知れ渡っている事実だった。

「目的は見つかったんだよ。それがたまたま船の外だったってだけだよ」

僕は、色んな人と話して答えを見つけた。この船の目的とか自分の元々の目的とか。どれも、今の自分には必要のないものだったと気付いた。この船で、目的を見出すことは出来ないと結論づいた。

「船に乗っていれば新たな目的だって見つかるかもしれないのに」

「それはそうかもだけど…」

「ほら、だからもうちょっとこの船で仕事しようぜ」

ネクトは、楽しそうに話す。まるで、大航海の夢でも見ているようだ。でも、僕は目に映る海を見つめながら言った。

「僕が探していたのは、彼女だけだったんだよ。深海に行く理由にはならないよ」

僕は、僕自身を憐れむように笑った。もし、それが本当に僕の目的だったとして。僕もまた、他の人と同じように忘れてしまっていて。そんな繰り返しをするためだけに深海に行くなんて、僕はごめんだ。

「ネイもいい加減、割り切ったらどうかな。彼の邪魔をしたらいけないよ」

「そんな、邪魔なんてしてないですよ!ただ…」

「ただ…?」

僕は言葉の先を待った。ネクトの声色が沈んでいくような気がしたから。

「寂しいなって」

彼の気持ちは、何よりも価値のあるものだった。


「街についたぞー!」

そんな船内に響くクルーの声。僕の航海の終焉を告げる鐘がなったみたいだった。なんだか、短い夢を見ていた気分だった。もう、夢の内容も深く覚えていない。ただ、夢見心地を味わっているようなぼんやりとした印象が僕を包んでいた。忘却という人類の壁が深海の謎を明かせない理由なのかもしれない。でも、そんなことはどうだっていい。僕の目的は、ここにはもうないのだから。

人が深海に行く理由なんて、初めからないのかもしれない。本当はもっと、僕にも別の目的があったのかもしれない。僕の探し人が、その答えを握っていたかもしれない。それとも単に、僕の忘却かもしれない。人間は、そんな無意味な繰り返しに生きているのかもしれない。


深海には何があったのだろうか。

無から有を生み出す人間が、何を求めたのだろうか。

僕はもう二度と思い出すことはないだろう。

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