◻︎ばあさんとのお別れ
あっという間だった。
礼子のお姑さん…ばあさんが亡くなったのは。
徘徊して転んで検査入院したら、末期の癌が見つかって…そのまま入院して。
2ヶ月くらいか。
「お疲れ様、礼子。いままでよく頑張ったね」
お葬式が終わって少し落ち着いた頃、改めて礼子の家を訪ねた。
「なぁんかねー、気が抜けちゃって」
祭壇には白い箱と、遺影があった。
「最期は、間に合ったの?」
「うん、容態が急変したと病院から連絡があってね。かけつけたらベッドでばあさんが苦しがってたんだ。で、私、思い出したの、元気な時にばあさんが言ってたこと」
「なんて言ってたの?」
「もしももう最期って時には、手を握って欲しいって。1人だと怖いから大丈夫だよって手を握って言って欲しいって。だから、すぐに手を握って、大丈夫だよ、ここにいるよって声をかけたんだ」
「そうなんだ…、でも、礼子を分からないんじゃなかったの?」
「それがね、多分だけど、ふっと意識が戻ってしっかり私を見た、あの目は私をわかってる目だった、そして、涙がね…」
「ばあさんが?」
「ん、そう、ツーっと。そして目を閉じてさ、そしたらフッと最期の呼吸をしてね、逝っちゃった…」
「そうか、よかったね、気持ち、通じたんだね」
遺影のばあさんは、穏やかに笑っている。
「ありがとうって言ってるみたいな写真だね。そういえば旦那さんはどうしたの?」
海外に行かないことにすると退職かも?と言ってた。
「それがね、上司の計らいで、落ち着くまでは休職でいいって言われてて。昨日からやっと復職した。でも、もう海外には行かず後輩の指導にあたるみたい。ちょうどそんな年齢になってたしね」
「そうか、もうさびしくないね」
「うん、それにね…」
礼子は大きな紙袋を出してきた。
「これ、見て!」
礼子が取り出したのは、カラフルなパンフレット。
エステや美容院、ヨガやエアロビ、メイク用品、ファッション雑誌。
「どうしたの?これ」
「うちの人がね、こういうのたくさんやってリフレッシュするといいよって、集めてきてくれたの」
「おぉっ!これはすごい!」
私は高級そうなパンフレットを一つ取り出した。
簡単な美容整形のパンフレットだった。
「ねっ!これどう?顔の皮引っ張るやつ!私、やろうかな?ね!」
「もう、美和子ってば。でも楽しそうでしょ?」
「うん、旦那さん優しいね」
「優しいのかなあ?これ渡す時に言われたことがあるんだけど…」
「なんて言われたの?」
「そのままだと、女として終わってしまうよって」
「…誰のせいよ、ねー!」
「そうなんどけどね、ばあさんが病気になってからなにもかもほったらかしだったから、本当にこのまま女をなくしてしまうとこだったよ。美和子にはあんな偉そうなこと言っておいてね」
脱皮。
「礼子も自由になったことだし。一緒に脱皮しよっ!」
「うん、何から始める?」
まず美容院行って…それから、お洒落な服を買って、それから…
「私、資格取る!」
礼子はもうやりたいことが見つかっていたようだった。
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