次の日、いつもの楽屋に入ると、すでに何人かのメンバーが集まっていた。
「おはよー」
軽く挨拶をすると、康二がすかさず近づいてくる。
「お、めめ!遠征どうやったん?」
その一言で、楽屋の空気がふわっと動いた。
「遠征?あぁ、照と行ってたやつ?」
佐久間くんが興味津々に顔を向けると、ラウールまで「楽しかった?」と聞いてくる。
「…まあ、普通に仕事だったし」
なるべく何でもなかった風を装って答える。
「えー、なんかおもしろい話ないの?」
「お土産とか買った?」
次々に飛んでくる質問に、適当に相槌を打ってやり過ごそうとするが、ふと阿部ちゃん言った。
「めめ、ちょっと声枯れてない?」
「ほんまや!めめ大丈夫?」
一瞬、心臓が跳ねる。
「いや、別に。疲れが残ってるだけ」
「ふーん?」
阿部ちゃんの意味ありげな視線に、誤魔化すように視線を逸らした。
「てかさー、照は?」
ふいに翔太くんが尋ねる。
「もうすぐつくってさ」
館さんが答えた。
「照が遅いの珍しいね」
「遠征で疲れてるんでしょ」
メンバーがワイワイと話し始めたことで、ようやく自分への質問が逸れたことにホッとしたのも束の間、ドアが開き、岩本くんが入ってきた。
「おはよう」
「おはよー」
岩本くんが入ると、みんなが一斉に目を向ける。
「……」
「……」
気まずさを感じたけど、ふっかさんがすぐにニコニコしながら話しかけた。
「ねぇ、照、遠征どうだった?」
「うーん、普通だよ」
「それだけかよ笑」
ふっかさんと岩本くんが楽しそうに喋り始める。
「てかめめ、急に黙るやん!」
「え… 別に黙ってないし」
「え〜ほんまに?絶対なんかあったやろ!」
「なんもないって!!」
必死に誤魔化していると、岩本くんが怪訝そうにこちらを見てきた。
「……なに? どうしたの?」
「いや、なんかめめが遠征の話になると歯切れ悪いんよな〜」
康二がニヤニヤしながら言うと、岩本くんは「ああ……」と軽く頷いた。
「目黒、昨日酒飲みすぎて、記憶飛んでんじゃね?」
「!!??」
「……まぁ、変なこと言ってたけど、特に気にしてねぇよ」
「!!!!!?????」
「えっ!めめ、酔って何か言ったの?」
「いやいやいや!! 何も言ってない!!」
「いや、言ってたよ」
「照にぃ、何言ってたん?」
「……言わねぇよ」
「うわー! 絶対なんかあったでしょ!!」
「ちょ、待っ、岩本くん!! みんなも変なこと言わないで!!」
「ははっ」
ニヤリと笑う岩本くん。
その余裕そうな表情が、逆に俺の焦りを煽る。
「めめ、マジでなに言ったの!? これは問い詰めるしかないなぁ〜!」
「ラウやめろって! ほんとに何もないって!!」
「いやいや、照が『変なこと言ってた』って言ってるし!」
「だから、それは——!!」
必死に弁解しようとしたけど、岩本くんは、何も言わずに笑っていた。
その笑顔が、なんか、ズルいくらい優しくて。
また、心の中で小さくため息をついた。
コメント
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何か言っちゃったんだね。