テラーノベル
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#切ない
#長編
草凪葉月🌙⭐️🐈⬛@活休中?
#一次創作
第九話 雨に沈む真実
「銀鈴……!」
伸ばした手は空を切った。
地下室には、もう誰もいない。
残されたのは、彼女が纏っていた香の匂いだけ。
甘く、淡く、すぐ消えてしまいそうな香り。
朔也は呆然と立ち尽くす。
だが。
背後から殺気が迫った。
「っ!」
咄嗟に身体を捻る。
刃が頬を掠めた。
黒装束の男たちが、一斉に襲いかかってくる。
「捕えろ!!」
鋭い声。
朔也は近くの木箱を蹴り飛ばした。
崩れた箱が刺客たちの足元を塞ぐ。
その隙に地下室を飛び出した。
階段を駆け上がる。
後ろから足音が追ってくる。
「逃がすな!!」
朔也は廊下を曲がり、そのまま外へ飛び出した。
夜の吉原。
雨が降り始めていた。
冷たい雨粒が頬を打つ。
「はぁ……っ」
息が苦しい。
だが止まれない。
裏路地へ駆け込む。
足音が近づく。
その瞬間。
どこかで鈴の音が鳴った。
リン——。
朔也は反射的に振り返る。
すると、細い路地の先に白い影が見えた。
銀鈴だった。
「……!」
彼女は何も言わず、ただ奥へ進んでいく。
誘導しているみたいに。
朔也は迷わず追いかけた。
曲がり角を抜ける。
細い道を走る。
すると突然、目の前が開けた。
古い神社。
鳥居の奥で、銀鈴が立ち止まる。
次の瞬間。
背後を追っていた刺客たちの足音が消えた。
「撒いたのか……?」
肩で息をしながら周囲を見回す。
静かだった。
雨音だけが響いている。
「銀鈴」
呼びかける。
だが。
彼女は少し困ったように笑った。
「……ごめんなさい」
その姿が少しずつ透けていく。
「待て!」
朔也は駆け寄る。
だが、触れる前に彼女は薄く消えかけていた。
「まだ聞きたいことがある!」
銀鈴は静かに首を振る。
「時間がありません」
「銀鈴!」
「桜ノ間の奥を調べてください」
その言葉に、朔也の動きが止まる。
「奥……?」
「地下室の、一番奥です」
銀鈴の声は弱くなっていく。
「そこに……全部、残ってます」
「全部って何だ」
彼女は答えない。
代わりに、少しだけ悲しそうに笑った。
「朔也様」
雨の中。
銀鈴は静かに言った。
「生きてください」
胸が強く痛む。
その言葉が、まるで別れみたいで。
「ふざけるな」
朔也は彼女を睨む。
「勝手に消えるな」
銀鈴は目を伏せる。
「私はもう——」
「それでもだ!」
雨音の中、声が響く。
「お前がどんな存在でも関係ない」
朔也の拳が震える。
「俺は、お前を一人にしたくない」
銀鈴の瞳が揺れた。
泣きそうな顔だった。
けれど。
次の瞬間。
彼女の姿は、雨の中へ溶けるように消えた。
鈴の音だけを残して。
リン——。
翌朝。
朔也は再び桜ノ間へ向かっていた。
眠っていない。
だが不思議と頭は冴えていた。
銀鈴の言葉が離れない。
『地下室の、一番奥』
朔也は地下への階段を降りる。
湿った空気。
静かな闇。
昨日の戦いの跡が残っていた。
倒れた木箱。
散らばる帳簿。
朔也は提灯を持ち、さらに奥へ進む。
すると。
突き当たりの壁に、不自然な傷があることに気づいた。
「……これは」
壁を押す。
ギギ、と鈍い音。
隠し扉が開いた。
その奥には、小さな部屋があった。
まるで誰かの私室みたいに。
机。
文机。
古い行灯。
そして。
一冊の日記。
「……」
朔也はゆっくり開く。
そこに書かれていた文字を見て、息を呑んだ。
銀鈴の字だった。
『私は、知ってしまった』
最初のページには、そう書かれていた。
『この店は、女を売るだけじゃない』
ページをめくる。
『消えた遊女たちは、逃げたんじゃない』
『天野屋と裏で繋がっている人間がいる』
文字が乱れていた。
書いた時、相当追い詰められていたのだろう。
『桜花魁も殺された』
『そして、次は私かもしれない』
朔也の指が止まる。
次のページ。
そこには、一人の名前が書かれていた。
『奉行 黒瀬忠明』
「奉行……?」
幕府の人間。
やはり裏で繋がっていた。
さらにページをめくる。
すると、最後の一文で朔也の呼吸が止まった。
『もし私が死んだら、朔也様は必ず真実を知ろうとする』
『だから、この日記を残します』
雨音が遠く聞こえる。
『でも、本当は——』
そこで文字が途切れていた。
まるで途中で何かが起きたみたいに。
「銀鈴……」
その時だった。
地上から、大きな物音が響く。
ドン!!
朔也が顔を上げる。
続いて、複数の足音。
そして。
「朝倉朔也!!」
男の怒号が響いた。
「幕府の命により、貴様を捕縛する!!」
空気が凍る。
見つかった。
朔也はゆっくり日記を懐へ入れる。
逃げ場はない。
だが。
ここで終わるわけにはいかなかった。
コメント
2件
えやばい!!この展開どーなるの、!?
ああ、第9話読み終えたわ…。銀鈴が消えていくシーン、本当に切なかったな。「生きてください」って言葉が刺さる。朔也が「勝手に消えるな」って叫ぶところ、声が震えてたのが伝わってきて胸が詰まったよ。そして地下室の奥で見つけた日記——奉行・黒瀬忠明の名前が出てきた瞬間、物語のスケールが一気に広がった感じがする。幕府の人間が絡んでるって、闇が深いな…。続きが気になりすぎるわ🔥