テラーノベル
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「あら?ピアノやるの?」
ピアノの蓋をあけて椅子に座ると、母さんが問いかけてきた。
「うん。ちょっと色々あって…」「あら、そうなの。」
母さんはそう返して、キッチンに向かった。
青野君に勝負を持ちかけられてから1週間が経った。
姉さんが大好きだった「ピアノソナタ第11番」を毎日練習し続けているけど、ピアノの鍵盤を押すと、時々頭に浮かんでくるのは「勝負」のこと。
青野君は、屋上で私が自殺しようとした時に勝負を持ちかけてきた。校長先生のすすめもあり重々しく引き受けたけど………言ってしまえばただ「勝負」を持ちかけられただけで、具体的な内容はあの後何も彼に言われていない。やっぱりただ私が死ぬのを引き留めただけなんだ……ていうかなんで青野君が?私青野君に何もしてないし、青野君から何かされた覚えもないし……………ん?待って。たとえ私と青野君がただのクラスメイト同士っていう関係だったら、**なんであの時屋上に来たんだろう…?**頭の中で色々考えていると、演奏する指が止まってしまった。いけない、いけない。集中!
次の日のことだった。
吹奏楽部が終わって、教室に戻ると、青野君が帰る支度をしていた。
「あ、桃野か。」
青野君はこちらをちらっと見てそう言うと、すぐに視線を戻した。
「あのさ…青野君、勝負っていつやるの?」
思いきってこちらから切り出してみた。
「あーそれな?来週の土曜日のこの時間、音楽室で。」「勝負って言っても、勝敗とか誰が決めるの?」「それは、校長先生に。」「えっ!?頼んだの!?」「いや。」
「青野さん。」「あっ、校長先生…」「桃野さんと勝負をするんでしょう。勝敗の決定権は私にもらえないかしら。」「それって……」「私が審査員、したいわ。」「本当ですか!?あの、再来週の土曜日の部活終わりに、できたら音楽室で。すみません、割当の許可は明日取りますんで。」「それなら、私がやっておくわ。」「いいんですか!?すみません、ありがとうございます!」
「ふーん……そうなんだ。」
校長先生ってそんな前向きな感じなんだ………。
ちょっとびっくり。
「じゃあな。」「あ、青野君ごめん、もう一ついいかな?」「何?」「どうしてあの時屋上に来たの?私が自殺しようとしたの止めに来たわけじゃないよね?」「………黄喜に呼ばれてたんだ。」「え?黄喜ちゃんに?」
あの日の休み時間。
「葵、あのさ…」
黄喜が俺の肩をつかんだ。
「どうした?」「ごめん、用事がなかったらさ、今日の放課後屋上来てくれない?」「いいぞ。」
でも……
屋上を出たすぐ先で、あいつが屋上から飛び降りようとしてた。
「うそ…そうだったんだ。で、でもそしたらなんで音沙汰がないのか気になる!青野君の話だったらあの時黄喜ちゃんも屋上にいたんじゃない!?」「それが…」
[ごめん!急用が入っちゃって、屋上に行けない!しばらく放課後無理だから、来週の木曜日にまた屋上来て!]
学校ではスマホのやりとりも禁止されてるから、通知をオフにしてた。
そのせいであいつからのメールが来てたことに分からなかった。
「つまりあの時に屋上にいたのは私しかいなかったってことか……メールの来週の木曜日って…えっ、今日水曜日だから明日?」「そうだな。」
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