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崩落の轟音が響く中、俺は大河内の目の前に立ち尽くしていた。
瓦礫に押し潰され、もはや声も出せない老いた怪物は
濁った瞳で俺を、あるいは俺の背後に広がる虚無を見つめていた。
「……大河内。あんたが作ったこの『闇』は、俺が連れていく」
俺は懐から、志摩に渡されていた小型の起爆スイッチを取り出した。
この地下シェルターの最深部、三和会の全ての秘密データが眠るサーバーを物理的に完全消去するためのものだ。
「さよならだ。……この国の『病根』と共に、消えろ」
スイッチを押すと同時に、シェルターの奥底で鈍い爆発音が連続して響いた。
地響きが激しさを増し、天井から巨大なコンクリートの塊が次々と降り注ぐ。
俺は崩れゆく闇の中を、松田たちの待つ地上へ向けて全力で駆け出した。
背後で、三和会の栄華と大河内の野望が、完全に土砂へと飲み込まれていく音がした。
◆◇◆◇
数時間後───
新宿の街を、眩しいほどの朝焼けが包み込んでいた。
起工式会場の跡地は、巨大なクレーターのような惨状を晒していたが
そこにはもう、三和会の黒いスーツの男たちも、威圧的なサーチライトもなかった。
あるのは、事態の収拾に追われる警察と、夜明けを呆然と眺める市民たちの姿だけだ。
俺は会場から少し離れた路地裏で、志摩と並んで座り込んでいた。
志摩はボロボロのコートを羽織り、ひどく不味そうな顔で安タバコを燻らせている。
「……三和会の株価は消滅、会長は行方不明。中臣は正式に逮捕状が出た。…これで満足か、黒嵜」
「……ああ。腹はいっぱいだ」
俺は親父のドスを、自分のジャケットに包んで志摩に差し出した。
「これは、あんたが預かっててくれ。……俺が持ってると、また血を呼びそうだ」
志摩は一瞬、複雑な表情を浮かべたが、黙ってそれを受け取った。
「…お前、これからどうするんだ」
「……そうだな。とりあえず、名前のない場所へ行くか。拓海の子供が、いつか笑って歩けるような、そんな街を探しにな」
俺は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
左肩の痛みは、いつの間にか引いていた。
代わりに、朝日が焼けた肌に心地よく染み渡る。
前方を歩く松田、山城、そして少し離れたところでこちらを見つめる久瀬。
新しい物語が、この静寂の中から始まろうとしていた。
俺の極道としての籍はもうない。
だが、俺の心には、親父から受け継いだ『筋』が、消えることのない道標として刻まれている。
新宿。俺たちの血と涙を飲み込んだこの街が、今日から少しだけ、優しく見える気がした。