【妖精さんの声。】
文豪ストレイドッグス太宰、中也、十五歳を見て、書いてみたかったお話。
死ネタ⚠
十五歳時の小説読んでくれた後の方が面白いかも…!
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*太宰Site*
風が吹き付け、髪が煽られる。暖かさを感じさせる夏風は、傍に植えてある木の葉を空に浮かせた。
「………」
私は只々後ろに体重をかけて、柔らかい草の絨毯の上に座っている。
「あっ、そうだ」
何かに気付いたように、私は後ろへと少し顔を向ける。
「ねぇ中也」彼に、声をかけた。
「君の為にワイン買って来たのだよ」
そう云って、懐からワインを取り出す。
「ほら、何時の日か君が云っていたペトリュス」コトンっと、少し硬い地面に置く。
「高かったのだよ…」
溜め息混じりの声でそう云った私は、もっと後ろに体重をかけ、殆どが仰向けに寝転がっているような状態になった。
暫く沈黙が続く。
何となく、意地悪をしてやろうと思った。何時もそうしてたから。
「矢っ張やめた」ワインをぱっと取る。
「如何せ君の事だから……」
「酔い潰れるまで飲む気だろう?」
再び後ろに顔を向ける。小さく笑みをこぼしながら、私は云った。
「だからだめ」
その瞬間。
風が鳴く音と原木から分離される葉の啜り音が聞こえた。それが耳に響くと、後ろから風が吹き付けてくる。
「!」
ワインを守るように、躰に抱き寄せる。何かが陰を作った。上の方へと視線を向ける。
其処には____
中也の帽子が飛ばされていた。
何もなかった草原に強く踏み出された足が現れる。飛び上がる程の勢いだった。先程までの風とは反対の空気の圧が頬を撫でた時、自分の躰が自然と動いていたことに気付いた。そして目の前に、中也の帽子があった。
手を伸ばす。
帽子を掴み取る。然し地面に着地する際に、其処は斜面となっていて、シュッパイどころか滑って尻餅をついた。
「いだっ!」
「ったー…」腰を撫でる。
ふと、後ろを向く。私はニコッと微笑んだ。
「ちゃんと無事だよ!」
ほらっ…と、彼の帽子を後ろの方へ見せるように、手に持つ。
「今日は風が強いから」ゆっくりと立ち上がり、外套に付いた葉っぱや土を手で払う。
「君の帽子は飛ばされやすいねぇ」彼の方へ進みながら云った。
「気を付けてよ?」前に立ち、足を止めて私は云う。
彼の帽子を優しくかぶせた。
彼からの返事はなにもない。
当たり前だ。
再び沈黙が続く。私は一つのため息を付いた。何か嫌なことがあって付くような溜め息ではない。只、仕方ないなど…そんな事を思った時に付く溜め息だった。
然し、私は君ほど器用ではなかった。
何処までも不器用だ。
「____風は強いけど…」
空を仰ぐ。時折風に流される葉っぱが視界に入りながらも、空は雲一つない青空だった。
「今日は佳い天気だ」
置きっぱなしだったペトリュスを掴み上げる。「其れに免じて…」
「此れは君にあげる」
同じように奥の方へ、ペトリュスを置く。
私は背を向け探偵社へと歩いて行った。
一呼吸をして、口を開く。
「飲みすぎないでよ、私は云ったからねー」
後ろへ手をヒラヒラと振りながら、前へと歩いていく。
夏風が髪をなびいた。
「皆おっはよ〜!」
扉を開けるなり、私は笑顔を作って這入りながら云った。
「何がおはようだ!午前中何をしていた!!既に昼休憩に差し掛かっているぞ!」
何時ものように、国木田君が【理想】と書かれた手帳を持って、私に怒鳴り声をあげる。
視線を時計の方に向けると、国木田君の云う通り、昼休憩の時間帯だった。
「あっはは〜ご免ご免ー」
同じく何時ものように、笑顔で私はあしらう。
「たくっ…」
溜め息混じりの声でそう云うと、彼は自席へと戻って云った。国木田君の後ろに続き、私も自席へ向かう。
「太宰さん、おはよう御座います!」
資料を手に取りながら、敦君が私に話しかけて来た。
「お早う敦君、」笑顔でそう答えた。
席につく。
「太宰さんまた自殺しに行ったんですか?」
私の方に顔を向けながら聞いてくる敦君に、机に両手を置き、体重をかけながらのんびりとした状態で「んーちょっとね、」と、曖昧に答えた。
「……?」敦君が首を傾げる。
「それにしても、今日は天気が良いですね」
後ろの窓を覗きながら敦君は話題を変えた。
「そうだねぇ…」ぐいーんっと躰を伸ばしながら、再び曖昧に答える。
「自殺日和だとか云って、川に流れに行く気じゃないだろうな?太宰」国木田君は報告書をまとめながら、キランっと眼鏡を光らせた。
「少しは同僚を信用し給えよ国木田君」
「今、貴様を信用する要素は微塵もない」
「辛辣〜」
「あはは…」私と国木田君の会話に、敦君が苦笑いをする。
「………」
後ろの窓を眺める。夏の日差しが眩しかった。
「……でも、今日は本当に天気がいい」
机に頬杖をかく。
「天気が佳すぎて、妖精さんの声が聞こえてくるよ」
「……ようせいさん?」
敦君が私の言葉を聞き返す。
私は瞼を閉じた。
あの日の事は何時になっても鮮明に思い出す。風のぬくもりも、爽やかな夏の匂いも、青白く透明な空も、それと同じ。
君の澄んだ瞳も____
『いい天気すぎて妖精さんの声がきこえるなあ』
『巫山戯んな!俺の声だ!!』
クスクスっと笑う。其れに中也君は顔をしかめた。
その日も少し強い風があった。
*中也Site*
太宰が俺の方へ体重をかけてくるように、俺も彼奴に体重をかけて座っていた。
「あっ、そうだ。ねぇ中也」
少し声を弾ませて、俺に話しかけてくる。
「君の為にワイン買って来たのだよ」
『本当か!?』
「ほら、何時の日か君が云っていたペトリュス」
そう云って、太宰は懐から取り出したワインを置く。俺はそれを手に持ち、空にかざした。
『本物じゃねぇか!』
その事実に今度は俺が声を弾ませる。
「高かったのだよ」そう云って、太宰は先程よりも強く体重をかけてきた。
然し俺にとってはどうでも良かった。ペトリュスが眼の前にあるという事が嬉しかったのだ。
「矢っ張やめた」
太宰の声が響く。
その瞬間、ワインが持っていた手から消えた。
『あ”!!』
そして瞬時に太宰が取ったのだと解る。
『返せ___』
「如何せ君の事だから…」
「酔い潰れるまで飲む気だろう?」
『ぐっ……』太宰の言葉に口をつぐむ。事実を述べられて、俺は何も云えなくなった。
「ふふっ…」誂うように太宰が微笑する。
「だから、だめ」
俺の方に顔を向けて、太宰は云った。
『____…』
その瞬間。
風が鳴く音と原木から分離される葉の啜り音が聞こえた。それが耳に響くと、真正面から強い風が吹き付けてきた。
『っ…!』
顔を守るように腕を構える。フワッ…と帽子が浮かび上がる。
『!!』
帽子が飛んだ。自分では取りに行けない。
その事に、強い絶望感を感じた。
『あ……』思わず声が漏れる。
すると、背中に感じていた重みがなくなる。何かが影を作った。思わず眼を見張る。
其処には____
太宰が風に流される帽子を、パシッと掴む。
日光と重なったせいだろうか。その背中から、何処か眩しさを感じた。
「ととっ……うわっ!」ズルっと太宰が滑る。
「いだっ!」勢い良く尻餅をつきながら、太宰は呻った。
『あっ…だ、だざい……』
太宰は何かに気付いたように此方を見ると、ニコッと笑顔を浮かべて云った。
太宰が掴み取った俺の帽子を、判りやすいように見せた。
小さな風が頬を撫でる。其の言葉が、何度も何度も頭の中で木霊した。妙に鼓動が波打った。
『だざ「今日は風が強いから___」太宰が俺の言葉を遮る。
「君の帽子は飛ばされやすいねぇ」
俺に近付いて来て、眼の前に立ち止まって云った。
「気を付けてよ」
ある一つの事実を突き付けられ、愁いさに包まれた。其れを隠すように、俺は太宰から視線をそらした。
太宰は、優しく俺に帽子をかぶせる。
『____…』
この感情の名を教えて欲しかった。きっと、太宰なら知ってる筈だ。
それでも、これは云わないといけなかった。
口を開く。
『悪ィ…ありがとな』何処か声が震えているような気がした。
太宰が小さく溜め息をつく。
「風は強いけど、今日は佳い天気だ」
そう云った後、太宰は俺にペトリュスを渡す。「其れに免じて____」
「これは君にあげる」
笑みを浮かべながら、太宰は云った。
ワインを受け取る。スリっ…と瓶の表面を親指で撫でた。
『………』
草原を踏み進む音が耳に響く。太宰が歩いて行っているのだ。『!!』
『太宰…!』
「飲みすぎないでよ、私は云ったからねー」
俺の方へ手をヒラヒラと振りながら、太宰は云った。
自然と笑みが溢れる。
お互い…
あの日の事は何時になっても鮮明に思い出す。風のぬくもりも、爽やかな夏の匂いも、青白く透明な空も、何か共感を思わせるような手前の雰囲気も。
『いい天気すぎて妖精さんの声がきこえるなあ』
『巫山戯んな!俺の声だ!!』
クスクスっと莫迦にするように彼奴は笑う。其れに俺は顔をしかめた。
その日も少し強い風があった。
瞼をあける。彼もまた、何かを思い出しているようだった。
風がなびく。
彼の姿が忽然と消えた。
ペトリュスの背後____。
T.NAKAHARAと掘られた其の墓石には、一つの黒帽子がかぶせられていた。
コメント
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うすうす気づいてたけどやっぱ中也タヒんでるよねー
今気付いたけど普通に中也の名前のスペル間違ってたわ(笑) まぁ皆何となく察するだろうし、直さなくても良いよね!?(圧)