テラーノベル
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―スパーーーンッ!―
ボールが再び海へ飛んで弧を描いて暗闇に消える、ようやくフネが顔を上げ、桜を一瞥する
その目は穏やかだが、まるで心の奥まで見透かすような鋭さがあった
「大丈夫ですよ、ボールは水に溶ける素材ですから」
母の声は落ち着いているが、あきらかに桜に不満がある様子だった
「結婚と聞いてショックでしたよ、恋人の存在すら母に知らせることが出来ないなんてね」
と、母は持っていたドライバーを次はアイアンに変えた、相変わらず母の唯一の趣味はゴルフだ、趣味に凝り過ぎてこんな自宅に母専用の打ちっぱなしゲートを作ったぐらいだ
母は昔からいつも嫌なことがあるとここにこもる癖があった
「あなたのお爺様の、そのまたお爺様から受け継いだ帝国がこのままでは私の代で無になってしまうわ」
クルリと振り向いてフネが桜に言った
「桜!お前にはこの土地に責任があるんですよ、都会で無駄に過ごすのもいい加減にしなさい」
―スパ―ーーンッッ!―
母の打った球が綺麗な弧を描いて真っ暗な海の向こうに消えた、アイアンを芝生に立てて母が振り向いて桜を見つめる、桜は一瞬言葉に詰まるが、意を決して口を開く
「好きで跡取りに生まれた訳じゃないわっ!!」
桜は両手をひろげて大声で言った、三年間一度もここへは帰らなかった、それは母からこの言葉を聞きたくなかったからだ
三年・・・母と距離を置いても何一つ二人の関係が変わっていなかった事が桜には腹立たしかった、もうその声は止まらなかった
「それなら私の他にもっと子供を産めばよかったじゃないっ!ここで家業を継ぐ子供!男でも!女でも!結婚相手もママが決めた人で、ママが決めた通りの人生を生きる、ママの言いなりの子供!でも私は違うわっっ!」
「桜!この旅館は皇室御用達の由緒正しい旅館なのよ!皇室御用達になるには宮内庁が厳選に厳選を重ねた、警備・衛生・文化財保護などの条件をクリアした日本最高の施設なんですよ!どうしてそれをお前は誇りに思えないのっっ!」
母、フネの目は細まり、ますます眉間にシワが寄る
「アプリを作る仕事はママには理解できないでしょうね、でも私はジンさんの会社でアプリ開発をやることが夢だったの!」
母も怒鳴り返す
「それはお前個人の小さな幸せでしょうっ!山田家の長女として生まれたからには、この屋敷、旅館、山田家一族の淡路島の歴史を途絶えさせてはいけません!お前は夢や幸せと言って、その責任からただ逃げてるだけですっっ!」
「やっぱり、ママとは分かり合えない!何度話し合っても平行線のままよ!」
握りしめた桜のこぶしが震える
「ママ・・・私ずっと寂しかった!小さい時からママはいつも「旅館」「旅館」、旅館の女将ではあっても 私のママでいてくれたことは一度も無かったわ! そんな小さい頃の寂しい時に私の遊び相手になってくれたのが「アプリゲーム」なの!」
桜の目に涙が滲み、とうとう頬に一粒涙を流した
「ゲームは私の心を癒し、想像の心を育ててくれたわ!私はもともと理系なの!人に接するサービス業よりも開発者なの!アプリ開発は私の生き甲斐なの!誰に何と言われてもこの仕事を辞めるつもりないわ!」
そう言い残して、くるりと踵を返して桜は去って行った
.:・.。. .。.:・
―スパーーーンッ!―
やがて再びフネはショットを打ち出した、ボールが次々と海へ飛んでいく、何度か打って息が切れた時に小さくポツリと呟いた
「やっぱり育て方を間違えたわ・・・私は認めませんよ、桜・・・」
.:・.。. .。.:・
コメント
2件
山田旅館を引き継いでいくのは大変なことよね💦桜ちゃんと不祢さんの思いが交わることはないのかなー、難しい問題😓 この先どうなる⁉️楽しみです!
あら、二人の魂の叫びが素敵🤩 女のプライドのぶつかり合いね💢こりゃ楽しみだ〜🤭