コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
都道府県キャラでます
「徳子様のもとへ行ってくるわ。」
雪の降る中、いそいそと準備をする桜。
「私も着いていきます。帝にお振舞ってで,,,,」
2人いっしょにカゴへと乗り込み揺られる。何か話そうとするが言葉が見つからない。切り出したのは菊だった。
「徳子様はお元気でいらっしゃいますか?」
「えぇ。時に、気を病んでしまわれた時もあったけれどお元気でいらっしゃる。宮内は大丈夫よ。菊は?」
「,,,,分かりませんね。矢張り何処へいこうと平家の方々がいらっしゃいますが、特に清盛公の出入りが多いもので,,,,」
「,,,,いつ、ご退位されるのかしらね」
「桜!」
「時間の問題でしょうが。少なくともこの京の都で火事だけは起こさないで。洛さんの負担を貴方は知らないでしょう?」
「,,,,,,,,肝に銘じておきます。」
【洛さん】とは
日本の中でも都道府県の化身である。そして、後に「京都さん」と呼ばれる女性である。
その後は話をせずにいつの間にか屋敷へついていた。先に菊が出る。
「申し訳ありませんが、お先に失礼いたします。」
「えぇ。またね」
桜はそのまままっすぐに徳子の部屋へ向かう。道中屋敷のものに頭を下げられながら通っていると目の前に上品な着物を着た女性が現れる。扇をパチンと閉じ、頭を下げる。この現れた女性こそ、平徳子である。
「頭をあげて。貴方は頭を下げるほど地位は低くないでしょう?」
「いえ。天皇家には目を向けることすら無礼だと承知いたしております。」
「そう言わないの。早く来て」
「はい」
部屋に案内されるとそこには御子と静かな佇まいの女性がいた。この女性こそ、
「洛さん。」
「わっ!桜さんやあらへんか。久方ぶりやなぁ。」
「えぇ本当に。そして,,,,言仁様。ご機嫌麗しゅうございます。桜ですよ」
「ふふっ大きくなったでしょう?」
「本当に。子というのはまるでタケノコのようですわ。 」
女性の間で楽しく話をしている中、パタパタと足音が聞こえる。桜はそれを聞き取り、3人に静かにするように伝える。その足音がふっと止まる。
「どなたですか?ここは皇后様がおられる間でありますよ。」
「無礼を承知しております。我が名は菊と申します。」
菊という名を聞き、簾を持ち上げ女性は姿を現す。そして桜を先頭に菊の目の前へ移動する。
「主上がおよびでございます。」
しばらくして、高倉天皇が退位されるという報せを聞いた。いよいよ、平家のものが一世を風靡する時代が始まるのだ。
平家の命により、桜は宮内に頻繁に通うことはなくなった。菊も少しだけ位が下がったのだそう。何年か、静かに暮らすことになったのだが、ある日宮から兵が来た。
「陛下が都を落ちることになられました」
思わず口を抑えて崩れ落ちてしまった。菊もフラフラとし出して頭を抱える。
「また,,,,戦が起きるとでも,,,,?」
「はい」
菊のその問いかけに虚しくも兵は静かに応答する。桜が立てずにその場に呆然としている中、菊は頭を抱えながらも着物の襟を正す。
「,,,,分かりました。私もお供致しましょう。桜は,,,,どうしますか?」
「私,,,,は」
本来ならば足を使わずに移動するべきお方が雨の中自らの足で前へ前へと進む。華やかな着物も色あせ、淡さも失う。雨が強くなり、土がぬかるんで転んでしまう。
「あ,,,,泥、が」
手のひらも、膝も泥だらけ。辛うじて柔らかい土だったため、血は出なかった。それでもどこかが痛みを訴えていた。必死に泥を拭き落とし、今度は徳子の元へ歩み寄る。
「徳子様。陛下は私が見ています。どうかお休み下さい。 」
「ありがとう桜。でも、私はこの子の母だから。大丈夫よ」
その笑顔と呼ぶべき顔なのか、桜は何も言い出せずとにかく西へ移動していった。
薄暗い一室、安徳天皇は徳子の膝の上で眠っていた。静かな室内にドスドスと足音が響く。
「源氏が攻めてまいりました!もう陸は、占拠されております。海へ参りましょう」
兵のその息切れする声に安徳天皇は徳子の着物にしがみつく。
「母上」
「大丈夫。母上がついているわ。」
まだ10も歳をとっていない若き天皇は徳子にしがみつく力を更に強くして心配そうな顔をする。桜も続き、船へ乗ろうとしたときにぐっと袖を掴まれる。菊だ。
「桜」「菊」
他の兵士と同じく甲冑を身にまとい、頬に少し泥がついて疲れが目に見えていた。
「,,,,桜は、陛下と共に?」
「なにがあっても、この身は陛下と共に。」
「,,,,分かりました。どうか、ご無事で」
菊は礼をした後走り去っていった。そして、兵と同じ船に乗り移って弓矢を取り出していた。
波が荒々しくなり、船の中は混乱の渦に入る。女房たちはお互いの着物をギュッと握りしめ、徳子は我が子をしっかりと抱いていた。その中で徳子の母、時子が桜に近寄る。
「桜。三種の神器はありますか?」
「はい。この私の手の中に」
「そう。,,,,そこの、扉の横に置いていてくれないかしら?」
「手元になくてもよろしいのでしょうか」
「いいの。ありがとう桜」
ニコッと笑い、時子は天皇の頭をなでる。中の雰囲気が静かなのに対し、外は騒がしいそのものであった。
一方、菊の陣では殺伐とした戦いが繰り広げられていた。あっという間に源氏に責め立てられ、菊も首元に刀を押し付けられていた。
「,,,,あなたが源義経ですか」
「というと、そなたがこの国であるな?」
「よくご存知で。」
少し皮肉をこめたつもりで下を向く。もう降参であるという示しを見せつけた。そして義経は菊に手を差し伸べ上を向かせる。今度は兄上に味方してくれという義経の声に菊は何の返事もできなかった。黙っていると、水の音がした。そのあとも徐々に大きくなるその音。ハッとして面を上げればそこには天皇を抱えた時子がいた。
「時子様」
その声すらも、もう届かない。陛下を抱えあげなにか声をかけたと思えば時子は海へ飛び込んでいった。すぐ隣にいた女房も石を着物の中に詰め込み後を追って行く。そして、最後に徳子が隣を通る。無意識にキュッと着物の裾を引っ張ってしまう。思わずしてしまった行動に徳子は驚いた顔をしたが少し頬を緩ませ握っている着物の端をゆっくりと離し、桜の頭をなでた。いつも通りの優しい手だ。
「ありがとう。」
そういって、海へ飛び込んで行った。
国は、後を追えど死ねない。ただ、海の中を彷徨うのみ。呆然とその光景を力が抜けた後に見ているとポスンと頭を小突くような感覚に見回れる。菊であった。
「桜。ありがとう」
義経が声を上げ沈んでいく平氏を少しでも浮かばせようと必死に救助に回る。しかし、どこにも天皇の姿はない。桜も菊に連れられようとしたとき、一片の淡い着物を見た気がする。
しかし、歴代たった1人だけ。天皇を戦乱によってなくした罪を桜は誰よりも深く心に残していた。