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シャーリィはセレスティン達に後を任せてベルモンド、ルイスを連れて自動車で『ラドン平原』を一気に南下していた。
その道中、後部座席に積み込んだ物資が動き、警戒したベルモンドが荷物を退けると。
「アスカ!?」
「おまっ!?いつの間に!?」
いつの間にか潜り込んでいたアスカが顔を出す。それを見て驚くベルモンドとルイスだったが、助手席に座っていたシャーリィは振り向いてアスカを見つめる。
「行きますか?」
「……いく」
「では決まりですね、このまま連れていきます」
「いや、軽いなぁ……」
あっさりと同行を認めたシャーリィ相手にルイスは苦笑いを漏らす。
「未知の場所ですからね。本当なら大規模な調査隊を率いて乗り込みたいのですが、今の私たちにそんな余裕はありません。となればアスカの同行は嬉しい誤算です。期待していますよ」
「……ん」
シャーリィの言葉にアスカは静かに頷く。一行はそのまま南下、『ロウェルの森』を目指す。
一方『ロウェルの森』では、マリア率いる魔族の一団が奥地を目指して行軍を再開していた。
一団の先頭に立つマリアは、天秤を象った杖を握り地面に突き立てる。そして目を閉じて魔力を練り上げ、精霊たちに語りかける。
「大地の精霊、森の精霊よ。我が願いを聞き届け、我が歩む道を開き新たなる姿を顕現せよ!」
淡い緑色の魔方陣が現れ、光の粒を放出しながらマリアを包み込む。そして杖を伝って大地に流し込まれた魔力は次々とその効果を発揮させていく。
「こっ、これはまた凄いなぁ!」
「なんと!?」
視界を埋め尽くしていた夏に彩られた木々が地鳴りと共に動き始め、左右に別れて大きな道を作り上げていく。自然そのものに干渉する莫大な魔力を間近で見せられ、魔族達は改めてマリアが魔王の生まれ変わりであることを確信する。
「これならば視界の悪さを改善できるな。奇襲を警戒しなくて済む。お嬢様、感謝する」
開けた道を見てロイスが感心したようにマリアへ語りかける。そのマリアはゆっくりと目を開き、そして息を吐いて力を抜く。
「ふぅ……流石にちょっと疲れたわ。最初からこうすれば犠牲を減らすことが出来たかもしれないわね」
「仕方あるまい、手荒い歓迎が待ち構えているとは思わなかったのだからな。それに、こんな大掛かりな魔法は始めて見たぞ。いつ覚えたんだ?お嬢様」
ロイスの問いにマリアは肩を竦めながら答える。
「『彼』の見様見真似よ。海を割り大地を隆起させてたんでしょう?そこまではまだ出来ないけれど、森に語りかけるくらいは出来るわ」
「いやいや、普通は出来ないからね?やっぱりお嬢様は魔王様なんだなぁ」
ダンバートは苦笑いをしながらマリアに歩み寄る。
「『彼』には遠く及ばないわよ。私が出来るのはこれくらい。後は皆に任せるしかないからね」
「問題はありませぬ。これで視界が広がり奇襲を受ける危険もありませぬ。前進再開!行くぞ!」
「「「オゥッ!!!」」」
大楯を構えた死霊騎士団を先頭に行軍を再開する一団。この奇跡に最も困惑したのは襲撃をかけるべく前進していた熊獣人達であった。
「ドムアの兄貴!この先にデカい道が出来てやがる!」
慌てた様子で戻ってきた斥候は叫びながら報告する。
「なんだと!?さっきの地響きはこれが原因か!何が起きたんだ!?」
「分からねぇ!だけど、アイツらが何かしたんじゃねぇか!?」
「あんな開けた道を通られたら、不意打ちなんて出来ねぇぞ!?」
「だからって素通りさせるわけにはいかねぇだろ!さっきも押してたんだ!あのオークチャンピオンに気を付ければ良い!野郎共!気合い入れていけ!あの小娘を殺れば良いんだからな!」
ドムアは不安を覚えながらも激を飛ばす。森そのものに干渉するような力を持つ未知の敵に対しての恐怖はあるが、今さら引き下がることも出来なかった。
双方はそれから十数分後に対峙することとなる。
「前方に獣人の集団を確認!大半が熊獣人でありますな!」
ゼピスが叫び、それに応じてダンバートが空を飛ぶグリフィン達を見上げる。
「……んー、五百は居るかなぁ。でも、これだけ開けてたら問題はないよね」
森は幅百メートルもの巨大な道が出来ており、視界は極めて良好であった。そして開けた土地は上空に待機していた魔物達の援護が可能であることを意味していた。
「対話は……無理そうね。私は大人しくしておくわ」
下手に口を挟むと犠牲を出すだけだと判断したマリアは後方へ下がる。
その側には死霊騎士数体が護衛として残る。
「御意。先ほどは不覚を取りましたが、此度は負けませぬ!死霊騎士団前へ!」
ゼピスの号令に従い死霊騎士が横一列に並び大楯を構える。それはさながら古代のファランクスのようだ。
その後ろにはゴブリン、オーク達が手槍を片手に待機している。
「最初の一撃を耐えろよ!それから反撃だ!」
ロイスの号令が響き渡る。これはマリアが『帝国の未来』を参考にして用意した陣形であり、組織だった戦闘とは無縁だった魔族や魔物に戦術や陣形と言う概念を教え込んだ。
それを見た熊獣人達は笑みを浮かべる。
「あの盾にビビるんじゃねぇぞ!虚仮威しだ!数はこちらが上なんだからな!小細工なんざ要らねぇから、真正面から押し潰してやれぇ!」
「うぉおおおおーーっっ!!」
鎧兜を身に付け斧を手に持った熊獣人達が一斉に駆け出す。地鳴りを伴いながら突き進むその様は圧巻で、全てを薙ぎ倒すような迫力を持っていた。
「まだだ!まだだぞ!耐えよ!」
前線で指揮を執るゼピスは、迫り来る熊獣人の津波を前に死霊騎士達に指示を飛ばす。そして双方が交差した瞬間。
「うおらぁああっ!!」
「グゥウウッ!!」
次々と体当たりを叩き込まれ死霊騎士達はうねり声を挙げるが、何とか踏み留まる。それはさながら津波を受け止める防波堤のようであった。
「耐えよ!耐えよ!まだだ!まだ頑張れるぞ!!」
更に熊獣人達がぶつかり、前線は揉み合い混乱しつつあった。密集した熊獣人達は身動きが取れずただ目の前の死霊騎士を押すしかなかった。
そして集団が半ば混乱状態になったのを見定めて、遂にゼピスが号令をかける。
「前衛ーっ!返せーっ!!」
「「「フンッッ!!」」」
その号令を聞き、死霊騎士達は一斉に踏ん張り、そして大楯を振って自分達を押していた獣人達を押し退ける。
「なにぃ!?」
「詰めろ詰めろ!ががっ!?」
「ぎゃあっ!?」
いきなり押し返された獣人達は慌てて再び距離を詰めようと迫るが、その瞬間大盾の隙間から突き出された無数の槍が先頭の数十人を貫き、悲鳴と血飛沫が挙がる。
「なっ、なにぃ!?押し潰せるんじゃなかったのか!?」
その様を後方から眺めていたドムアは目を見開き、そしてマリアは静かに笑みを浮かべていた。
「古典的な戦術だけど、上手くいったわね」
人間が近代装備による戦術を編み出している時代に、魔族達による古典的な戦術を用いた戦いが始まろうとしていた。