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「怯むなぁ!悪足掻きだぁあ!」
目の前で同胞達が刺殺されるのを見て、熊獣人の一人が吠える。それに感化されて再び突進するが、またも死霊騎士達の大楯に阻まれる。
「返せーっ!!」
「「「フンッッ!!」」」
「なっ!?ぐべっ!?」
「がぁあっ!?」
再び押し戻され、先ほどと同じように号令をかけた獣人諸とも数十人が槍の餌食となる。
「なっ、なんだこりゃ!?」
「何が起きてるんだ!?」
「近付くな!槍に刺されるぞ!」
流石に百名近い犠牲者を出して熊獣人達も動揺し、距離を取ろうと後ろへ下がる。だがこれもまた魔族達の狙いであった。
「伏せよーっ!!」
ゼピスの号令で死霊騎士達が大楯と一緒に素早くなその場に伏せる。するとその背後には手槍を構えたゴブリンやオーク達が満を持して待ち構えていた。
「殺せーっ!!!!!」
「「「オゥッっ!!!」」」
ロイスの号令に従い、二百を越えるゴブリン、オーク達が一斉に手槍を投擲する。
「うがぁあっ!?」
「避けろ!避けろぉ!ぐぶっ!?」
満身の力を込めて投げられた二百を越える槍は凄まじい勢いを保ったまま熊獣人達へ襲いかかり、密集していた彼等の肉体を貫き血飛沫が挙がり悲鳴が木霊し、それと同時にバタバタとその屈強な体躯を大地に沈めていった。
「今だ!奴等に襲いかかれぇ!」
運良く無傷だった熊獣人達が再びゴブリンやオーク達へ迫るが。
「構えぇっ!!」
ゼピスの号令で素早く立ち上がった死霊騎士達に突進を防がれ。
「返せーっ!!」
「ぐばぁあっ!?」
「げぇっ!?」
押し返されて突き出された槍の餌食となった。
「バカな!さっきはあんなに押してたんだぞ!?なんでこんなことに!?」
その事態を見てドムアは混乱する。無理はない。先ほどの戦いはロイスの加勢があったものの、マリアに迫るほど押していたのだ。ところが今の戦いは魔族側に犠牲はなく、熊獣人は既に三百近い死傷者を出していたのだ。
「前衛ーっ!押せーーーっ!!」
「「「オゥッっ!!!オゥッっ!!!オゥッっ!!!」」」
ゼピスの号令が響き渡り、死霊騎士達が掛け声をしながら一歩ずつ確実に前に出ていく。
「やっ、やめっ!あぎゃああっ!?」
「殺せ殺せーっ!!生かしておくな!」
そして死体を踏みつけ、まだ息のある負傷者達は後ろに続くオークやゴブリン達が丹念に始末していく。
「おー、まさかこんなにあっさりと勝てるなんてなぁ。凄いね、お嬢様」
最後尾を進むダンバートはマリアに語りかける。
「人間の古い時代の戦術よ。と言っても、相手が考え無しに真正面から突っ込んでくるのが大前提なんだけどね」
「獣人は考えるのが苦手な馬鹿ばっかりだからさ、上手いこと嵌まったみたいだねぇ」
ダンバートの言葉にマリアも困ったような笑みを浮かべる。
「でも、流石に逃げると思うわよ?」
「逃がすわけ無いじゃん。お嬢様に手ぇ出した瞬間からアイツら皆殺しにするつもりだったし。出番だよ!」
ダンバートは、空に向かって叫ぶ。それを聞き待ってましたと言わんばかりに上空に待機していたグリフィンやワイバーンが次々と降下してくる。
「放てぇーっ!!」
ダンバートの号令に従いグリフィンやワイバーン達が一斉に火炎を熊獣人達の後方、つまり退路へ満遍なく吐き出す。
特にワイバーンの火炎は粘着質のため中々消えないこで有名であり、その結果彼等の背後には燃え盛る炎の壁が出現した。
「熱いっ!?ワイバーンか!」
「これじゃ逃げ場がないぞ!?」
「森から逃げろ!」
背後を塞がれた一部の熊獣人達は広い道の左右に広がる森へ逃げ込もうとするが。
「やるからには徹底的に!森の精霊よ!その力を以て仇成す敵を阻む壁となれ!」
再びマリアが杖を地面に突き立てて森へ干渉。凄まじい地響きを響かせながら木々が密集して複雑に蔓が絡み合い、自然の壁が形成される。
「なんだとぉおっ!?」
「壁になりやがった!?」
「もう逃げ場が無いじゃねぇか!」
熊獣人達に絶望が襲いかかる。
「諦めるなぁあっ!まだ手はある!前に進むんだ!あの魔族共を突破するしか道はない!俺に続けぇ!!」
絶望に項垂れる獣人達にドムアが活を入れ、最後の賭けに出る。
「「「うぉおおおおーーっっ!!」」」
ドムアを先頭に残った二百名弱の熊獣人達が魔族達へ突進する。
「構えぇっ!!!最後の足掻きだ!決して油断するな!」
それを見てゼピスも号令を飛ばし、自らも大楯を構えて迎え撃つ。
ガンッッ!っと凄まじい衝撃を伴い、次々と熊獣人達が死霊騎士達の大楯に体当たりを行う。命を懸けた一撃は重く死霊騎士達は後退るが、それでも必死に耐えて。
「返せーっ!!」
バァアンッッっと熊獣人達を押し退け、そして右手に持った槍を一斉に突き出し、数多の熊獣人達を刺殺した。
「伏せよーっ!!」
「殺せーっ!!」
ゼピスの号令で素早く身を伏せた死霊騎士達に合わせて、ロイスの号令でゴブリン、オーク達が満身の力を込めて一斉に手槍を投げ付ける。
それによって更に悲鳴が響き渡るが。
「ここだぁあっ!!!」
「なっ!?我を踏み台に!?」
ゼピスを踏み台に高々と跳躍したドムアは、最後の賭けに出る。
「くたばれ小娘ぇーーーっっ!!獣王様万歳ーっっ!!!」
後方で眺めていたマリア目掛けて飛び掛かる。
マリアは自分に迫るドムアをじっと見つめて。
「最後の意地を見せて頂きました。お見事です。願わくば、貴殿方の魂に救済があらんことを」
称賛を口にして祈りを捧げる。次の瞬間、他とは明らかに異なる巨体を持つグリフィンが飛来して空中のドムアを|嘴《くちばし》で挟み、手足をジタバタと暴れさせるドムアをそのまま頭から丸呑みにした。
「ダンバート、ありがとう」
『不っ味いなぁ、こいつ。ゴリゴリしてて脂っこい。二度と食べたくないな、これ』
その正体は、本来の姿に戻ったダンバートであった。或いは最後の意地を見せるかもしれないと判断したマリアが待機させていたのである。
「ドムアの兄貴が……喰われた……!?」
「もう、おしまいだぁあっ!!」
それを見せ付けられた僅かな生き残り達は恐慌状態となり、ある者はその場で座り込んだり呆然と立ち尽くし、またある者は逃げ道の無い場を逃げ惑うことしか出来なかった。
「掃討戦だ!最後まで気を抜くな!」
魔族達はそれを見ても陣形を崩さずじわじわと包囲のは場を狭め、そして追い詰められた熊獣人達は次々と倒れる。
交戦開始から一時間後、遂に最後の一人が狂乱して炎の壁に飛び込み焼死したため魔族側も矛を納める。
「凄惨な光景ね。これで諦めてくれたら良いのだけれど」
五百弱の遺体が埋め尽くす戦場を見ながら、マリアは悲しげに呟く。
「これで懲りるような奴等じゃないよ。でも、やらなきゃ犠牲者が増えるだけさ。お嬢様には辛いだろうけど」
ダンバートが声をかける。
「言い出したのは私よ。どんな結果になろうと、悲劇を防ぐことが出来るなら……目を背けるつもりはないわ。願わくば、安らかな眠りを」
マリアはダンバートに答えながら祈りを捧げる。この戦いによって獣王が矛を納める事を願いながら。
だが、それは戦いの激化を招くこととなる。結局彼女と獣王は根本的に相容れない存在なのだから。