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一通りメンバーについての質問が終わり、編集者が満足げに頷いた。
「なるほど…本当に、素敵なメンバーさんたちなんですね…!」
そして、手元の資料に目を落とし、満面の笑みで、最後の、そして最悪の質問を口にした。
「それでは最後に、お二人にお伺いします。ファンの方々の間では、『ゆり組』は数あるコンビの中でも特に投票率が高い、『安定シンメ』と言われていますが、それに関して、お二人はどう思いますか?」
その言葉が響いた瞬間、渡辺の全身が、こわばった。
安定?揺るぎない絆?どの口がそんなことを言うんだ。俺たちの、今のこの状況も知らずに。腹の底から、黒い感情がせり上がってくる。今まで必死に貼り付けてきた笑顔の仮面が、ミシミシと音を立ててひび割れていくのが、自分でもわかった。
何か、言ってやりたい。この綺麗事を、全てぶち壊すような一言を。そう思った渡辺が、口を開きかけた、その時だった。
スッ、と隣から、鋭い視線が飛んできた。
見ると、宮舘が、真一文字に結んだ唇のまま、強い意志を宿した瞳で、まっすぐにこちらを見つめていた。
その目は、こう語っていた。
――翔太、やめろ。今は、耐えろ。
それは、怒りでも、非難でもない。ただ、プライドを賭けて、この場を乗り切れという、相方からの無言の、そして必死のメッセージだった。その真剣な眼差しに、渡辺はハッと我に返る。そうだ、俺たちは、Snow Manだ。ここで私情を挟むことは、許されない。
渡辺は、せり上がってきた言葉を、ぐっと飲み込んだ。
マイクを向けられた宮舘が、完璧なロイヤルスマイルで答える。
「…そう言っていただけるのは、本当に光栄なことですね。ファンの皆様がそう思ってくださる限り、俺たちはその期待に応え続けなければならない。それだけです」
完璧な、非の打ち所のない答え。その声を聞きながら、渡辺は、もう一度笑顔の仮面をきつく被り直し、力強く頷いてみせた。
「…そうですね。舘の言う通りです」
こうして、地獄のインタビューは、ギリギリのところでプロフェッショナルなまま、幕を閉じた。しかし、二人の心に残った傷と、燻り続ける火種は、より一層、深く、濃くなっていた。