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エトワールには内緒にしていることが一つだけある。


「……何だこれは。システムウィンドウ……?」


この世界にきて、初めてそれは目の前に現われた。

半透明のゲームの画面のようなもの。システムウィンドウと書いてあり、他の人間には見えないと言うことを。

エトワールが来て、此の世界が完全にゲームの世界だと言うことを知ってから、そのウィンドウについても説明がつく気がした。俺は、エトワール曰く攻略キャラで、その中でも人気キャラだという。

エトワールの推しキャラという奴であり、少し浮かれていた時期もあった。そうして、紆余曲折えて、今のリースをエトワールは受け入れてくれたわけだが。


「あのね、リース。リースってユニーク魔法使える?」

「ユニーク魔法?」

「え、知ってるよね」

「ああ、勿論だ。だが、何故いきなりそんな話を?」


だからこそ、そんな話をいきなり振られるとは思わなかった。一瞬、エトワールじゃないのかと疑ってしまった自分を殴りたいほどに。


(何故、このタイミングでユニーク魔法の話なんだ? 何か、関係あるのか?)


先ほどまで、この部屋に誰かがいたと言うことは分かった。それが、俺の嫌いな奴なんだろうなと言うことも直感で。だが、それに触れずに、エトワールの機嫌を損ねないように努めた。俺自身が大人にならないことには、エトワールに振向いて貰える確率が下がるからだ。

そんな私情も混みだったが、俺はエトワールの方を見る。俺を試しているような、それでいて、期待の籠もった瞳を向けられて、俺はどうしたものかと考えた。

システムウィンドウ。そこには、俺のユニーク魔法が書いてあった。


【皇太子リース・グリューエンのユニーク魔法:覇者 防御無視の剣で敵を切り裂くことが出来る】


全く馬鹿馬鹿しい話だった。使える回数と、条件もそこに提示されているため、むやみやたらに使えないと言うことも分かった。そのため、使えないに等しい。

そう分かっていたから、俺はユニーク魔法は持っているが、使えないと言うことをルーメンにだけ話した。それがどう流れたかは知らないが、皇太子はもの凄いユニーク魔法を持っていると噂が囁かれるようになっていた。ルーメンは言っていないと言うから、俺は彼奴を信じたが、噂の出所は分からずじまいだ。

そんな、噂通りのユニーク魔法なのだが、一度も使ったことがなかった。きっとこれは、ここぞと言うときに使うものだと、直感していたからだ。

だから、今回俺はどう答えたものかと考えた。

本当のことを言えば良いのだが、あの噂のように何処からどう広まるか分かったものじゃない。だから、愛しの人を前にしてもそれをいうかためらってしまったのだ。


「そ、それで使えるの? 使えないの?」

「それは、今聞く話なのか?」

「うん。だって知っておいた方が良いじゃん。まあ、人にべらべら話せるようなものじゃないかもだけど、今後のために、参考に!」

「さ、参考にって……テストの対策みたいな」


是が非でも俺のユニーク魔法を知りたいようだった。

心は痛むが、ここは、言わないのが吉だと思う。


「俺は、ユニーク魔法を使えない」

「え?」

「えって、何だ。教えただろう。もう良いだろう……」

「え、いやいや嘘でしょ!? だって、ブライト言ってたもん。リースは使えるって……ああ、断言じゃなかった。使えるらしいって言ってたのに。え、え? 嘘でしょ?」


エトワールの反応が予想外のもので、本当に良心が痛む。そこまで、過剰に反応されると俺も俺で、どんな風に返せば良いか分からなかった。

エトワールは俺が使えることを当然だと思っているのだろう。確かに、皇族で、未来の帝国を背負っていくものとあれば、一つや二つ……使えなければ、そう思われているのだろう。


「え、本当に使えないの? 微塵も?」

「何でそんなにショックを受けているんだ。受けるのはこっちだが……」

「でもでも、だって、リースだよ?」

「俺は使えて当然みたいな、その顔やめてくれ。傷つくだろう……」


全くその通りだ。言い返す気力も無い。


「使えないわけじゃないのだろうが……俺は、俺自身のユニーク魔法を把握していない」

「そ、それの方が意味分からないんですけど」

「俺もよく分からない」


やはり本当のことを言うべきだっただろうか。こんなに残念がられると、俺も傷ついてしまう。だからか、一応使えるかも知れないと言うことを混ぜて言う。そうすれば、また意味が分からないなど文句を言われてしまった。

何故そんなに切羽詰まったように言われないといけないのか。


「そんなに必要なのか? ユニーク魔法が」

「え、ああ、うん……まあ、そうだね」

「戦いのためにか?」

「……嫌だけど、そういうこと。でも、使えなくてもリースが強いのは知っているし、頼りにしているから、ね!」


と、何故か励まされるような形で言われてしまい、俺はどうすれば良いか分からなかった。


そんな俺の落胆も何も置いていって、エトワールは『廻』の話をし始めた。そんな名前は聞いたことなかったが、もしかしたら、エトワールの血縁者かも知れないと、俺はエトワール音両親が墓参りに行っていることを教えた。それすらも、エトワールは知らなかったようで、彼女と彼女の両親との仲の悪さを垣間見る。俺も、母親との関係が良くないため、その気持ちはよく分かった。俺の場合は、押しつけられた人生、と言うのが正しいのかも知れない。

まあどちらにせよ、似ていると言うことだけは確かだった。


それから、その『廻』の話は何処かに行って、俺達は別れた。

エトワールの部屋を出た後も何というか、気持ちは晴れないままだった。後悔というか、本当のことを言っておいた方がよかったんじゃないかという事や、エトワールの気にしていた『廻』の事も。もっと親身に聞いてあげればよかったんじゃ無いかと思ってしまったからだ。だが、後から考えても過ぎてしまったときは戻せない。俺達が別れたのも、もう取り戻せないと言うことだ。

どれだけ再スタートを切っても、過去をずるずると引きずるしかないのだ。忘れたくても、忘れられない。そういうものだと思っている。


「はあ……」


やらなければならないことは山積みなんだ。

俺自身も、眠れなくてエトワールの部屋に行ったのだが、彼女も悪夢を見て眠れなかった。それだけの話だった。

エトワールは家族のことで魘されていたみたいだったが、俺は今回はそうじゃなかった。いいや、此の世界にきてから、見る悪夢というものは、命を狙われ、死ぬ……そんな物騒なものだった。精神的なダメージもさることながら、この恐怖にだけは勝てる気がしなかった。心を殺すしかないのだろうが、そこまで非道にはなれなかった。


(エトワールがユニーク魔法の話をしたのはきっとそういうことなんだろうな)


少し様子が可笑しいと思って観察をしてみれば、やはり、あの護衛騎士と何かあったようだった。気にくわない。エトワールに優しくされているというのに、それ以上何を望むというのか。また、彼奴のユニーク魔法は魔法を斬ることができる魔法だった。だからこそ、俺のユニーク魔法は通用するかどうかも気になるところだった。ユニーク魔法同士、打ち消しあうのか。結局分からない事だらけだったのだ。

分からないのは全くそれだけではないが。


「まあ、いい……」


今考えるべきことはそれじゃない。

ヘウンデウン教との戦い。そして、領地の奪還。混沌との最終決戦。それらに備えて着々と動き始めている。エトワールにはまだ言っていないが、もう少しで、ヘウンデウン教との大きな戦いが始まる。出来るのなら彼女を巻き込みたくはないが。


(エトワールの力が確実に必要になってくるんだ)


計画を進める中で、彼女の存在は大きいものだという結論にいたった。だから、もう巻き込むしかないのだと。

俺にもっと力があれば、きっと変わったのだろうが。

俺はそんなことを思いながら、自分の部屋へ戻った。どうしようもない現実、明日が来なければいいと思いながら。俺は横になって目を閉じた。

乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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