ルティからの期待の眼差しを一身に受けながら、おれは混ざりの無い魔石を放り投げた。だが魔石は何も反応を示さず、ガチャは成立しなかった。
「そ、そんなぁぁぁ……」
「ルティが落ち込むことないだろ」
「だってだって、アック様~」
「おれの装備はほぼ最強だし、武器も新たに求めなくてもいいわけだしな。ガチャで欲しいものを求めるとしたら知らないスキルとか便利なスキルくらいだぞ」
「わたしの専用魔石が覚醒したらすごいものが出るんでしょうか~……」
さすがに覚醒したら期待していいとは思うが。
――とはいえ、どこで魔石が覚醒するかも不明だ。魔石がおれに対し反応しなかったのは望むものが無かったからだろうな。こればかりは魔石に聞くことが出来ない。
しかしシーニャとフィーサ向けのものが出ただけでも十分だ。
「アック、アック! 似合っているか教えて欲しいのだ!」
「おっ!」
「前がよく見えないのだ~! ウニャ」
「シーニャ。そのフードを上げれば見えるぞ」
「ウニャウ?」
エレーヴクロークに着替えたシーニャが嬉しそうにしている。色合いは濃い碧色、胸部分には緋色の宝珠ペンダントが輝きを放ち、防御力の程度は不明ながら魔法耐性がありそうだ。
虎耳を隠せるフード付きでフードを深々とかぶって見せにきたあたり、相当に嬉しいらしい。黙っていれば雰囲気のある魔術師のようにも見える。
「ほら。シーニャの顔がはっきり出たぞ」
「フ、フニャ……アックが近すぎるのだ」
「お、驚かせたか? ごめんな」
「問題無いのだ! これでシーニャ、シーニャを隠せるのだ。ウニャッ!」
何やら恥ずかしそうにしていたが、すぐに機嫌を良くしてやる気を見せている。
……後はフィーサだが、人化を解いて剣に戻っていたようだ。
「アイテムのことが分かったのか?」
「不明な液体は人化では使えないと判断したなの! だから、わらわはしばらく人化しないなの」
「そうなのか。じゃあ鞘に戻って……」
「むむ~嫌だけど、仕方なくドワーフ小娘に付いててやるなの。どうせ落ち込んでいるはずなの」
ルティだけ出てないし気にしてくれているんだな。
「ルティにアイテムを持たせてやるんだな?」
「仕方が無いなの」
仲が悪いルティとフィーサ。それなのに、ルティの落ち込みぶりはさすがに同情を引いたようだ。おれが魔石ガチャを望まなかっただけなのだが、おれもなぐさめたくなる。
「とにかく、町へ入るぞ!」
◇◇
「ふわ~~! アック様、すっごく大きな泉が広がっていますよ~!!」
「……はぁ、何にも心配いらなかったなの」
フィーサのため息が聞こえる。
確かに町へ入ってすぐにルティは元気を取り戻していた。それにしても、ネクロマンサーたちの反応を見る限りではすぐに戦闘が始まると思っていただけに拍子抜けだ。
眼前に広がっているのはありきたりな町でなく、草原と泉がある庭園のような光景。もちろん家といったものは無く、人の気配も感じられない。
「町……だよな? どこかの森に転送されたとかじゃないよな……」
「ウニャニャ? 草原がどこまでも広がっているのだ~」
「シーニャは何か感じるか?」
「何にも無いのだ」
「……ふむ」
普通の村であればいきなり畑が広がっているというのは珍しくない。しかしグライスエンドは町だ。末裔が暮らしているのならかなりの人数が隠れているはずだが、まるで気配が無い。
果たして現実か幻か?
ルティとフィーサは泉の所に近付き、はしゃいでいる。水がある所も特に危険は無さそうだ。
『――こんにちは。きみはだれ?』
外門から町へ入ってすぐの草原――あまりに穏やかな風景に目を奪われていた、まさにその時だ。おれとシーニャの背後、つまり外門側から女性の声が聞こえてきた。声に全く気付けなかったし、気を付けてもいなかったわけだが。
「うっ? いつから後ろに……」
「ウゥゥ……!」
「何か気配がおかしいか……?」
敵意を出さなくても大体の気配は索敵スキルが自然と働くが、全く気付けなかった。一見すると人間に見えるがそうじゃない可能性がある。
「おれはアック・イスティ。きみは?」
「イスティ? そう、きみがそうなんだ。ぼくはリアン。この庭はぼくの庭」
「庭……? 君の庭ってことか。勝手に入ってすまないな」
「――あまり驚いていないのかな? それじゃあ……ゆっくりしていってね」
「えっ?」
てっきりすぐに戦いが始まるとばかり思っていたが、この女性は敵でも無ければ末裔でもないということなのだろうか?
エルフには見えないし人間でも無さそうだが、ひとまず様子を見るしか無さそうだ。
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