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臣桜
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臣桜
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#暖かい休日の過ごし方
田中葵
2
#恋愛
らりるれろ
81
「脅すも何も、すべてお前が撒いた種だろうが。色欲に負けて女の運命を狂わせただけに留まらず、その子供がどんな地獄を味わおうが構わず、天上人の自分たちは悠々自適に暮らしていた? ふざけるんじゃねぇよ!」
樹が怒りを叩きつけたあと、シン……と座敷に沈黙が落ちる。
「俺は北條優那の元から連れ去られ、ある男の元で育てられた。そいつは心の底から北條優那を愛し、盲信していた。そいつが命をかけて愛した北條優那は、顔がいいだけのクズに弄ばれ、首を吊って死んだ。その男は、その絶望と伝わらなかった想いを、北條優那そっくりのツラを持つガキにぶつけたんだよ。……俺は育ての父親から、性的虐待を受けた。……それもこれも、お前がきちんと責任をとっていれば、起こらなかった悲劇だ」
三神は怖れの混じった目で樹を見てから、さり気なくその目を逸らす。――が。
「目を逸らすな! お前の前にいる俺こそ、お前のしでかした罪の結晶なんだ! 髪を伸ばして女物の服を着せられて育てられ、父親と思っている男に掘られた俺が! お前の息子なんだよ!」
春佳は樹が膝の上で激しく拳を震わせているのに気づき、そっとその手を握る。
「……わ、悪かった。謝る。……おい」
三神が言うと、秘書が小切手を出し、彼はそれにサラサラと金額を書く。
「一億で手を打たないか?」
「はっ」
その金額を聞いた瞬間、樹は鼻で嗤っていた。
「カネで解決できると思っているのは、さすがメガバンクの社長サマだな? それで? 俺の二十六年間の苦悩が、一億ごときで解消できると思っているのも流石だ」
そう言われ、三神は言葉に窮している。
「強請ってる訳じゃない。ただ、DNA鑑定を受ければ俺たちは事実上の親子だと証明できる。勿論、三神家の財産分与にも関わる事になる。……でもそんなゴタゴタには巻き込まれたくないし、お前の家族の恨みも買いたくない。……けどきちんと片づけたいと思うなら誠意を見せろよ。俺と母親の人生を台無しにした事を詫びて、二人分の人生がかかったと思わせる金額を提示しろ。そうしたら、今後いっさいお前に関わらないと誓約書でも何でも書いてやる」
金目当てではないとはいえ、この状況を割り切るにはそうするしかない。
心の籠もっていない謝罪をしたあと、三神がそのあとも恵まれた環境で幸せに暮すと思うと、腸が煮えくりかえる。
ならば相応の金額をもらって、手打ちにしたほうがずっとマシだ。
三神としても、今後いつ家族やマスコミにバラされるか分からない恐怖を抱え続けるより、そこそこ「痛い損失」と思う金を出し、〝約束〟できたほうがいいだろう。
「示談金という体で五億出せ。この一億と足して六億だ。年収で億単位もらっているメガバンクの社長なら、無理じゃないだろう」
その形にしたのは、示談金にすれば税金は掛からないからだ。
「わ、分かった」
三神は冷や汗を浮かべて頷く。
樹は軽蔑しきった目で父親を見る。
「……どうして北條優那を抱いた? なぜ子供ができたと分かっても放置した?」
その問いを聞き、三神は少し躊躇ったあと、溜め息をついて答える。
「……当時、私はとても傲慢な青年だった。三神家の長男として生まれ、見た目にも恵まれ、少し努力すれば勉強もスポーツもトップクラスになれた。苦労せずに美人と付き合い、当時周りにいた女性たちも『二人きりの時に自分を優先してくれるなら』とハーレム状態を許してくれた。……優那もその一人だったんだ」
「とんでもねぇクズだな」
樹は言い捨て、春佳も彼の意見に同意見を抱く。
「……妊娠は誤算だった。私はちゃんと避妊したつもりでいた」
俯いた三神の言葉を聞き、樹は目を眇める。
一瞬、とある考えが脳裏をよぎった。
養父が遺した手紙を読んでいて、優那は三神に弄ばれた哀れな女であるが、彼女自身も庸一を弄んだ、計算高い女だと感じた。
樹を庸一に託した時だって、彼ならなんでも言う事を聞いてくれると思ったから、無責任な真似ができたのだ。
だから学生時代、涼子は庸一に忠告したし、優那を嫌っていた。
恐らく優那は『自分の子を施設に預けるのは嫌だ』と思い、ある程度金を持っている庸一を頼ったのではないかと思っている。
それぐらい計算高い女が、うっかり妊娠すると思えない。
(……ゴムに穴でも開けてたんじゃないか?)
樹は心の中で呟き、北條優那ならやりかねないと感じる。
優那は三神と結婚したいがために自作自演をし、望み通り妊娠した。
しかし彼の愛を得られずに絶望したのだ。
だがここでそれを言えば、すべて台無しになるので黙っておいた。
「誤算でも、相手が妊娠したと知ったなら最後まで責任をとれよ」
樹が言うと、三神は俯いて黙り込む。
「……君には、詫びきれない」
かろうじてそれだけ言った父親を見て、樹はおざなりに溜め息をついた。
「今さらあんたに親としての情なんて求めねぇよ。……さっき言った通り、DNA検査をしてお互い納得したなら、手切れ金を渡してお互い〝なかった事〟にしよう。そしてそれぞれの人生を歩むんだ」
息子にそう言われた三神は、深い溜め息をついて頷いた。
「……君は優那に生き写しだな」
こちらを見た三神の目には、怯えの色が宿っている。
最初はいきなり現れた樹に「言いがかりをつけるな」と言おうとしたかもしれない。
だが自分しか知らない〝北條優那との間にできた子供〟について言及した上、優那そっくりの顔をしているなら、信じざるを得なかったのだろう。
加えて樹はDNA検査に応じると言い、その自信溢れる態度から九十パーセント以上、本物だと感じたに違いない。
今は北條優那そっくりの顔が、状況に味方してくれた。
だが樹はこの顔でいらない苦労をした。
「……ちっとも嬉しくねぇよ」
三神はこれ以上話す事はないと悟り、溜め息をついたあと立ちあがった。
「今日はもう帰らせてもらう。会計は済ませておくから、二人で食事を楽しんでくれ。DNA鑑定が済んだあと、もし君が息子だと判明したなら、〝示談金〟について、改めて秘書に連絡させる」
そう言った三神は、静かに個室を出ていく。
去り際に、秘書は「検査の結果が出ましたら、追ってご連絡いたします」と無機質な声で言い、慇懃に礼をして去っていった。
ドッと疲れを覚えた春佳は、大きな溜め息をつく。
「……あんな大金、要求していいの? 捕まらない?」
「応じたからいいだろ。あいつだって炎上して家族を失うよりマシだって思うだろ」
そう言ったあと、樹は向かいの席に移動してスタッフを呼ぶ。
「とりあえず、今はタダ飯でも食おう」
樹に言われ、春佳は微笑んで「うん」と頷く。
釈然としないが、こうやって一つずつケリをつけていくしかない。
三神家については樹に決定権があり、彼が決めた事に従うしかない。
これから会う北條家の人たちだって、樹がいなければ関わる事のない存在だ。
(私はどこまでいってもお兄ちゃんのおまけだけど、必要とされる限りついていこう)
そう思った春佳は、美しく盛られた先付を見て目を丸くし、滅多に食べられないご馳走を楽しむ事にした。
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コメント
1件
うわああ第48話…!!ついに樹くんの出生の真相と父親との対決回だったね😭💦 樹くんが「お前の前にいる俺こそ罪の結晶」って言い放つシーン、心臓ギュッてなったよ…。春佳ちゃんが握ってあげた拳も含めて、全部が重くて切なくて、でもちゃんと前に進もうとしてる感じが伝わってきた。 三神の「優那に生き写し」っていう締めの言葉も怖さと哀れさが混ざっててゾッとした…。次は北條家編かあ、春佳ちゃんの「必要とされる限りついていく」もグッときたし、続きが待ちきれない!📖✨