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言い切った瞬間、彼の表情がわずかに強張った。
何か大きな
取り返しのつかない決断を迫られているような
激しい葛藤と戸惑いの色がその瞳に見え隠れしている。
静まり返った執務室に、紙とインクの匂いが濃く漂う。
シュタルク様はやがて重い喉仏を上下させ、低く掠れた声を発した。
「……どうやら、酷い勘違いをさせてしまったようだな。すまない、メリッサ」
「……え、勘…違い?」
「どうやら……俺の不器用さが全ての原因らしい」
シュタルク様はそう言って、自嘲気味に唇の端を歪めた。
その表情には、深い後悔が滲んでいる。
「どういうことですか……?」
「簡単な話だ。君に触れるとどうも理性が吹っ飛んでしまいそうで、正直……怖かった」
「……怖い?」
予想外の答えに、思わず首を傾げる。
凛々しく、強大な力を持つ公爵である彼が、何を怖がっているというのだろう。
彼は内側に溜まった苛立ちを吐き出すように深々と溜め息をつき、椅子から立ち上がった。
背もたれに軽く肘をつきながら、逃がさないと言わんばかりの強い眼差しで私を見つめる。
「そうだ。初めて会ったあの舞踏会の夜、君の瞳を見た途端、世界が変わった気がした」
突然の告白に思考が追いつかない。
「結婚式の日も、宴の席で皆に祝福される度、君の華奢な腰に腕を回し、誰にも奪われないようにしたい衝動に駆られた。君が寝室で花嫁衣装のヴェールを剥がされ、素顔になった瞬間……狂ってしまいそうなほどの欲望が込み上げてきた」
シュタルク様の視線は、熱を帯びて私の肌を灼くようだった。
「だが、新婚早々に君を抱いてしまうのはあまりにも獣じみていて嫌悪感があった」
「そんな……もう半年は経っていますし…よくないですか…?」
「いや…それに、いざ君を抱いてしまったら、一度だけで満足できる保証もない。それどころか、昼夜問わず君を求めてしまうようになれば、君に嫌われてしまうんじゃないかと思った……それが何より怖かった」
私はその告白に、ただ唖然としていた。
私を女として見ていないどころか、その逆……
あまりに強く求めすぎる自分を律していたというのだ。
「シュタルク様は、その……私に愛想が尽きていることはないということですか……?」
「君に愛想が尽きる…?有り得ないな」
思いも寄らないほど真っ直ぐな言葉に、呼吸が浅くなる。
「…だが、大切な女性だからこそ、慎重になりすぎてしまっていた。結果的に君を不安にさせ、寂しい思いをさせるなんて……夫として最低なことをしてしまった。本当に申し訳ない」
シュタルク様が切なげに微笑みながら、ゆっくりと私に歩み寄ってきた。
そして私の前に膝を折り
子供を扱うような手つきで、私の両手を優しく包み込むように握りしめてくれる。
「改めて言うのも恥ずかしいが……メリッサ、俺は君を愛している。いつも健気に愛を伝えてくれる君は、控えめに言っても…心臓に悪いほどに可愛い」