テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
◇
「さて、やるか」
ジャガーは自身の身長の3倍はある巨大な扉の前に進む。
「この扉はギデオンが開くことができるのかい?」
グローリーの問いに、ジャガーは首を振る。
「ダークラインの入場ゲートは、建設に携わったギデオン、トリスタン、アクアレム、リガルドの4カ国が鍵を持つ4重扉になっている」
彼は腰のベルトから小型の魔導機器を取り出す。四角い箱のような形の機器を、手のひらに乗せると低く呟いた。
「鉄を組み、歯車を回し、我らが進む道を開け」
詠唱と共に、壁に刻まれたギデオンの紋章が鮮やかな蒼光を放つ。壁面の歯車が回転し、振動音とともに左右にスライドしていく。
第一のゲートが開くと、二番目のゲートが姿を現す。今度の扉は美しい彫刻が刻まれ、中央にトリスタンの紋章であるペガサスが刻まれている。
「次は私の番だな」
ソニアが進み出て、手のひらを正面にかざす。
「誇り高き騎士の誓いに応えよ。我が剣に従い、門を開かん」
流麗な詠唱とともに、ペガサスが白光を放ち、扉が静かに開かれる。
その後に続くゲートは一面ブルーの扉、前に出たのはセレーネだった。
「潮は満ち、波は引く。海の流れに従い、道を拓け 」
彼女の声はわずかに震えていたが、しっかりと呪文を唱えきる。アクアレムの大渦の紋章が青い光を放ち、第三のゲートがゆっくりと開いていった。
軍を引き連れて先へと進むと、最後に現れた第4のゲートには翼を広げるドラゴンの紋章が刻まれている。
漆黒の魔法鉱石で作られた扉は、他3つのゲートと比べ明らかに厳重な造りとなっている。
「リガルドの扉か……」
グローリーが腕を組んで見上げる。
「これはリガルド帝国の者しか開けられないんじゃないかい?」
ジャガーが肩をすくめた。
「本来はな。ただし、緊急時に備え、オレたち三国が強制解除を使えば開くようになってる」
「なるほど」
グローリーは、それは良かったと頷く。
「「「リガルドゲート・強制解放!」」」
ジャガー、ソニア、セレーネの三人が同時に解除の魔法を発動すると、リガルドの紋章が警告を示すような赤色に光る。扉は解放されるのを嫌がるように、ゆっくりとじれったい速度で開いていった。
4つの厳重なゲートを越え、彼らの前に広がったのは、荒涼とした大地だった。
乾いた風が吹き抜け、赤褐色の地面はひび割れ、枯れ果てた木々が無惨に倒れている。
ソニアは、崩れて廃墟と化した建物を見て痛ましい表情を浮かべる。
目を引くのはその風景だけではなく、そこに生息する異形の存在だった。
漆黒の鬣を持ち、二足で歩く巨大なライオンのような魔獣。
赤黒い目を光らせる六本足の牛のような魔獣。
目玉のような文様が入った、不気味な羽を持つトカゲなど、その他にも無数の魔獣たちが、静かに彼らを見つめていた。
普段目にするようなモンスターとは明らかに形が違い、その異様さに各国の兵だけでなく、代表者も怯えの感情を抱いた。
「なぜ奴らは襲ってこないんだ?」
グローリーの問いに、ジャガーが原理を教える。
「この入口から80メートルは、防御壁が発生させるシールドで守られている。そこから出たら一瞬で飛びかかってくるぞ」
「壁の近くは安全ってことなんだね?」
「ああ、だけど向こうもそれがわかってるから、出てくるまでは寄ってこない」
魔獣たちが彼らの存在を認識し、ゆっくりと動き始める。
のそり、のそり。獲物の様子を伺うように。
巨大な爪が地面を掻き、牙が鈍く光る。
ジャガー達は、自軍の部隊を壁際に整列させ、作戦を確認する。
「まず基本陣形は、アクアレムの部隊が結界魔法を張りながら前進。オレ達ギデオンは両翼に展開。トリスタンは後方にてアクアレムを壁にしながら攻撃だ」
「は、はい。わたし達は一体どこに向かって進軍を?」
セレーネは震える手で杖を握りしめる。
「向こうに見える丘の上だ。あそこに陣取ってから、ウチの工作兵が円形に地雷を仕掛ける。近づいてくる連中を爆破しながら堀を作るから、あとは堀にハマった魔獣を丘の上から打ち下ろすってわけよ」
「完璧な作戦だ!」
グローリーは大きく頷く。
しかし喜んでいるのは彼だけで、兵たちの指揮は低く、特に前衛を任されたアクアレムの兵たちには悲壮感が浮かんでいる。
中には、自分たちはギデオンとトリスタンのエサにされたと嘆くものすらいる。
そんな士気の下がった兵たちを鼓舞するため、グローリーが剣を抜き叫んだ。
「我々は1万以上の軍勢だ、臆する必要はない! むしろこれは英雄になるチャンスだと思ってほしい! さあ、始めよう。この地を浄化し、魔獣どもを駆逐するぞ!」
英雄の”ような”声を合図に、四国の戦士たちは一斉に武器を構えた。
「全軍、突撃ぃぃぃ!!」
◇
俺は四国同盟が、戦闘開始する様をダークライン防壁の上から眺めていた。
アンドリューが、同盟軍の戦術を解説してくれる。
「同盟軍は、まずアクアレムのヒーラー部隊が前進。両翼をギデオンの機甲兵、後方をトリスタンの魔術師が固めています」
「ガレスは?」
「姿が見えませぬな。恐らく数が少なすぎて、他の軍と混ざってしまっているのかもしれません」
「それ、もう三国同盟では? ってかヒーラー前衛なの?」
「ギデオンもトリスタンも、火力を担当する兵ですので。本当ならガレスにその役割をやってほしかったでしょうが、アクアレムにやらせるしかなかったというところですな」
「ヒーラー前衛ってどうなの? 防御魔法的なんで耐えるとか」
「弱いです」
アンドリューは、ばっさりと斬って捨てる。
「その場で全く動かず、ひたすら結界内で耐えるというのならまだわかりますが、戦場を広く使う場面では弱いとしか言いようがありません。まだギデオンの機甲兵が突撃して、ひたすらヒーラーが回復するゾンビ戦法の方が強いです」
「なんでそれをやらないの?」
「昨日今日同盟を組んだヒーラーを、信用出来なかったのでしょう」
「なるほど」
俺は双眼鏡で戦場を観察すると、ブルーのアクレアレム部隊がシールド魔法を展開しながらジリジリと前に出る。しかし歩行速度が遅いため、機甲兵部隊はなかなか前に進めず、後ろの魔法騎士隊もポジションをとれない。
そこに二足歩行のライオン型魔獣が突っ込んでくる。
体長3メートルもある魔獣は、側面ギデオンの兵をなぎ倒し、ヒーラー隊に迫る。
ヒーラー隊は即座に結界を展開しようとするも、魔獣を前にうまく魔法が発動できずにいる。
そのピンチに、ジャガーが腰の銃剣を抜き、魔獣の肩に背後から飛び乗る。
彼は何度も魔獣の背中を銃剣で突き、黒い返り血を浴びながらもなんとか一匹を仕留める。
しかしすぐにまた違うムカデ型の魔獣が現れ、助けたヒーラーを咥えて地中へと潜っていく。
「うーわ、地獄だ……」
俺はけたたましい悲鳴と、地獄絵図な惨状に顔をしかめる。
四国同盟の数の有利は、ほとんど働いておらず、右から左から襲い来る魔獣に翻弄されている。
同盟軍の連携力の浅さが、完全に露呈してしまっている。
これでは魔獣殲滅作戦ではなく、人類殲滅作戦である。
256
瑞希 流星♟也中
372
🍎🥧アップルパイ
84
コメント
1件
うわ、これは壮絶な戦いでしたね……。四重扉の仕掛けや各国の役割分担がしっかり描かれていて、世界観の厚みを感じました。特にヒーラー前衛という無茶な布陣に「ああ、これはやばい」と直感しました。案の定、連携不足で魔獣に翻弄される地獄絵図。最後の「人類殲滅作戦」という主人公の一言が、皮肉でいてリアルで印象的でした。続きが気になります!