「でも助言は出来るわ」
「千秋…」
「眠りに落ちるのよ」
「___が呼んでるわ」
え?
誰が呼んでるって?
一部が聞こえずらくて、そう問い掛けた。
はずだったが、
酷い眠気に襲われて俺は眠りに落ちてしまった。
【愛し子よ、そろそろ起きてくれないか?】
そんな声が頭に響いたと同時に目を覚ます。
目の前にはあの藤の龍、フユが居た。
【名をくれた者よ、感謝する】
【それより我が呼んだのは理由があって────】
「その話し方、疲れません?」
なんだか無理をしているように見えて、
気づいたらそんなことを口にしていた。
『しまった』と思ったのも束の間。
フユは目を丸くして驚いていた。
「よく分かったね千秋くん」
そんな声と共に目の前に居たフユは龍から人へと姿を変えた。
「人間…?」
「人間…というより神に近いかな」
「僕は龍と金魚に姿を変えることができるんだ」
そう言いながら龍へと姿を変えたり、
金魚へと姿を変えたりした。
だが金魚と言っているも、姿は鯉。
そういえばずっと疑問に思っていたこのこと。
今なら聞けるかもしれない。
そう思った俺は
「聞きたいことあるんですけど───」
「あ、タメでいいよ」
「距離感じるの嫌だしね〜」
聞こうとした瞬間に『タメ口でいい』と
口を挟まれる。
なんだか思ったよりもこの人…
ふわふわしてるっていうか…
神龍らしくないな…
「神龍らしくない?」
「酷いね〜」
クスクスと笑いながら俺の心の呟きを拾う。
やっぱりフユも心が読めるみたいだな。
「まぁね」
「それで話したいことって何?」
「なんで鯉を金魚って呼ぶんすか?」
先程と違う口調で俺はそう問う。
「鯉だけじゃなくて全ての魚を『金魚』って呼ぶんだよ」
全ての魚を?
昔に金魚が魚の王様的存在だった
的なことなのかな。
「魚の王っていうより、『金魚』ってのは名前に『金』って文字が入ってるから聖なる魚として慕われてきたんだ」
「それで今でも僕ら地を守る者は皆、魚を『金魚』って呼んでるんだよ」
なるほどね…
え、でもなんで姿は金魚じゃないんだろう…
「ね、僕もそれは思うよ」
「まぁ多分、鯉の方が雅さがあるんじゃない?」
へー…
と心の中では納得しつつも、
チャラいなと思う。
「僕が君を呼んだのにはね、理由があるんだ」
急に真剣そうな声に変わり、
ビクリと体が反射的に動いてしまう。
「僕はね季巡りの地を戻したいと思ってるんだ」
季巡りの地?
聞いたことないな…
「季巡りの地っていうのはね、9つ全ての季節の総称のことだよ」
「それで君の、千秋の力が必要なんだ」
俺の力?
もしかして…
あの最初の頃にやった、絵の金魚とか?
「そうそう!!」
「それと?もう1人の愛し子と協力すれば元通りになると思うんだ」
「どう?僕のこの提案」
いい提案だとは思う。
だけど俺に利はあるのだろうか。
しかも叶向には中々近づけない。
あの守り具があるから。
「確かにあの守り具は厄介だよね…」
「でも僕の近くなら安全だよ」
にこりと笑ったと思えば
「え?」
と後ろから叶向の声が聞こえた。
俺は反射的にフユの後ろに隠れると
「だから大丈夫だってば…!!」
と言われてしまう。
「千秋くんは金魚の絵を描いてくれる?」
「そうだなぁ…色は虹色で!」
虹色?
要するに全ての色を使えばいいのだろうか。
いや、違う。
9つの龍の色を使えばいいのか。
「叶向ちゃんは召喚の唄とこれを弾いてくれる?」
そう言ってフユは叶向にハープのような楽器を渡した。
さっきまで持っていなかったはずなのに。
ていうかそのハープ、氷で出来ているのか?
所々凍っていたり、氷柱が生えている。
そう俺が思っていると
「氷の方がよく響くから」
と俺の心に答えるように、そんなことを言う。
虹色の金魚…
って言っても描くのは1匹だけでいいのだろうか。
そんなことを考えながらフユの顔を見るも、
フユは微笑みを浮かべるだけだった。
「フユ、出来たよ」
フユの服を後ろから引っ張りながらそう言う。
そんな俺の声を聞いた後、
叶向の方を見て
「じゃあ叶向、お願い」
と言う。
ほぼそれと同時に響いたのは叶向の歌声だった。
「汝の下に降りたまえ。我らは王を待ち望む。今か今かと待ち望む。今宵は月も見えぬ日々。『舞いらんせ』の一言で交わす声と人の子よ。月の灯火とこの唄と。互いが交わす時の中ほどに目覚める真の龍。」
雰囲気が全く違う。
一瞬、叶向の姿が巫女さんのような姿へと
変わったような気がした。
ただそう見えただけかもしれない。
叶向が召喚の唄の最後の言葉を言い終えると
辺りは一気に何かによって囲まれた。
その正体は俺がスケッチブックに描いた虹色の金魚だった。
虹色の金魚がいくつもの色の金魚へと姿を変えて、空へ空へと泳いで行く。
そして叶向が弾いていたハープからは、
各金魚の色と同じ色の花弁が舞っていた。
幻想的な光景に俺と叶向は静かに見守っていた。
そんな中、口を開くフユ。
「最後は僕らの番だよ」
そう言ったと同時にフユの隣に柧夜と冬の帝王が姿を現した。
そう厳しめな言葉で唱える柧夜。
相変わらずだなぁって思う。
そう柧夜と同じように唱える冬の帝王を見て、
もしかしたら柧夜も普通だったのかもしれないと思う。
が、
フユの唱えでそれは間違っていると証明された。
そうフユが言い終えると共に空から何かが
羽ばたくような音が聞こえた。
思わず上を向くと、居たのは
以外の色を纏った神龍たちだった。