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あの夏と君はもう戻らない

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あの夏と君はもう戻らない

1 - あの夏と君はもう戻らない

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2024年09月01日

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友達の絵が素晴らしかったので許可をとって作品を書こうということです。

ちなみにこれが友達の絵です。

画像

素晴らしいですね。ということで書きましょう。


いつもの金曜日、8時半。帰路に無事着くことが出来た。途中で雨に降られたのは、不幸だった。おかげでずぶ濡れ。電車の中でも悪目立ちしてしまった。

まぁ私のせいでは無い。それもこれも、全部急な豪雨が悪いのだ。多分、私のせいじゃない。

電車が止まって、ゆっくり降りる。人混みにもみくちゃにされてさらに気分は落ちる。

傘を持っていないので、走って家まで帰る。あぁ、仕事用のスーツがびしょ濡れだ。最悪だ。

少しだけ濡れてしまった鞄の中から覗く名札。

そこに書かれた名前。「杉野 皐月」。

そう、私は杉野皐月。これといった特徴もなく田舎から出てきたただのOLだ。

暖かいシャワーで、冷えた体を塗り替える。シャワーの後の食事は面倒くさいから、いつもインスタントにしている。たまには自炊もしてみようかな、と思って辞める。その繰り返し。

少しだけスマートフォンが揺れる。その揺れを私は見逃さない。職業柄、反応速度は早くなってしまった。

見ると、実家からの電話だった。断る理由もないので、とりあえず電話に出てみる。

いつも通りのお母さんと、いつも通りのお父さん。それと高校生の弟、奏多。そんな人達にいつも通りの言葉を紡いだ。だけど今日は向こう側の雰囲気が違った。

「ねぇ皐月?貴女さえ悪くなければ、今度帰省しに来てくれない?」

「え、帰省?」

いつもよりも数トーン高い間抜けな声が出た。意外な言葉だったから。

あぁ、そういえばもうお盆だったけ。

私の実家は島にある。だから、行くのにはかなり時間がかかるし、それに、なにより。

これは思い出さなくてもいいか。

だが、帰省するのは悪くない。親には自分の顔を見せた方が、安心するというものだろう。

「分かったよ、お母さん。また、今週の土曜、そっちに向かうから。」

「あら、ありがとう。貴女の好きな魚料理、作って待ってるわ。」

「うん、ありがとう。」

とんっと指先で液晶に触れる。帰省するには、船に乗らなきゃ。船に乗るなんて、いつぶりだろう。昔は、島の外に行くため、沢山乗ったのに。もうそんな頃はとっくにすぎてしまった。



私は船に乗ると、かなりの確率で船酔いをおこす。どうも船の揺れと私の体は、相性が悪いらしい。悩ましい限りだ。

船酔いと格闘してるうちに、島に着いたらしい。皆が、口々に何かを言いながら降りていく。酔ったせいで、私は最後に降りた。

透き通るように果てしなく続く海。そんな海とはっきりと線を分けて存在する空。大きくわたあめの様に置かれた入道雲。

間違いない。ここは私の居た島だ。

懐かしさに、思いを馳せている暇は無い。早く島唯一のレンタルバイク屋に行かなければ。

一応原付の免許資格は持っている。久しぶりだが、大丈夫だろうか。心の中で、それを復唱しながら、おじさんから原付を貸してもらった。

黄色い原付。海の近くで見ると映える、レモンのような黄色の原付。案外可愛いのを貸してもらった。生まれつき隈の濃い私には、似合わない程に。

おじさんに感謝を伝え、原付を走らせる。もちろんヘルメットは着用して。危ないからね。

潮風が吹く。懐かしい匂い。確か、昔親友と遊びに原付を走らせた時も、こんな匂いがしていた。まぁ、今回は家から飛び出たんじゃなくて、家に向かうのだけれど。


古びた日本家屋。それが私の家。山の方にあるので、昔お化け屋敷と弄られたのも、今ではいい思い出だ。

チャイムを押すと、ぴんぽーんと高い音が鳴った。前は、家の中で聞いていたのにな。

ドタバタと走ってくる音がする。どうせ母だろう。客人とか、もてなすのが好きな人だから。

扉が開くと、案の定母がいた。昔よりもシワが増えていて、それでも笑顔は変わっていなかった。母は、まるでたんぽぽのようだ。

「いらっしゃい。さぁ上がって。お父さんも奏多も待っているわ。」

そう言ってそそくさと客間に戻っていく。知り合いが来る時もこんな感じだったな。

父は前よりも白髪が増えていたが、新聞を読んでいたので、すぐ分かった。父は本当に、新聞が好きだ。

奏多は、前よりも背が、伸びていた。私の背は、とっくの昔に越されているのに、気にせずどんどん伸びていく。それが、少し腹立たしくて思わず低い声が出てしまった。

お昼ご飯には、魚料理が出た。私の好きな鮭。

畳で正座して食べていると、なんだか懐かしくて。父が直ぐに食べ終わってしまうのも、母がテレビを見ていて食事が終わらないのも、奏多が好き嫌いが激しいのも。全部全部懐かしい。

私は、昔と違って直ぐに食べ終わってしまった。この空間に見合わなくて、少し寂しい気もする。

ようやく母が食べ終わると、私は買い出しを命じられた。商店街で、野菜を買ってきて欲しいのだと。

困ったな。商店街を行くには、私が苦手としているところを通らなくちゃいけない。

「アイス買ってきていいから。行ってきてくれない?」

「行く。」

アイスを買ってきていいとなれば話は別だ。即座に肯定の返事をし、身支度を始めた。


原付を走らせる。正直いって、歩いていってもいいのだが、原付の方が早いから。でも、久しぶりすぎておしりが痛い。バイカーあるあるだろう。かなり痛くて、そろそろ休憩でも入れようか、と思い出した時に。私が苦手としている、その場所についてしまった。

もう少し向こうで止まろう。ここで止まったら、またフラッシュバックしてしまう。

でも、毎回それは叶わない。

ほら、また止まっちゃった。

私がここを苦手としている理由。ここは親友が撥ねられて、死んだ場所。

親友の「夏山 音緒」が撥ねられた場所だ。


事故は私が高校一年生、つまり10年前に引き起こった。その頃はまだ、受験についても真剣に考えてなくて、ただただ退屈に生きておこうと思った。

でも、彼女は珍しく夏に転校してきた。

「夏山音緒です。神奈川から越してきました。よろしくお願いします。」

真面目な口調、でも明るいトーンで喋る彼女に、全員が目を離さなかった。

彼女は都会から越してきた、都会っ子ってやつだった。私の島ではそういう人はめずらしく手、すぐに人気者になった。

「この島って広いよね。みんなどうやって移動してるの?」

「車だったり、自転車だったり。みんな登校は徒歩か、自転車。」

「そういえば、杉野さんは原付だったよね。」

急に話を振られた。私はふとした時に振られやすい。

「そうだね。登校も原付だし。」

「え、乗ってみたい!」

「残念だけど、原付は原則2人乗り禁止。」

「えー!」

ここから彼女と私は仲良くなった。原付を乗る時の感覚とか。都会では沢山高い建物があることとか。島に来てから、空が綺麗に見える事とか。色々話した。

彼女は、本人の能力とか、才能で判断する人じゃなくて。人柄で判断する人だった。

どうやら私はいい人と判断されたらしい。彼女とは、よく話させてもらった。

流石に原付の免許を取ってきた時は、驚いたけど。でも、好きな物に興味を持ってくれて、嬉しかった。

彼女と一緒に、初めて海に行った時。いつもよりも自然が鮮やかに見えた。いつもは、慣れすぎていて、そんなこと微塵も思わなかった。

音緒はいつも明るく、この島のことを褒めたたえていた。ほら、運転している今だって、緑が綺麗って呑気に言ってる。

「海、きれい!」

「それは良かった。私は見慣れすぎてそんなに感動できないな。綺麗だとは思うけど。」

「えー勿体ないよ!こんな素敵なのに!」

「地元民は慣れたからな。そこまで凄いとはならないよ。毎日見るし。」

「私二ヶ月経っても感動するんだけど。」

「それはそれで素敵じゃない?」

音緒との会話はいつも通りの言葉を紡ぐ、作業みたいな会話じゃなかった。いつでも作業を止めたり、早めたりするような会話。私はそれが好きだった。

でも、終わるのは早かった。

その日、原付を停めた場所まで戻ろうとする。

すると目の前に鳥が飛んできた。珍しいことじゃないけど、驚いてしまって。思わず半歩下がってしまった。

それがいけなかった。後ろには音緒が居た。

私はそれに気付かなくて、音緒はバランスを崩して。道路に倒れるように飛び出して。その頃には車が来ていて避けられるような状態じゃなかった。

鈍い音と、骨が碎ける音。音緒が原付に乗せていた足が、車に巻き込まれていた。血の匂いと、潮の匂いが混ざって気持ち悪い。人通りが少なくて、野次馬は居なかった。即座に運転手の人が、救急車を呼んでくれたけど。

既に音緒の息は消えかけていた。

その後救急車で運ばれて、助からなかった。


今私が居るのは、そんな事故現場。

思い出したら、変な汗が出てきた。前髪が張り付いて気持ち悪い。昔は、あの頃は。いやそうじゃない。

音緒が居た頃は、気にもしなかったのに。

明るい空、入道雲。あなたは空。

あなたは明るく居ればいい。雲の上はいつも青空。いつだってあなたは青空だから。

空へ手を伸ばす。もしかしたら、音緒が居るのかも。

そんなことは無駄だと知っている。

あの夏と、君は、もう戻らない。

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