テラーノベル
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暗い冬のヘルシンキ、アパートの窓から外を見ると、雪が静かに降り積もっていた。俺はソファに沈み込み、ビールの缶を握りしめながらため息をついた。隣に座っているのはお前、エストニアだ。長い金髪を肩に流し、柔らかい笑みを浮かべて俺の肩に寄りかかってくる。お前はいつも優しい。優しすぎる。フィンランド人の俺、フィンランドという名前で呼ばれているこの男にとって、それは甘い拷問だった。
「フィンランド、今日も疲れた?」
お前が囁くように言う。声が柔らかくて、俺の胸を締め付ける。お前はエストニアから来た彼女で、俺の人生に突然現れた春のような存在だ。俺たちはもう半年以上一緒にいるのに、まだ一度もセックスしていない。キスはする。抱き合う。ベッドで寄り添う。でも、それ以上には進まない。お前が優しすぎるから。俺が臆病すぎるから。あるいは、両方。
俺は心の中で叫んでいた。
「おい、エストニア。お前を押し倒して、服を剥ぎ取って、汗だくになるまで抱きたいんだよ。でもどうやって誘えばいい? 『SEXしようぜ』ってストレートに言うと、お前はきっと『え、急にどうしたの? 大丈夫?』って心配顔で返してくるに決まってる。優しさが俺の邪魔をするんだよ、このカオスな状況!」
夜が深まる。俺たちはいつものように映画を見ていた。画面では何かの北欧ドラマが流れていて、登場人物たちが雪の中で深刻な顔で話している。俺の頭の中はそれとは正反対だった。カオスだ。完全にカオス。脳内でシミュレーションが爆発している。
シミュレーション1:ロマンチックに誘うバージョン。
俺が突然お前の手を握り、
「エストニア、君の瞳はフィンランドの湖のように美しい。俺と一緒に、もっと深いところへ潜らないか?」
とか言う。するとお前はきっと目を輝かせて
「わあ、詩的! でもどういう意味?」
と聞き返してきて、俺は説明に詰まって
「つまりセックスだよ!」
と叫ぶ羽目になる。失敗確定。カオスレベルMAX。
シミュレーション2:ストレートバージョン。
「エストニア、俺とお前、セックスしたいんだけど。」
お前:「……え? フィンランド、具合悪いの? お腹痛い? 病院行こうか?」
俺:「違う! 性的欲求だ!」
お前:「性的欲求? それってストレス? マッサージしてあげようか?」
結果、俺はマッサージを受けながら悶絶するだけ。優しさがすべてを無力化する。
シミュレーション3:フィンランド流、無言バージョン。
俺が突然お前の上に覆いかぶさり、無言でキスを深くする。手をお前の腰に這わせ、ゆっくりと下へ……。
お前:「フィンランド? どうしたの? 何か嫌なことあった? 話して?」
俺の動きが止まる。優しい目で見つめられると、罪悪感が爆発して萎える。カオス。
「ねえ、フィンランド。何か考え事?」
お前が俺の頰に手を当ててくる。その指先が温かくて、俺はビールの缶を握りつぶしそうになる。
「お前……エストニア。お前は本当に優しすぎるんだよ。」
俺はようやく口を開いた。声が掠れている。
お前は首を傾げて微笑む。
「優しいって、どういうこと? フィンランドが好きだからだよ。いつも心配してるの。寒くない? お腹すいてない? 何かしてあげたいの。」
その言葉で俺の脳内がさらにカオス化した。好きだから優しい。優しいからセックスに進めない。セックスしたいから誘えない。誘えないからフラストレーションが溜まる。溜まるからビールを飲む。飲むからさらに誘えなくなる。無限ループだ。ヘルシンキの冬のように、終わりの見えない白い地獄。
俺は立ち上がり、お前の手を引いてベッドルームへ連れて行った。心臓がバクバク鳴っている。
「お前、ちょっと来い。」
ベッドに座らせて、俺はお前の目の前に立った。言葉を探す。フィンランド語で考え、エストニア語で考え、英語で考え、最終的に日本語の単語まで混ざってくる頭の混乱。
「SEX……したい。」
お前が目を丸くする。
「え? セックス?」
「そうだ。お前を抱きたい。服を脱がせて、肌を触って、俺のものを……」
言葉が途中で詰まる。顔が熱い。恥ずかしい。カオスすぎる。
お前は少し黙って、それから柔らかく笑った。
「フィンランド、そんなに緊張してるの? 大丈夫だよ。私も……したいって思ってた。でもフィンランドがいつも優しくて、急がない方がいいかなって思って待ってたの。」
……は?
俺の脳がフリーズした。お前も待ってた? 優しすぎて待ってた? 俺の優しさ(という名の臆病)がお前を待たせてた? この状況、カオスを通り越して、喜劇の域だ。
「お前……本気か?」
「うん。本気だよ。でも急にストレートすぎてびっくりした。」
お前は俺のシャツの裾を掴んで引き寄せる。
「もっと自然に誘ってくれたらよかったのに。例えば、キスしながら手を這わせるとか……」
俺は呆然としてお前を見つめた。優しさが互いを阻害していたなんて。フィンランドとエストニアの恋愛は、雪のように静かで、でも内側では火山のように煮えたぎっていたのか。
その夜、俺はようやくお前を押し倒した。キスは激しくなり、手は震えながらお前の服に伸びる。お前は優しいままだったが、今度はその優しさが俺を受け入れてくれた。息が重なり、肌が触れ合い、部屋にフィンランドの冬の寒さを忘れる熱気が満ちた。
でも、クライマックス直前で俺の脳内はまだカオスだった。
「これでいいのか? お前は本当に気持ちいいのか? 優しすぎて我慢してないか?」
そんな心配が頭をよぎる。
お前が俺の耳元で囁いた。
「フィンランド……もっと激しくしていいよ。私、優しいだけじゃないから。」
俺は笑った。苦笑いじゃなく、本気の笑いだ。この関係はカオスだ。でも、それが俺たちらしい。
翌朝、雪はまだ降っていた。ベッドでお前を抱きしめながら、俺は思う。
「お前、エストニア。次はもっと上手く誘うよ。……たぶん。」
お前は眠そうに笑って、「また優しく待ってるね。」と言った。
カオスは、まだ続きそうだ。ヘルシンキの長い冬のように。
(終わり……じゃない。きっとまた同じループが始まる。優しすぎる二人による、セックスの誘い方戦争。)
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みほり
明太子に食われる鈴木