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(美澄さんと小竹さんは……どうしたのかな……殴られて、血が出てた……もしかしたら……っ)

二人がどうなったのか、それすら分からない詩歌はつい最悪の事態を想像してしまう。

そんな時、

「……そろそろ時間だ。お前はもうすぐ黛のトコに行くんだ。せいぜい可愛がってもらえよ」

「え……? 黛……?」

スマホを確認した迅がそう口にすると、聞き覚えのある名前に思わず声を上げる。

「知ってるだろ? 黛組。お前の居場所を探してる組織だ。俺は頼まれてお前を攫った。取引材料の為にな」

黛組――それは郁斗たちが話していた組織の名前。

売春斡旋をし、更に黛組の組長はその中から自身の好みの女を囲っているという最低な男で、詩歌自身が捕まれば……行方を探している義父や婚約者の四条は殺されてしまうかもしれないくらい、人とは思えない、悪魔のような危険な組織だという事を思い出して身体は拒否反応を示す。

「い……いや……っ郁斗さん……」

恐怖で郁斗の名前を呼ぶも、その声は小さ過ぎて外へ届く事はないだろう。

「無駄だ。アイツは今頃あの『樹奈』とかいう女を助けるのに忙しいと思うぜ?」

「樹奈……さん?」

「ああ、そうだ。だからアンタを助けに来る余裕はねぇんだよ。残念だったな」

樹奈の名前を出され、やはり彼女は自分のせいで巻き込まれていた事を知ると同時に、郁斗は自分じゃなくて樹奈を助けに向かったのだと知って落胆する。

(……郁斗さん……怖い……怖いよ……助けて……っ)

来ないと分かっていても助けを願わずにはいられず、心の中で何度となく郁斗に助けを求めた、その時、

ドンドンッという外からドアを叩く音が聞こえたのと共に、

「迅!! 居るんだろ? ここを開けろ!!」

詩歌が今、一番会いたかった郁斗の声が聞こえてきたのだ。

「何だ何だ? 郁斗は樹奈って女じゃなくて、嬢ちゃんを助けに来たってか?」

まるでこの状況を楽しむかのように笑みを浮かべた迅は詩歌に向けていた拳銃を持ってドアへと向かって行く。

「迅!!」

「そう喚くな。聞こえてるよ。今、開けてやるさ」

叫び続ける郁斗に聞こえるように迅が言うと、鍵を開けた。

「入れよ、郁斗」

そして、拳銃を構えながらドアのすぐ横に立った迅は郁斗へ中に入るよう促した。

(駄目! このままじゃ、郁斗さんが危ないっ)

その一部始終を見ていた詩歌は郁斗に入らないよう伝えたいのに、恐怖からか思うように声が出なくなっていた。

詩歌の心配をよそに、玄関のドアが開いた、その瞬間、

互いに銃口を向け合った二人が対峙する。

「まぁ、こうなるか」

「当たり前だろ? テメェ相手に警戒しねぇはずねぇんだよ」

郁斗は迅が銃を構えている事に気付いていたようで用心しながら中へ入り、迅と同じタイミングで銃口を向ける事が出来たのだ。

これには詩歌も驚き、目を見開いていた。

「……いく、と……さん……」

「詩歌……無事だったか。待ってろよ、今、助けるから」

詩歌を安心させる為のその台詞。

郁斗には何か策でもあるのかと思ったものの、状況は決していいものでは無かった。

一対一でのやり合いならば、勝てる勝算はいくらでもある。

しかし今は詩歌という人質がいる。

郁斗にとってはこの上なく不利な状況なのだ。

そしてそれは詩歌自身、痛い程よく分かっている。

自分の浅はかな行動のせいで、郁斗だけではなく美澄や小竹にまで迷惑を掛けてしまった事を後悔していた。

優しい彼の裏の顔は、、、。

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