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ライブ当日。
楽屋は、いつもより少しだけ騒がしい。
メンバーがそれぞれ準備をしていて、スタッフの声も飛び交っている。
でも——
大智は、落ち着かなかった。
(……無理無理無理)
鏡の前で衣装を整えながら、頭の中はぐるぐる。
(あの“好き”ってなんなん……!?)
数日前、スタジオで言われた言葉。
あれ以来、仁人とまともに目が合わせられていない。
「大智、次メイク直しな」
「あ、はい!」
呼ばれて立ち上がる。
そのとき。
「……大智」
低い声。
振り返ると、仁人がいた。
(終わった)
心臓、爆音。
「ちょっと来い」
「え、いや今メイク——」
「あとでいいって言っとく」
「いやいやいや!」
腕を軽く引かれる。
そのまま、楽屋の端のカーテン裏へ。
「ちょ、ここで何すんねん!」
「静かにしろ」
距離が近い。
近すぎる。
「最近避けてるだろ」
「避けてへん!」
「嘘つけ」
「……」
言い返せない。
仁人が少しだけ顔を近づける。
「俺のこと見ないじゃん」
「……見れるかいな」
「なんで」
大智は目を逸らす。
「……あんなこと言われて」
小さな声。
仁人は一瞬だけ驚いた顔をして——
すぐに、少し笑った。
「ちゃんと気にしてたんだ」
「当たり前やろ!」
「冗談だと思ってた?」
「……思いたかったわ」
空気が一瞬静まる。
外からは、メンバーの笑い声。
でもここだけ、別の世界みたいだった。
仁人がそっと手を伸ばす。
大智の頬に触れる寸前で止まる。
「本番前だからやめとくけど」
「……え」
「今じゃなかったらキスしてた」
「は!?!?」
声を押し殺して叫ぶ大智。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てや!!」
「何」
「さらっと何言うてんねん!」
仁人は少しだけ意地悪に笑う。
「じゃあ今、答え聞く?」
「今!?」
「うん」
「いや無理!!」
大智は顔を真っ赤にして首を振る。
「本番前やぞ!?」
「じゃあ本番終わったら?」
「それも無理や!」
「逃げんなよ」
「逃げてへんわ!」
でも。
仁人の手が、そっと大智の手首を掴む。
優しいけど、逃がさない力。
「終わったら来い」
「……」
「ちゃんと聞くから」
真っ直ぐな目。
大智は、視線を逸らせなかった。
「……考えとく」
やっと絞り出した言葉。
仁人は少しだけ満足そうに頷く。
「よし」
そのとき——
「大智ー!次スタンバイ!」
外から声が飛ぶ。
「やばっ!」
大智は慌ててカーテンを出る。
その直前。
仁人が後ろからぽつり。
「逃げたら捕まえるから」
「怖いこと言うなや!!」
でも。
その声はどこか嬉しそうだった。
ステージへ向かう足取り。
心臓は、さっきよりもっと速い。
(これ……ライブどころちゃうやろ……)
それでも。
ステージの光が見えた瞬間——
大智は深く息を吸った。
(……あとで、ちゃんと向き合わなあかんな)
そして。
幕が上がる。