テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
256
瑞希 流星♟也中
372
🍎🥧アップルパイ
84
ヨハンナと共にリガルド城を出ようとすると、愛しのイヤミルの姿があった。
前に見た通り、どこに着ていくのか知らないが、漆黒の重鎧にマントをなびかせた廃課金装備みたいな格好をしており、俺のことを細い目で睨みつけている。
向こうからは話しかけてこないくせに、めちゃくちゃ話したそうにしているので付き合ってやる。
「これはこれは、おにいたま」
「その呼び方はやめろと言っている。お前……城塞都市に行っていたらしいな」
「はい。ダークラインの前線砦とあって、なかなか学びの多い場所でした。まぁまた方針を協議しに戻ることもあると思いますが」
「ふん、お前ごときが指揮官気取りか?」
「まさか、側近が優秀なだけで私はただのお飾りですよ」
「そうだろうな。魔獣防衛会議は、もともとオレが出席して各国との下地を作っておいたからな」
「あぁ、おにぃたまのおかげで、たっぷりバッシングを受けましたよ」
「他国の連中と馴れ合ってると聞く。リガルドは強国、ザコと馴れ合うな」
「まぁそれでうまく行ってますので」
イヤミルは、俺の持っているものに気づく。
「なんだそれは?」
「見合い写真です。成人したらしく貰いました」
「なっ!? 貴様成人したのか!?」
「えっ? 成人って勝手にするんじゃないんですか?」
「それは一般の話。我ら王族は、父上と文官に認められなければ、いつまで経っても成人はできぬ」
「あっ、そうなんですね?」
「兄上ですら成人したのは17の時。ザンジバル戦役で武勲をたてた後」
ってことは、ダークラインでの功績が結構でかかったってことか。
まぁ一年武者修行してきたようなもんだしな。
父上ったらツンデレなんだから。もうちょっと褒めてくれてもいいんだぞ☆ミ
「待て、見合い写真ということは、ハーレムの使用を許可されたのか?」
「はい、なんかムカム島に作ってくれるそうです」
「なぜ貴様が……オレだってまだ使用を認められていないのに」
いや、そんな親の仇みたいに見られても。
「おにぃたま、まさか……成人してないのですか?」
「実質している」
「実質とは?」
「文官からは、もう間もなくすると言われている。……去年くらいから」
「おにいたま、今年で何歳でしたっけ?」
「……19」
「どうしますおにいたま、無能の王冠ここで渡しときます?」
「いらんわそんなもの! オレとてすぐさま実績をたてて、成人を認められてやる!」
兄上はプンスカと肩を怒らせながら、城へと入っていった。
「お前の兄貴、一周回って面白いな」
「だろ」
ヨハンナも兄上の楽しみ方をわかってきたようだ。
◇
それから1日かけて、ようやっと我が愛しのムカム島に帰ってこれた。
連絡船から降り立った瞬間、潮風が心地よく肌を撫で、懐かしい南国の香りが鼻をくすぐる。
「ふぅーっ、やっぱりこの空気だよな」
両腕を大きく広げ、全身で陽の光を浴びる。都会では感じられなかった温もりが、ムカム島には満ちていた。寄せては返す青い海。眼前に広がる白い砂浜を見て、帰ってきたと実感する。
「うぉー海だー!!」
俺は靴を脱ぎ捨てて、砂浜へとダッシュする。
その様子に呆れるヨハンナ。
「あたしは荷物持って、先に屋敷帰ってるぞ~」
「わかった!」
彼女は俺のでかい旅行バッグを片手で軽々と持ち、屋敷へと向かう。
浜辺では屋台が軒を連ね、ムカムジュースや色鮮やかなトロピカルフルーツを売る声が飛び交っている。俺はムカム・ザビーナと書かれた屋台へと足を運ぶと、店主のザビーナと再会を果たした。
「おや、でぶちん王子帰ってきたのかい?」
日焼けした中年のおばちゃんは、俺を見て笑顔を浮かべる。
「はい、よーやっと帰ってこれました」
「やっとって言っても、あんたちょいちょい帰ってきてたでしょうに」
それはまぁ、島もほったらかしにするのはまずいと思って。
「ほら駆けつけ一杯だ」
俺はザビーナから冷えたムカムジュースを貰うと、一気に飲み干した。
「くぅーっ! これだ、これ!」
乾いた喉を潤す甘い果汁が、全身に染み渡る。
「血糖値がキンキンにスパイクしてやがるぜ!」
「珍しい感想だね。あんた、しばらくはゆっくりするのかい?」
「はい、王から命令があるまでは」
「そういや帝国の人が来て、屋敷の近くにホテルみたいなの建ててたよ」
「あーそれは聞いてるんで」
建設してるハーレムの話だな。
「でも不思議なことに、つい昨日まで作ってたのに、今朝になったらそのホテルが消えてなくなってるんだよ」
「多分空間が歪んで見えなくなってるかもです」
「? あんまりおばちゃんに難しいこと言わないでおくれ」
「透明になってると思って下さい」
「なるほどね、あたしゃ幻覚でも見たのかと思ったよ」
それからザビーナの元を離れ、俺はブラブラと砂浜を歩く。
すぐそばでは、島の子供たちが波打ち際ではしゃいでいた。その姿をぼんやりと眺めながら、俺は砂浜に寝転がる。
雲ひとつない青空、遠くで聞こえるカモメの鳴き声、そして心を解きほぐす波の音。
「しばらくは、ここでのんびりしよ……」
目を閉じ、俺は深く息をつく。都会の喧騒とは無縁のこの島で、心も体も、ゆったりと解放されていくのを感じていた。
すると突然頭にビーチボールがぶつけられる。
「ぐえっ!」
「あーすまんすまん、当てるつもりだったんだが、まさか顔面に当たるとは思わなかったぜ」
なんだそのなめた謝罪は。
この馴れ馴れしい声に聞き覚えがあって砂浜を見ると、そこにはサングラスをかけたチンピラの姿があった。トロピカルなアロハシャツに歯車模様のハーフパンツ姿の男が、気安い笑みを浮かべている。
「貴様、バンビちゃんではないか」
「そっちで呼ぶな、ジャガーだジャガー! ギデオンの虎ことジャガーだ!」
「何をしとるんじゃ、こんなところで」
「バカンスだよバカンス。長いことダークラインで指揮とってたから、休めって王から言われたんだよ」
ジャガーは白い歯を見せながらウインクし、手に持ったムカムジュースをストローでひと口すする。その余裕ぶりに、俺は頭を抱えた。
「バカンスはわかったが、なぜここにいる。ここリガルド領ぞ」
「かてぇこと言うなよ。ギデオンで遊べる海とかねぇんだから」
つい最近まで、死ぬほど仲悪かった国とは思えない口ぶりだ。
「普通暗殺とか警戒して、リガルド来る王族とかいないぞ」
「ここお前の領地みたいなもんなんだろ? なら安全だろ」
「お前俺のこと信用しすぎでは?」
「まぁまぁ王子と王女が同時に消えたら戦争だしな」
「王女?」
「あ、しまった」
「いるのはお前だけじゃないな!」
俺は焦燥感に駆られて、砂浜をダッシュする。
すると、島民や観光客が集まっている場所が見られた。
ホワイトとブラックのビキニをまとい、黄金に輝く髪をなびかせる少女。白い砂浜の上で、まるで絵画のようにポーズを決めている。その姿は、まさに南国の太陽に祝福された美の化身。周囲の人々が、恍惚とした表情で口々に言う。
「女神だ!」
「美しすぎる!」
「眩しくて直視できない……!」
ソニアはその賞賛の声を聞くたびに、ますます調子に乗っていく。優雅に髪をかき上げ、手をすっと伸ばし、次々と新たなポーズを決める。
「フッ……当然だ。この世において、私ほどビーチが似合う女はいない! 私のことは砂浜に咲き誇る一輪の薔薇! 夏の女王と呼ぶがいい!」
気品のある声で頭の悪いことを言う女だ。
彼女のナルシストっぷりに、俺はため息をつく。
「……お前もか」
喋らないと美人なんだけどな。見た目に反して、ちょいちょいアホが垣間見えるのがソニアの欠点である。
「フハハハ、ラウルよ相変わらず丸っこいな!」
ソニアはとんでもなく長い脚を見せつけつつ、優雅なモデルウォークで俺の元に来る。すごい身長だ、5頭身の俺と8頭身の彼女が並ぶと、本当に同じ世界感の人間なのかと思ってしまう。
彼女はネコのような笑みを浮かべると、張り出た俺の腹を気安く触ってくる。
「やめろ、戦争だぞ」
「良いではないか、その感触の良いモチのような腹を触らせてくれ」
「誰が鏡餅じゃい」
この女、ダークラインで雪が降った時、雪だるまに俺の名前つけてたからな。
多分マスコットか、なにかと勘違いしてる。
追いついてきたジャガーが、鼻息荒くビーチの女性を指差す。
「なぁラウル、向こうに水着のいい女がいるぜ。ナンパしようぜナンパ!」
「くだらん。そんなことより、私が海に入るシーンを美しく撮影してくれ。お前を私の専属カメラマンに任命しよう。最高の美を見せてやる」
「あのね、俺今帰ってきたとこなのよ」
「「だから?」」
どうやら俺の都合など興味ないらしい。
この二人はどこへ行っても変わらない。結局俺のバカンスは、波と風と静けさではなく、騒がしい連中と共に過ごすことになりそうだ。
コメント
1件
おかえりなさい、ラウル王子!ムカム島に戻ってきたときの「うぉー海だー!!」に思わず笑顔になりました。兄上とのツンデレ会話も相変わらずで、「無能の王冠ここで渡しときます?」の切り返しは本当に笑った。それにしても、まさかジャガーとソニアまでバカンスに来てるとは。しかも水着のソニアが「夏の女王」って名乗りながらポーズ決めてる光景、頭に浮かぶとあまりにシュールで面白いです。ラウルの静かなバカンスはどこへやら、賑やかな日々が始まりそうですね。良い箸休め回でした!