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都が平城京から平安京へと変わり、日常も変わった。ハスは役人の1人となり、イネは后の侍女という役目を担ったのだ。よって、2人は自然と会う機会が少なくなっていった。



「ハスの君。帝がお呼びである。」

「はい。承知いたしました。」

向かったのは主上、冷泉天皇が鎮座する御殿。近づくにつれてワイワイとした声が大きくなっていく。角を曲がって出たところで案の定、帝が大声で歌っていた。

「み、帝!!」

「あぁハスの君!やっときたのか!」

大声で歌い、庭園で蹴鞠大会をしていた主上を見つけた。主上のみハキハキとしていて他の皆は疲れ、やつれた雰囲気をかもし出していた。

「お靴が汚れていらっしゃいます!蹴鞠のし過ぎですよ!」

「ははは、ハスの君は小言が多いな!」

「とにかく着替えましょう。御殿もお汚れになられてしまいますよ」

「あー、それは困るな。叱られてしまう。」

なだめながら中へ案内しているとうなだれていた皆が手を上げて苦しそうに笑っていた。きっと、解放された喜びか憐れみであろう。

「帝を叱責される,,,,というか、叱責できる方は中々いらっしゃいませんよ。」

「それもそうかー」

冷泉天皇は現代でも《奇行》をしていたと語り告げられている。しかし、視点を変えればそれほど愉快で物事を重く考えない、豊かな性格を持つ持ち主であったのだろう。

着替えを用意し、手伝っている中で静かに発言する。

「,,,,,なぜ私めをお呼ばれになさったのですか?政であるのならば喜んでお答え致しましょうが。」

「あぁ、まぁ政,,,,,にもなるのだろう。藤原一族のことだ。」

着替えが終わり、ドスンと思い切り座り込む帝に続き自らも座る。

「,,,,,,,,,,帝はなにかをお感じられになられましたか?藤原氏について」

「朕のただ1人妄想だと思ってくれても良い。ただ聞いてくれ」

膝をつき、リラックスしたような姿勢で話し始める帝にハスはそのまま姿勢を崩さない。

「いつか、藤原がこの政を担うと思うのだ。」

「天皇家に,,,,,影響を及ばさないように今のうちに,,,,,と?」

恐る恐る聞いたが帝は手を横にブンブンと振る。

「いや、見守ってやってくれないか。」

「それは、万が一のことがあれど藤原が実権をとって構わないと?」

静かに扇子を口に当てて俯く。

「,,,,,朕は争いが嫌いだ,,,,,この平安が永久に続けば良いのにと日々思うておる。朕も数月でこの位を譲り隠居だ。ハスの君。」

「はい」

「そなたにはこの倭を見届ける権利があるのだからな。気楽にいけばよいのだ。」

帝はバサッと扇を一気に開き、高笑いをする。

「,,,,,え?」

重い話かと思いきや楽観的な思考にうつったため思わずよろけてしまう。

「む?朕はなにか変なことを申したか?」

「い、いえいえ,,,,,」

「話は変わるがハスの君。」

パチンと扇子を閉じた音が響く。

「その名、改名しても良いのでは?」

「また,,,,,急ですね」

「蓮も良いのだが,,,,,この国はもっと良いものがあるだろう?そなたの妹君も改名するが良い。」

「妹,,,,,あぁ、イネのことですか。」

「女官や女房やらが色とりどりな名をもらう中、《稲》と,,,,,侍女といえどもう少し欲をもて。そろいもそろって謙虚な者共め,,,,そなたもだ。」

「は、はぁ。」

「許可は出した。あとは己で考えよ」


帰りの廊下で頭を悩ませながらゆっくりと歩く。確かに自分には苗字もないなぁと気づきふと御殿内にある池を見つめる。その池にある蓮の花は確かに綺麗なのだが、どこか純粋すぎる気もする。模索していると肩をツンツンと触られる感触があった。振り向くと扇子で顔を隠した女性がいた。

「,,,,,久しぶりねハス」「イネ。」

地位が上がり、また髪の毛が伸び上品さが増している。しかし、ぷっくりとしたふくらみはないため、時代の美人像にはあっていない。

「どうかしたの?私、お后様の宮へ行った帰りなのだけど、遠くから見てるとすごく目障りだわ。」

「め、目障り,,,,,。主上から申されたのですよ。名について。よく考えれば名を変えてもおかしくはないなと思い、改名しようかなと」

「あら偶然ね。私も、后から仰られたのよ。 《稲》はやめときなさいってね。」

2人目を合わせて沈黙が流れる。なぜか面白さが腹の底から湧いて大笑いしてしまう。

「あははは、まぁ私たちには時間がありますしね。ゆっくり考えてもいいんじゃないでしょうか?」

「ふふ、そうね。長い時間かけても誰も文句なんか言わないわ。」



更にまた時は流れ、時代は天皇の申した通り、藤原氏が栄華を誇った。ハスは上司として道長に従うことになり、イネはお后である、障子に仕えることになったのだ。


藤原邸では真昼間から宴会が開かれていた。それぞれが酒を持ち出し、歌を競い合ったりしている。道長は酒を飲みながらただ呆然と庭園にある華々を見つめている。

「道長様」「おぉ、ハスの君よ」

酌をしますと声をかけ、酒をついでいると道長が声をかける。

「ハスの君よ。己は名を変えたいと思わぬのか?」

「あー、まぁ,,,,,(何年も前に言われましたね)」

「思うならばこの道長がそなたにさずけてやろう。ありがたく思うがいい。」

「え!?」

「この藤原に仕えるのであろう?ならば一刻も早く変えねば。」

あまりにも急な展開についていけず、目を白黒させる。しかし、道長が関係なく髭を触りながら庭園を眺めながら言う。

「そなたの名は============」


一方、后宮内

女官も交えて札遊びをしていた。そして食の時間になったため女官たちは用意をするために席を外す。障子とイネ、2人のみになった。

「障子様。寝転がられるのはいかがかと。」

「いいじゃなーい。帝がずっと来られているのだから寝る時間がないのよ」

最初は心を閉ざしていた障子であったが、近頃は日々を楽しそうに過ごし、また御子を出産なされたことで笑顔が増えた。

「御髪が絡まってしまいますよ。」

「それは困るわね。イネみたいに美しい髪でいないと嫌だもの。たまにね、敦成に言われちゃうのよ」

「ふふ。嬉しい限りでございます。」

札を片付けているとスっと障子が近寄りイネの髪の毛を編んでいく。障子の癖だ。内気なとき、よくこうやって会話も交わさずなんでもない時間を過ごしてきた。

「ねぇイネ。」

「はい。いかがなされましたか?」

「貴方の名を変えたいの」「,,,,,,,,,,え?」

思わず振り向いてしまって編んでいた髪が解けてゆく。しまったと思っていると、

「だってだって!!」

目の前に座ったままの勢いで突進してくる。

「イネって!!食べ物じゃない!もっと花を持ちましょうよ!」

「で、ですが,,,,,」

あの内気な障子様が,,,,,と目をグルグルさせていると手をギュッと掴まれた。そしてキラキラした目を見せてくる。

「どうせ誰かに言われたことはあるのでしょう?それでも改名することがなかったのなら、しょうがないから私が付けてあげるわよ!そうね,,,,,そう。貴方にぴったりな名前があるのよ。」



再び2人は御殿内で会った。目が合うとともに一斉に小走りで近寄り、そして2人同時に、

「  「 あのね 」  」

「「,,,,,,,,,,,,,,,」」

声が揃ったことに沈黙すると、ハスのほうから話し始める。

「実は、名が変わりました。」

「えっ!?私もよ!」「え!?」

またも2人で大笑いしてしまった。イネが笑いすぎて屈んでしまうと、ハスは涙を拭きながら一緒に屈み、顔を見る。

「道長様がお付けなされました。           《菊。菊の君》です。」

「私は、障子様から授かったわ。           《桜、桜上》よ。」

いい名前ねとクスクス笑っていると少し強い風が吹き、庭園に植えられてある桜の木から花びらが散っていく。菊は着物に引っ付いた1枚の花びらを手に取り眺める。

「いいじゃないですか。この国で永遠に生き続ける私たちにとってこれほどお似合いなことはないでしょう。」

「ふふ。そうね。」


時は平安時代。ポカポカとしている平和な世の中は後もう少しで戦いの最中へと放り出される。

生きてきてよかった

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