テラーノベル
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#感動的
#希望
#魔女
水の魔女セレン(瑟伦)
私達は、今日も世界中を旅していた。
水の魔女「さ、寒い……。凍ってしまいそうです」
カレン「大丈夫か? ほれ」
相棒のカレンが、魔法で編んだ毛布を私の肩にかけてくれた。
水の魔女「温かい……」
毛布からはカレンの優しい香りがして、眠くなるほど心地よい。
この温かさが、どれほどの安らぎをもたらすか、私には痛いほどわかる。
カレン「もうすぐ着くぞ」
箒(ほうき)を操るカレンの声に、私は顔を上げた。
水の魔女「あの国ですよね?」
カレン「ああ、そのはずなんだが……」
眼下に広がるのは、国と呼ぶにはあまりに無惨な光景だった。
割れた窓ガラスが宝石の成れの果てのように散乱し、街にはコンクリートの粉塵と、凍てつく無機質な匂いが漂っている。
かつて人の営みがあった場所とは思えない、冷え切った沈黙が支配していた。
カレン「何があったんだ?」
水の魔女「もうすぐ日が落ちます。とりあえず、今夜はここで野宿しましょう」
私達は荷を解き、焚き火を囲んで夕食の準備を始めた。
パチパチと燃える薪の音だけが、不気味なほどの静寂を破る。
肌に感じる毛布の温もりが、この街の冷たさをより際立たせていた。
日が沈み、静寂が街を支配したその時――。
パチパチ……
少女「たすけて……たすけて……」
湿り気を帯びた、重く苦しげな声が響いた。
まるで、冷たい水底から聞こえてくるようだ。
カレン「向こうからみたいだぜ!」
カレンが魔法の光を灯し、声の元へと走り出す。私も後に続いた。
辿り着いたのは、一軒の朽ち果てたビルだった。
入り口は崩れ、暗い闇が奥へと続いている。
水の魔女「この下ですね。行きましょう」
地下へ続く階段を降りると、そこには獣を閉じ込めるような鉄格子の牢獄があった。
冷たい土の匂いと、微かに漂う血の臭い。
少女「助けて……っ」
重い鎖に繋がれ、今にも息絶えそうな一人の少女が横たわっていた。
その瞳には、もはや生への執着よりも、深い諦めと孤独が宿っているように見えた。
カレン「今、出してやるからな」
私達は錆びた鎖を魔法で断ち切り、彼女を救い出した。
冷え切った体を毛布で包み、焚き火の傍へ連れていく。
懸命に看病すると、やがて、少女がゆっくりと瞼を開ける。
カレン「水の魔女……起きたぜ!」
水の魔女「大丈夫? 具合はどう?」
少女「私、この街の人たちに嫌われていたの……」
少女「ある時、街に謎の病気が流行って、大人たちは恐怖で理を失ったの」
少女「『あの子が病を連れてきたんだ』って言われて……無理やり腕を掴まれ、あの冷たい場所に閉じ込められたの」
少女「寂しくて、悲しくて……でも、お姉さんが来てくれた」
少女「最後に、誰かに触れてほしかったの。ありがとう」
セレン「大丈夫。もう寒くないわよ」
少女は微笑んだ。
光が次第に強まり、体は水に溶けるように煌めく粒子となる。
闇へ消え、微かな雨のように降り注ぎ、大地を潤していった。
カレン「この街は、謎の病と……恐怖が生んだ狂気に飲み込まれて消えたんだな」
カレンの呟きに、私は静かに頷いた。
全身を蝕む病の痛み、次第に失われる希望、そして周囲の目。
だから、少女が感じた絶望も、そして皮肉なことに、死を恐れて誰かを犠牲にしようとした街の人々の醜い心情も、分かってしまう。
その両方の痛みが、今、私の胸を締め付けている。
水の魔女「人の感情って、本当に複雑ですね」
カレン「ああ、そうだな。……行こうか」
青白い光が少女を包み込み、粉雪のように舞い上がる。
新たな朝が、静かに訪れようとしていた。私達の旅は、まだ続く。
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