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────── リアル鬼ごっこ
※ 王様(あっきぃ)
王子(しおん)
一つの提案
現在、ちぐさの住む王国は、すでに30世紀を迎えていた。
建国以来、この国では目立った争いごとや戦争が起きた例(ためし)が無かった。
それを起こした者には極刑が下されることを全国民が知っていたため、この国は長い間平和を保ってきたのだ……。
しかし、近頃の王国は乱れていた。
それは年代の王がこの世を去り、次の150代目の王が即位してからである。
年代が早くこの世を去ったために第150代目となった王の年齢は弱冠21歳。
自分勝手で我儘、その上、優柔不断で何一つ満足にできない王様であった。
寧ろ2つ年下の弟、(王子)の方が国王に向いていると、陰では噂されていた。
王様が何も決断を下さないために、窃盗、強盗、放火、挙句の果てには殺人すら起きるようになっているのが現状だ。
しかし、王様はそんな事には全く興味を示さず、対策を考えようともしなかった。
皇后(王様の母)がこの世を去ってからはますます酷くなるばかりで、何の危機感も持たず、ただただ優雅に暮らしていた。
そんな王様についたあだ名が”馬鹿王”、まさに全国民が納得できるあだ名だった。
しかし、王様に向かって、誰1人意見する者はなかった。
無論、実の弟もだ。
なぜなら、この王国では、王様に反発、もしくは、王様を中傷する者は、直ちに処刑という、恐ろしく厳しい法律が定められていたからだ。
と言っても今までの王は自分のことより国のこと、治政も何一つ問題なく、国民はそんな法律があることさえ、忘れていた。
当然、王様に逆らう者も居なければ処刑になった者もいない。
本当にどの国も羨むほどの平和な国だった。
そんな馬鹿王についている側近の者も、顔では王様のご機嫌取りをしながら、(必ずこの国は滅びる)と思っている者が殆どで、王様の行動に頭を悩ませていた。
だが困ったことに、ごく少数ながら馬鹿王に絶対の忠誠を誓う者がいた。
年代から長く仕えている年寄りの側近だ。
彼らが王様を甘やかしているのは事実であった。
王様の知らぬ所では忠誠を誓う者とそうでない者との間で言い争いが絶えなかった。
そんな日々が毎日のように続き、王国滅亡の日も遠くはないと言われていた。
そんな中、王様の私情とも言える一つの馬鹿げた提案がなされた。
12月15日、午前9時半。
ここから全てが始まった……。
ワインの入ったグラスが勢いよく壁に投げつけられた。
「王様……どうなさいました?」
忠誠を誓う側近が1歩近づいて王様に尋ねる。
王国宮殿の建物は目を見張る豪華さで、その周りを先のとがった頑丈な鉄の柵が取り囲んでいる。
さらに数百名の衛兵がにらみをきかせているので、いくら金銀財宝が眠っていたとしても、強盗や泥棒が侵入するのは不可能であった。
許可なく入れるのは特別な人間だけで、一般市民が入ることはなかった。
最近、王様は非常に機嫌が悪かった。
側近の質問にも無反応で、居合わせた大勢の家臣たちは顔を見合せ、首を傾げていた。
王様は玉座から立ち上がり、後ろ手に固く腕を組むと、眉間に皺を寄せながら行ったり来たりの繰り返し……。
相当苛立っているようだ。
「王様、落ち着かれてはいかがですか?」
先程の側近が王様を宥める。
言われるやいなや、王様は鋭くにらみつけ、
「落ち着け?これが落ち着いてなどいられるか!」
と強い口調で言った後、再び行ったり来たりを繰り返した。
側近が思い切り腰を低くして訳を聞いた。
「一体どうなさったというのですか?」
王様はピタリと足を止めて、宮殿の壁に飾られている先祖の肖像画を眺めだした。
ズラリと並んでいる119枚目の肖像画は、いずれも今の馬鹿王そっくりだった。
先祖の肖像画を初代からなぞるようにゆっくりと眺めていた王様は静かに口を開いた。
「じい、私は何代目の王だ?」
いまだ肖像画を眺めながら、一番の年長者<じい>に質問した。
じいは1歩近づき、苦笑いをしながら、
「これは王様、おたわむれを。そんなことは誰でも知っておりますよ」
「そうか……それでは我が一族の姓も存じておるな」
じいは王様が何を言わんとしているかさっぱり分からなかった。
じいは質問された通りに答えた。
「王一族の姓は初代から変わることなく<佐藤>でございます」
じいは佐藤を強調した。
王様は一つ頷き、
「そう……我が一族の姓は佐藤じゃ」
肖像画を眺めながら王様は続けた。
「私はその初代から受け継がれてきた姓に誇りを感じている」
「存じております。私どももそれは同じでございます」
「それがどうだ……。今我が国にはその<佐藤>姓がどれだけいるか、知っているか?」
じいは自信を持って答えられず、戸惑いながらもおおよその数を述べた。
「確実な数は分かりませんが……約500万を数えると言われております」
その数を聞いて王様は肖像画から目をそらし、今度は下を向いてしまった。
「じいはそのことに何も感じぬか?」
じいは戸惑いながらも、
「素晴らしいことではございませぬか!それだけ王様の仲間が大勢いるということでは……」
「違う!私はそれが気に食わんのだ!」
王様は興奮していた。
じいはそんな王様を宥めるように、
「どうしてでございます?何がお気に召さないのでございましょう?」
王様は拳を握り、それを左の手のひらに打ちつけながら、
「私は嫌なのだ!同じ姓を持つ人間がこれだけいる事が不快なのだ!それは同じ人間がいるのと同じだ!<佐藤>姓を持つのは私だけで良いと、じいは思わぬか?」
王様は真剣な眼差しでそう尋ねた。
その言葉を最後に、王様とじいの間には長い沈黙が訪れた。
実際、この国で佐藤姓を持つ人間は実に500万人を超え、国中で最も多いとされている名字である。
建国間もない頃にはそれ程多くはなかった。
しかし、世代が受け継がれていくと共に膨れ上がり、今では王国の20人に1人が佐藤を名乗るのが現状。
そのことに対し、王様は腹を立てていたのである。
それを知った他の側近たちは馬鹿馬鹿しいと呆れ返っていた……。
王様の一言が長い沈黙を破った。
「とにかく、私は許さんぞ!同じ姓を持った人間は必要ない!」
それはあまりにも無理な意見だった。
しかし、王様は本気だった。
じいはその意見に対してこう述べた。
「しかし、王様……それは仕方のないことですぞ。今更どうすることも出来ぬ事実……」
それを聞かされた王様は再び行ったり来たりを繰り返し、急に、立ち止まった。
「皆の者!国中の佐藤という名字を減らす方法がなにかないか?」
しかし……。
側近たちら目を身交わし、ため息をついて、”やれやれ”という表情を浮かべていた。
国王の弟ですら目を伏せたままだった。
王様の提案はまるで、駄々を捏ねている、我儘な幼稚園児の言い様にも思えた。
王様は続けて呼びかけた。
「どうだ?よい方法が浮かんだ者は今後、重く用いることを約束し、更に恩賞も授けるぞ」
王様は側近一人ひとりの顔を見回しながら言った。