この作品はいかがでしたか?
46
この作品はいかがでしたか?
46
意図せず宣戦布告という形になってから三日ほど経った頃。リョクカと何度か話し合い、なるべく犠牲は出さずにユウヤに会う方法を探していた。
「お主あの村出身なのだから警備が手薄なところとか分からないのか? 」
「全く知らない」
「使えないねぇ……」
「うっさいわね。私はあの村で腫れ物だったのよ?そんな奴に自由とかいう言葉ないわ」
「思い当たるところもないのか?」
「……無難に正門の反対側から忍び込んだらいいんじゃないかしら?」
「そこは手薄なのか?」
「さぁ?」
「不確定要素がありすぎるないくらなんでも……」
「なら、アンタが正門で暴れてくれない?」
「なぬ?」
「アンタが正門で暴れることでそちらに人員を割くはずだから、その隙に村に侵入してユウヤを探しだす。」
「随分と竜使いが荒いなぁ?」
「元はと言えばアンタがあのタイミングで現れなければ良かったのよ」
「そりゃ理不尽な説教だこと…」
作戦らしい作戦は出てこず、結局はリョクカに囮になってもらってその隙に村に入るという事になった。これが一番無難でそれでいてスマートな方の作戦だろう。しかし、おおむねの作戦自体は決まったが、その作戦に対して必要とされる技量は現段階では持ちえていない。そのため決行するのはだいぶ先の話になりそうという結論になった。
事実、村に侵入できたとして絶対見つからないという保証はどこにもなく、見つかった場合起き得る可能性として村の中を警備してる複数人との戦闘になるということ。一応狩りをするために剣術弓術の二種は使えるがあくまでも”使える”だけ。人との戦闘では使えるかどうかも怪しい。今私の抱える問題はそこにある。で、そこを強化するにはどうするか?ということだが、幸いなことに私には色んな冒険者達をなぎ倒してきた『古の竜』が味方についている。その経験からなんちゃって剣術や弓術を学ぶことは可能だし、それ以上に練習相手が竜ならその辺にいる人間にはまず負けることは無いくらいの実力は得れるはずだ。
「教えるのはいいが練習相手は断る」
「なんでだよ!?」
「だって我加減分かんないから誤って殺るかもしれない可能性が高いもん。」
「んだよそれ…」
「ま、諦めてくれよ」
「知識だけあっても実演してみないことには身につかないっての……」
私の中で完璧な回答を導き出したと思ったのだが肝心のリョクカは使えなかったため、知識だけは持ってるいわゆる”頭でっかち”状態になる未来が容易に想像できた。
「……はぁ、まぁ今回の件に関しては我にも非があるらしいから手伝ってやる」
「別にいいよもう。どうせ知識を与えるだけでしょ?」
「ようは練習相手がいればいいんだろ?」
「その相手があなたしかいないって話を……」
「原始的な村で生活していたから”外”のことはからっきしだもんなお主」
「はぁ?」
「この世界には魔法何てものもあるんだからそれ使ってお主の相手を出してやるよ」
「ほかの魔物でも呼ぶの?」
「いや、我が呼ぶのは影で出来たお主自身じゃ」
「ますます意味わからん」
「言葉の通りでお主の影を利用してデコイを生み出しそいつとやり合うってだけじゃ。ま、これは言葉よりも見てもらった方が早いな」
その言葉の後ナミハの影に人で言うところの人差し指を置き何かを唱える。その後その指を上に引き上げるとナミハの影が浮き上がり、リョクカの言葉通り”影のナミハ”が出来上がった
「コイツがお前の相手じゃ。ちなみにベースは”今”お主なので実力も必ず拮抗するようになってる。こいつとしばらく遊んでるといいぞ」
こうして私は、リョクカが作り出したもう1人の私と日々殺り合うことになる。
ナミハがリョクカと訓練を始めている同時刻。村ではユウヤが村の大人と共に彼女らの対策について話し合っている頃だった。
「あの忌み子を今度こそ殺るぞ。我々は竜や忌み子に脅えて暮らしてきたが、裏を返せばあれに打ち勝てばその陰に怯える必要は無い!これは絶好のチャンスでもある!」
「忌み子はともかく、問題はあの竜だ。我々だけで取り押さえることは可能なのか?」
「行動する前から逃げ腰では私たちの村は滅ぼされて終わりです!」
「だが、無策に突っ込んで命を散らせばそれこそ無駄な行動だ!それを理解できんのか!?」
大人達の会話は退屈だ。きっとここにいる”奴ら”はお姉ちゃんの言葉に耳を傾けず、自分たちの提唱した何かを真実にしたいだけ。そもそもハナお姉ちゃんは村にどれだけ恨み辛みを抱えていようとも滅ぼそうという考えだけはしない人だ。言葉遣いは時折悪くなったりするし二言目には面倒くさいとか言う人だけど、根は優しい人で自分の境遇なんかよりも僕を気にかけてくれた。それだけで今この場にいる大人の誰よりもお姉ちゃんは”大人”だと僕は思う。
さて、そろそろ馬鹿みたいな話し合いに参加してること自体にイライラしてきたところだからさっと締めてやることにするか。
「……そもそもその竜とやり合うこと自体間違いですよ」
「なに?」
「僕はその場にいた訳じゃないですから定かでは無いですけど、居合わせた人の話を聞くと竜は僕たちの言語を理解し会話をしていたらしいじゃないですか。」
「それほどの知力ある生物が恐ろしいと……」
「逆に言えば、僕たちの言葉を理解できるならわざわざ武器による足止めでなく”言葉”による足止めが可能なわけじゃないですか?」
「古の竜が話を必ず聞く保証はないんだぞ?」
「わずかでも可能性があるならやる価値はあります。それこそ、無策で特攻して死ぬよりはね。」
「くっ…」
「最終的に殺るとしてもまずは足止めです。そして油断した隙をつき奇襲を仕掛ければいい。そんな作戦で問題ないはずです。」
「竜の問題はそれでいいが忌み子はどうする気だ?」
「僕の予想では彼女は村の中に何とかして侵入してくるはずです。そのため村の中にも数人は残した方が確実でしょう。けど、最悪なのは竜による進行を止められないこと。それは避けたいので外回りにはかなりの人数を配備する必要があります。」
「…まぁ、最もらしい回答か」
「配置に着いては後で意見を募りたいですが、現時点で僕が考えてるのは外になるべく優秀な人を送り出し、村の中には一人だけ優秀な人を残し残りは若手に任せるという案です。」
「……理由は?」
「先程も話した通り竜は会話が可能ですが、僕たちの脅威であるのには変わりません。そして、その脅威に対抗しうる可能性があるのはベテランの方々のみ。対して、彼女は人であるが僕たちのように人同士で訓練してた訳じゃない。つまり、歴の浅い僕のような若手ですら可能性は十分あります。しかし、万が一のことを考えて腕の立つ者を一人だけ残すことで、その万が一が起きた際の保険になります。」
「………若いのにそこまで思考をめぐらせこの場で堂々とその意見を言えるとは」
「…僕も村を守りたいのは同じですから」
「では、ユウヤには村の中を警備してもらう。異論があるものは?」
喚き散らしていた大人達を黙らせそのうえで村のためという建前を前面に押し出した事で他の者はユウヤの意見に否定などできなかった。これが、ユウヤ本来の狙い”ハナに会う”ということを合法的に成立させる動機づけとは知らずに……
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!