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ぎゅうぅ、と胸が締め付けられたのは、疑問が浮かぶのとほぼ同時だった。
柊は、本当にあたしを待たせるつもりは無いみたい。
半信半疑だった検証が見事成功したのだ。嬉しいけれど、なんだか癪だ。
朝、弱いくせに、何時に起きたんだ。
あたしが時間通りに来なかったら、どれだけ待つつもりだ。
でも、どれもこれも、イコール好き!って稚拙な答えにしか結びつかないから、癪だ。
……そうだ。
ちょうど今、柊の恋人はスマホらしいので、何か文字を送ることにする。
《ひいらぎ、すき》
言いたいことは沢山あるけれど、単純な気持ちを指先に乗せる。取り急ぎ打ったから、全部平仮名だけどお構い無しに送信した。
ドキドキと変な鼓動があたしを囃しつつ、柊がどう出るか、その様子を観察する。傍から見れば、あたしはすごく気持ちの悪い女だ。芽依に見られたら確実に引かれる。
ほんの5メートル先にいる柊は、おそらく、確認したと思われる。でも、いつも通りの無表情だ。これは間違いなくスルーされるだろう。
“ ? “で終わらなければラリーが続くはずもない。付け焼き刃の作戦は失敗だ。
あとで、” なにあのLINE “ってバカにされるんだろうなー……。
今後の予想を立てていると、画面が更新された。
《おれもすき》
お返しに届いたのは、あたしの真似事とも取れる中身だった。
たった五文字を目で抱きしめる。5メートルの物理的距離がある男に、好きだと直接言いたい衝動に駆られる。
ふぅん。柊、あたしのこと好きなんだ。
そっけない” ふぅん “を照れ隠しにして、画面を閉じ込める。でも、勝手にムズムズしちゃうし、ニヤケようとするから、表情筋が強ばって、唇がへんな形になっちゃう。
柊砲は、いつも着弾点が悪すぎる。むにっと頬を摘んで、なんとか平静を保った。
それにしたって、いまの柊は、” 好き “を言う時の顔じゃなかった。適当に返事をしたのか、それとも、柊 碧音には、ニヤける、とか照れるっていうパターンはないのか。……さてはムッツリだな?
隠しごとは、暴きたくなるのが人間の性《さが》というものだ。なので、今日のあたしこミッションに、柊の表情を引き出すってことがプラスされた。
かわい〜く” おまたせ、柊♡”とか言ってみる?柊、喜ぶかな?それとも、きしょ!ってドン引きするかな…
「おねえさん、ひとり?」
にやけタイムに突入していたあたしの視界は、突然、誰かによって遮られた。
せっかく、柊を見てたっていうのに、酷い障害物だ。香水付けすぎなのか、すごく臭い。
「ねえ、だから、ひとり?」
むむっとしていると、ようやく、その障害物があたしに声をかけていることに気づいて「え、あたし?」と、思わず自分を指差す。あたしに声を掛けているらしいその人は、スーツ姿の若い男性だ。
そういえば……待ち合わせと同じくらい、この場所はナンパ激戦区という事実を、いまさら思い出す。
白山小梅
12
「え……っと、一人だけどひとりじゃない」
「は?」
男の人は、きょとんと目の付近を白けさせる。まずい。本当のことを言ったのに、ポエマーみたいな返しになってしまった。変な女に思われたに違いない。
間違いではないけれど、これはこれで恥ずかしいものがあるので「ちが、待ち合わせ中!」と弁明し、待ち合わせ相手の柊を見遣る。
すると、何故かほんの5メートル先にいる対象者と、しっかりと視線が重なった。まさか見られているとは思わずに、ひゅっと喉が鳴る。
悪いことをしている訳ではないけれど、とても居心地が悪い。
「待ち合わせ?ここ、人多いからもうすこし分かりやすい場所あるよ、案内するからこっちおいで」
「いや、……そういうわけには、」
答えを考えあぐね、気持ち悪い笑顔を貼り付ける男と彼氏を交互に見比べる。
この男、最初から障害物として無視を決めてやるべきだった。
そもそも、柊を確認した瞬間” 早くない!? “って問い詰めるべきだった。あたしの小さな矜恃など、振りほどくべきだった。
あくせくするあたしは、もう一度柊を求める。
……しかし、柊は、無だ。
仮にも彼女がナンパされているっていうのに、決して焦ることも無く、かと言って苛立つことも無く、少し首を傾げて、気怠い瞳で見つめるだけ。
ちょっとは焦ってくれてもいいのに、《おれもすき》だって、やっぱり適当に応えただけなの?
咎めるように柊を見つめても、なんのリアクションもない。
やっぱり、でも、幾つもの後悔を脳内で行き来させ、あるひとつの仮説を見出した。