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スパダリ攻め(青)×ネガティブ思考受(桃)
桃視点
何もかもがうまくいかない時っていうのは確実に存在する。
20数年生きてきて、何度もそれを繰り返し経験してきた。
本来なら取るに足らないようなくだらない出来事でも、積み重なれば精神的に打撃を受ける。
受け流し方さえ忘れてしまったように、余裕のない状態の頭では切り抜ける術すら見つけられない。
プライベートの不調を仕事に出すなんて不本意でしかなかった。
それでも今は、どうしても浮上しきらない頭では処理能力は最低限まで落ち、失敗した社員のフォローすらままならない。
本当なら謝罪を受け止め自分の責任でもあることを説明して、次また気をつけて一緒に頑張ろうなんて声をかけるべきはずなのに。
自分の失敗に泣きそうになっている部下に優しい言葉をかけることも叱咤激励することもできず、ただ声をなくして黙りこんでしまった。
そんな自分自身が嫌いだ。
この局面すら乗り切ることができず、ただ黙ってうなだれるだけで…。
そうしてそんな俺に怒ることも呆れることもせず、てきぱきと周りに指示を出し事態を収束しようとするあいつに、申し訳なさと感謝の気持ちを抱きながらも「そういうところが嫌いだ」と思ってしまう。
罵られた方がマシだった。
「だからお前は無能なんだ」と言われた方が楽だった。
それでもお前は、いつものように文句も言わない。
ただ「それ」が俺であることを認めてまた全肯定するんだろ?
怒られもしない方が「お前は無能だから仕方ないよ」とでも言われているような惨めな気持ちになること、まろはきっと知らないんだろう。
椅子に座ったまま動けない俺の頭を、撫でてくるその大きな手が嫌いだ。
それなのに振り払うこともできず、俺は黙って俯くことしかできなかった。
イレギュラーな事態が発生したせいで業務自体は時間が押してしまったけれど、何とか夜になる頃には解決に繋がった。
帰っていくスタッフたちに「おつかれさま」と声をかけ、その時には今回ミスをした当の本人ともようやくきちんと話ができた。
その話の間に、近くにいたまろはあにきと連れ立って帰って行ってしまう。
「ないこ、おつかれー」
部屋を出て行く際にこちらにそんな声をかけてきたあにきの隣で、まろは俺を一瞥してひらひらと片手を振っただけだった。
…結局、礼を言うこともできなかった。
ため息と後悔の入り混じったそんな言葉を胸の内で転がすと、俺は残された業務と後片付けに手を伸ばした。
残務処理をして、今日遅れた分を取り返すように明日に備える。
そうしてようやく帰り支度を整えることができたのは、もうあと1時間ほどで日付が変わるという時刻になった頃だった。
戸締りをして事務所を後にする。
昼間の喧騒が嘘のような静けさだった。
外に出た瞬間に周囲に満ちた暗闇と静寂に、何故か急に心細さを覚えてしまう。
精神的に参ってる時期だからかもしれない。
こんなにも心もとないような…言いようのない感覚に囚われるのは。
そんなことを考えた瞬間、パァッと前から車のヘッドライトに照らされた。
その眩しさに眉を寄せて手をかざす。
ハイビームでもないのに、周囲にろくに明かりがないこの場所では思わず目を伏せてしまいそうなほど目映い。
「…ないこ!」
見慣れた車から降りてきたその人物の姿を視界に認めて、俺は思わず肩を大きく上下させてため息を吐き出してしまった。
「…なにしてんの」
自分でも思ったより低い声が出た。
俺の傍まで走り寄ってきた「俺の恋人」は、そんなこちらの気配には気づく素振りもなくただ慌てたように眉を下げている。
「全然電話に出ないから、心配した…!」
そのままぎゅっと抱きしめられる。
少しスモーキーな煙草の香りがふわりと流れてきて、俺はまた顔を顰めた。
「…外でこういうのやめてって」
「……ごめん」
ぐい、と押しのけながらの俺の言葉に、彼は小さく謝る。
そしてその代わりに俺の手を取ったかと思うと、強引ともとれるような強さで車へと引き返した。
そもそも今日は会えないと伝えてあったはず。
仕事で予想外のトラブルが起きた時点で、約束は反故にしていた。
だからそもそも電話をかけてきて、出ないことを心配することがおかしくないか?
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…なのにどうして、ここでこうして待ってるんだよ。
感動とか喜びなんてものよりも、胸に湧き上がってきたのは苛立ちと嫌悪感の方が強かった。
半ば強制的に車の助手席に座らされる。
顔を伏せたまま動こうとしない俺に代わり、彼が身を乗り出してこちらのシートベルトを締めた。
「仕事でなんかあったってメッセージもらったけど、大丈夫だった?」
それを聞いてどうするんだよ。
「あいつ」みたいに、助けてくれるわけでもないくせに。
「ご飯は? 食べてないんじゃない? 今からでも何か…知り合いのイタリアンの店なら、この時間でも何とかしてくれるかも」
そんなのいらない。
まろだったらそんなこと聞かないで、コンビニのおにぎりでも買ってきてくれる。
「ねぇないこ」
肩を掴んできたその手に、ぞっと背筋を冷たいものが駆け抜けた。
触るな、そう言いかけた言葉を懸命に飲み込む。
脳内を必死で記憶の中の青で満たし、気持ちを落ち着かせようと深めに呼吸を繰り返した。
「…ごめん、今日はもう帰りたい」
やっとのことでそれだけ口にした言葉。
彼はそれに戸惑いながらも小さく頷くと、勢いよくアクセルを踏み込んだ。
事務所から家までの道はそう遠くない。
しかもこんな深夜だ。
普段より交通量も少なく、ほんの10分ほどで自宅マンションの前までたどり着いた。
「…ありがと」
送ってもらった礼だけ言って、俺は即座に車を降りようとした。
ロックを解除し、ガチャと音を立ててドアを開く。
そのまま大きく押し開こうとした手を、不意に横から掴まれた。
「……何?」
吐息まじりに肩越しに振り返る。
重ねられた手にぎゅっと力を込めて、彼はまっすぐこちらを見つめてきた。
「…ホントに大丈夫? 俺で何か力になれることあったら…」
そう言葉が紡がれようとしたのが分かった瞬間、俺は自分の中で何かがプツリと音を立てて切れたのを感じた。
バッと体ごと隣を振り返り、重ねられた手を払う。
「力って何? 何ができんの」
自分のものとも思えないような低い声が目の前の相手を突き刺した。
「そもそも俺、今日会えないって言ってあったよね? それだけじゃない、この前もそうだったじゃん。会えないって言ってんのに事務所の前で待ち伏せされても困るんだけど」
…止まれ。
自分の口にそう言いたいのに、こんな時に限って淀みなくつらつらと言葉が出てくる。
「…俺は…ないこが疲れてるんじゃないかと思って」
「だったら頼むから放っておいてくれよ!」
…違う。本当は分かってる。
彼が正しくて、俺が間違ってるってこと。
恋人が仕事で疲れてるんじゃないかと思って、それを癒したいと考えるのは自然なことだ。
だからそれを煩わしいと思う自分が間違ってる。
…だって、俺だってこれがまろだったら多分この手を伸ばしてる。
辛いときに迎えに来てくれて手を差し出してくれるのがまろだったら、その胸に飛び込んでる。
だから自分勝手なのは俺で、「恋人」という立場にある彼が間違っているわけじゃない。
そんなことは分かってる。
分かっている、はずなのに…。
「…ごめん、別れてほしい」
自分の頭を抱えるようにして髪をぐしゃりと掴み、俺はそう決定的な言葉を口にした。
隣でひゅっと息を飲むような音がする。
恐らく近々そう言われるだろうことは、彼も予感はしていただろう。
「しつこく来たから怒った? だったらこれから気をつけるから…」
…違う、そうじゃない。
そんなことが言いたいんじゃない。
「他に何か直すところがあったら全部直すから言って」
違う!直してほしいところなんてない。
ただ、好きじゃない…それだけ。
気持ちがないのにこういう関係を持った俺が一番最低だっていうことも分かってる。
「全部ないこの言う通りにするから」
まろの口からは絶対に聞くことがないだろう言葉を吐かれ、俺は思わず顔を上げた。
…違う、そうじゃない。何が悪いわけでもない。
全部言う通りにする…?
そんなの無理だ。
だって俺の本当の希望が通るなら、あんたは今ここにいないから。
じゃあいますぐ消えて、まろになってよ。
そんな最低な言葉は胸の内に留めて、泣きそうになっている彼の目を見つめ返した。
「…ごめん、もう無理」
やっとの思いでそれだけ言って、俺は再びドアに手をかけた。
彼は即座に答えを返さなかった。
ただ俺の言葉を嚙みしめるように目を伏せる。
「そっちにある荷物は今度送って。…今までありがと」
膝の上に置いていた鞄を持ち直し、俺はドアを押した。
だけどそうして外に飛び出そうとした瞬間に、「…んぁ…っ」という甘ったるく気持ち悪い声が車内に響いた。
「!?」
思わず目を見開いて、俺は再び彼の方を振り返る。
その手にはスマホが握られていて、彼はその画面をこちらに向けていた。
「…なに…これ」
画面にはいつだかは分からない、俺と彼との「行為」中の動画。
画角から、彼の家で天井付近に仕込まれたカメラで撮られたのだということが推察できた。
今車内に響くのは、その最中の俺の声。
縋るような甘えるような声を漏らしながら、彼の背中に必死で手を回している映像。
思わず目を逸らしたくなる気持ちをぐっと堪えて、そのスマホを奪おうと俺は手を伸ばした。
こちらが身を乗り出した分、彼は俺から手を遠ざける。
スマホから流れる音声を更に大きくした。
「他にもあるよ。写真も動画も、たくさん」
「!!…っ」
「ねぇないこ、別れるなんて言わないでよ」
気をつけていたつもりだった。
こうならないように細心の注意を払って今までの人たちとも付き合ってきたはずだったのに。
撮られないように、そしてこういう変な気を起こさないように、別れ方には気を付けてきたはずだった。
「ないこの仲間やスタッフも、炎上沙汰に巻き込みたくないでしょ?」
「…っ」
「俺も、傷つくないこの顔は見たくないから」
目を見開く俺に、彼はもう一度スマホの画面を近づけた。
腰を揺らして善がる自分の姿から目を逸らして、俺は唇を嚙みしめる。
「明日また迎えに来るよ。1日考えて、返事聞かせて」
「…最低だろ…っ、こんな脅し…っ」
「何とでも言えばいいよ。警察にでも言う? いいよ。この動画見たら無理矢理ヤラれてるようには見えないだろうし、信憑性もなくてただの痴話喧嘩としか取ってもらえないだろうね」
「…っ」
半分ほど開け放したままだったドアを押し開き、俺はそこから飛び降りた。
そのまま車の脇を抜け、マンションのエントランスへまっすぐ向かう。
その途中、ふと視線を感じて足を止めた。
人なんてほとんどいないこの時間帯、そこには驚いたように立ち尽くすあにきの姿があった。
少し離れた先でこちらを凝視している。
その目を見つめ返してしまってから、気まずさ故にバッと顔を逸らした。
あにきからも「彼」からも逃げるように、マンションの中に駆け込む。
「ないこ!」
まだ何かを言おうとしたのか、車から俺の名を叫ぶのが聞こえる。
それを振り切るように無視して、俺はエントランスの重厚なドアをくぐり抜けた。
家の玄関ドアを開けて中に飛び込む。
ドアに背を押し付け、ずず、と力が抜けたように座りこんだ。
あの動画をネット上にバラまかれたら、確実に炎上する。
下手をしたら騒がれ方によってはグループは再起不能にまで陥るかもしれない。
顔出しをしていないとは言え、俺の顔を知っている人たちが少ないわけじゃない。
活動者仲間やライブに来てくれたリスナー、仕事で絡んだことのある人なら皆知っている。
あの動画の人物が「ないこ」であると証明されるのは難しいことじゃない。
男に抱かれて嬌声を上げる自分は、恰好の炎上ネタになるだろう。
そして多分、話の種類としても鎮火には相当な時間を要するに違いない。
俺が活動休止で済むならまだいいけれど、下手をしたらグループ自体の存続も危ぶまれる。
それに何より、皆に迷惑をかけたくない。
自業自得だってことは分かってる。
あの時ほとけっちだってあんなに必死でアドバイスをしてくれようとしていた。
気を付けているから…人を選んでいるからと、油断していたのは完全に自分の驕りだ。
どうすればいいかなんて考えるまでもない。
明日まで待つと言われたって自分に選択肢なんてあるわけがなかった。
自分の行動に責任を取るべきだし、何よりグループの立場を危うくさせるわけにはいかないから。
誰にも何も告げずに、これまで通りあの「彼」との恋人関係を継続するしかない。
「…っ」
分かっているのに、胸が痛む。
自業自得、自己責任。
そんな言葉が自分を突き刺してくるようだ。
玄関ドアにもたれかかって座りこんだまま、俺はポケットからスマホを取り出した。
通話をかける勇気もない相手の番号を呼び出し、画面を見据える。
そこに浮かんだ名前に今すぐ縋りたい気持ちになったけれど、それが一番自分がやってはいけないことだと自覚している。
「…ま…ろ…っ」
力をなくした手から、スマホがすり抜けた。
コツンと音を立てて玄関の床に落ちる。
それをそのままに、体育座りのような態勢のまま顔を腕に埋めた。
泣く資格すらあるとは思えなかったから、涙を浮かべることさえ自身に許せない。
そうしているうちに、暗闇の中にポッと明かりが灯った。
落としたスマホの画面が明るくなり、それに半拍遅れるようにしてバイブの音が鳴る。
その床に落ちたままの画面に力ない目線を送ると、俺は次の瞬間には驚いて息を飲んだ。
「…ま、ろ…?」
さっきかけたくてもかけられなかった相手からの通話。
思わず迷いが出て、俺はしばらくその画面を凝視したまま固まってしまう。
硬質な冷たい床の上で震えるスマホは、大きなバイブ音を伝えてくる。
留守電の設定は一時的に切ってしまっていたのか、切り替わることも諦める様子もなくそれは鳴り続けた。
「……」
大きく、息を吸う。
ここで出ないと不審がられるし、ちゃんと取り繕わないと。
深い呼吸を繰り返してからやがて俺はスマホを拾い上げた。
通話アイコンを押して耳にあてる。
「…まろ? どうしたん?」
何でもないような声を絞り出す。
…大丈夫。昼間のあの時よりは大分平静を装えているはず。
「あ、今日昼間はごめんなー。俺のミスのせいで、余計な仕事させたわ」
さっき事務所では言えなかった言葉。
それらを押し出すようにして口にした。
「頭もあんま回ってなかったし、まろに全部やらせちゃってごめん」
『…ないこ』
矢継ぎ早にまくしたてる俺の言葉を遮るように、スマホの向こうでまろが低い声で俺を呼んだ。
…あんなに聞きたかったはずの声。
それでも今は、何かに感づかれてしまう前に一刻も早くこの通話を終わらせてしまいたかった。
「何?」
聞き返した俺に、まろは小さくため息をついたようだった。
それに気づかないふりをして、俺は続く言葉を待つ。
『…なんか俺に話したいことない?』
返ってきた言葉に、俺はもう一度目を瞠った。
…あるよ。あるに決まってる。
でもそのどれもが、一つとしてお前にだけは絶対言えないことなんだよ。
「ないよ?」
はは、と笑い飛ばすように思考とは真逆の返事をすると、まろは一瞬黙りこんだ。
そしてそれから「…そっか」と了承の意味をこめた声が返ってくる。
『ならいいわ。おやすみ』
「うん、おやすみ」
それきりプツリと途切れる通話。
脱力したように再びドアにもたれかかり、スマホごと手を床にだらんと垂らした。
…何で…今このタイミングなんだよ。
いつもいつも、お前は俺が覚悟を決めなければいけないときに声をかけてくる。
救いを求めちゃいけないはずなのに、この手を伸ばしたくなる。
自分にはその一歩を踏み出す勇気もないくせに。
もう…無理なのに。
俺自身のためにもみんなのためにも、あの動画を拡散されないよう自分ができることは決まっているから。
だから、まろ…
「ばいばい」
とっくに諦めるつもりだったのに未だ振り切れなかったまろへの想い。
今こそその時が来たんだと自分に言い聞かせて、この気持ちとの決別を口にする。
…だけど、頭の中ではそんな声に乗せた言葉とは正反対の思いが募る。
(まろ…)
痛む胸を押さえて、俺は力をなくしてその場に崩れ落ちた。
(たす、けて…)
もう動く気力さえない体で目を閉じる。
深い闇に落ちていくような感覚の中、俺はそれでも尚あいつに縋ろうとする自分自身がいることに驚いた。
コメント
15件
見てるこっちまで苦しくなってきてます…😖😖お相手さんがそんな事をしてくるとは……読んでいると心情が乗り移ってくるようでもう声にならない悲鳴が上がりそうでした、!! 桃さんが青さんに手を伸ばせたら…!!と思うともう次回も楽しみすぎます!!!💕 投稿ありがとうございました!!!
初コメ失礼します! 別アプでも見てます!早く🐶ちゃん言っちゃってよー😭てか彼氏なんか怖いって言うかクズ?脅してくんなし…🐱くん🦁くん頼んだよ👊
ほんとにあおばさんの作品が大好き好きて😖😖いつもありがとうございます⸜🌷︎⸝