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第6話 触れられない距離
学園祭が終わって数日。
陽は、講義のたびに小鳥遊ひよりの姿を探すようになっていた。
(……また一人で帰ってる)
ひよりはいつも通り静かにノートを閉じる。
でも今日は、ページの端に描かれた小さな落書きが目に入った。
(……うさぎ?)
ひよりが、ほんの少しだけ口元を緩めていた。
(あ、笑ってる)
その一瞬の表情に、陽の胸がふっと温かくなった。
廊下でのすれ違い
「あ、小鳥遊さん」
陽が声をかけると、
ひよりは少し驚いたように目を丸くした。
「……春川くん、よく会うね」
その言い方は、
ほんの少しだけ柔らかかった。
「俺もそう思ってた。なんか……タイミング合うよね」
「……うん。ちょっと面白い」
ひよりが小さく笑った。
(あ、やっぱり……笑うと可愛いな)
陽は胸がざわつくというより、
少しだけ明るい気持ちになった。
図書館での偶然
夕方の図書館。
陽がレポートを書いていると、
ひよりが台本を抱えて歩いてきた。
「あ、小鳥遊さん。また会ったね」
「……ほんとに、よく会うね」
ひよりは困ったように笑った。
でもその笑いは、前よりずっと自然だった。
「演劇部なんだよね? 台本?」
「うん。今日は読み合わせの練習」
「へぇ、すごいじゃん。どんな役?」
「……木」
「木!?」
陽が思わず声を上げると、
ひよりは肩をすくめて笑った。
「動かないから……楽だよ?」
「いやいや、木って逆に難しくない!?」
「ふふ……そうかも」
ひよりの笑い声は小さいけれど、
陽にはそれが妙に嬉しかった。
陽視点(記憶の揺れ)
(小鳥遊ひより……)
(名前も苗字も覚えてる。でも……)
陽の記憶にある“ひよりちゃん”は、
夕方の校庭で笑っていた明るい子。
でも今のひよりも、
笑うと少しだけその面影が見える。
(……似てる。やっぱり似てる)
胸の奥が、
懐かしさと不思議な温かさで揺れた。
ひより視点(心の揺れ)
(はるくん……笑ってる)
(私と話して……楽しそうにしてる)
ひよりは胸がくすぐったくなった。
(気づかれたくないのに)
(でも……こういう時間は、嫌じゃない)
ひよりは台本を抱えながら、
そっと陽の横顔を見た。
(はるくん……変わってないな)
その瞬間、
胸の奥が少しだけ温かくなった。
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