人間は固定概念という柵に囚われるのが随分と好きなようだ。
自身の発言をもろともせずに、どこの誰が唱えたかも分からない固定概念に思考を譲ってしまう。そのため、自由な現社会では「自由」な発想能力を持った人間が貴重だ、と、これもまた社会に蔓延る固定概念に過ぎないのかもしれない。
生まれつき持った珍しい能力を「個性」だ、と言うらしいが、それらを持つ各個人の感想を聞いたことがあるだろうか。
「嬉しい」「悲しい」「消えたい」、賛否両論だろうが、比率化してしまえばこれは後者2つの方が圧倒的多いだろう。
しかし、他者である持っていない人間からすれば、個性を持っているだけで羨ましい、普通と違って欲しい、自分も、自分もと願望を醜い口から発するのみだ。
自分は知らなかった。それが、彼ら人間の「夢」に繋がっているものなのだと。
「皆さんは「蜃気楼」という現象を知っていますか?なんでも、密度が異なる大気の中で光が屈折して虚像が見える自然現象で、春から秋にかけて見られることが多いものらしいですが…」
陽光に照らされた眼鏡が傾くと共に、右手の人差し指でクイッと効果音が付く動作で元の位置へ戻す。
「生憎、私は一度も見たことがありません。なのでこの言葉は置いておいて、今の天気を美しい言葉に変換してみましょうか」
自分が振った話なのにも関わらず、見たことがないという面白みのないオチを付け、話の区切りを自身で付けることによって無かったことにし、そのまま再度話を続行する彼。
教卓に身を置いていた彼は、青い窓の外に広がる景色を望むために再度、付近に足を運ぶ。
「先程まで晴れ渡っていた空が泣きそうな状態になっています。今にも雨が降り出しそうなこの天気のことを「雨催い」といいます。覚えておくと良いでしょう」
前の席ながら幸いにも一番窓際の席だったので、彼が見ている景色をそのまま視界に収めてみる。
彼自身が見ている景色が曇りのように濁っているならば、今僕が見ている景色を当然、彼には綺麗に見ることが出来ないだろう。
雨が降る前には、どうしても外気温が肌寒くなる程度に下がる傾向がある。
教卓の前に戻り、引き続き話を始める彼を感覚で追いながら、視線はそのまま綺麗な灰色へと向け続ける。
自身の生まれ持った色を隠してくれる現在の空色を、小さな頃からどれだけ羨ましがっただろうか。けれどそれは、残念ながら人々にはあまり好かれない色らしく、やがて、雨が降ることを指し示すこの雲を「嫌い」だという。
誰になんと言われようが、僕は昔からこの色が好きだった。
__ずっと、そばで見守ってくれているような、そんな優しい色をしているその色が。
「さて、本題に入るんですが、皆さんに紹介したい人が居ます。どうぞ」
コメント
2件
曇りは自分も好きよ。紫外線がどうこうだとかほざかれるけど涼しいし、何なら寒いくらいな温度にしてくれるのがめちゃ好き。雨催い覚えましたー!!
眼鏡っつったら緑髪のお方しか出てこんよ......