テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第2章 - 闇の中で
王子が私の髪に捕らえられて動けなくなった。その瞬間、私の中で何かが覚醒した気がした。心臓が激しく鼓動し、血が全身を駆け巡る。恐怖とともに、喜びが私を包み込んでいくのが分かる。私はあの王子に、何もかもを見せつけるべきだと思った。彼が私をどう扱おうとしているのか、私の力がどれほど恐ろしいものであるかを。
王子が息を呑んだ。私の力が彼の体に絡みつき、束縛しているのを感じる。彼の目には驚きと混乱が浮かんでいた。それを見た瞬間、私は少しだけ冷静になった。彼の反応を見ると、私の力を恐れているのがわかる。でも、どうして?彼は私を救いに来たはずではなかったのか?
「ラプンツェル…何を…?」王子の声が震えている。その声に、私はもう一度耳を傾けた。
「あなたは私を助けに来たつもりでしょ?」私は冷たく言い放った。「でも、あなたが本当に私を助けたいなら、私を理解しなければならない。私はあなたのような普通の人間じゃない。私の力は、ただの力じゃない。それを知っているでしょ?」
王子は無言で、必死に私の髪から手を引こうとする。しかし、私の髪はまるで生き物のように彼を捉え、引き寄せる力を増していく。彼が少しでも動こうとすれば、髪がさらに絡みつき、ますます動けなくなる。
私はその様子をじっと見つめていた。彼の顔には困惑と恐怖が浮かんでいるが、それでも彼は諦めることなく、必死に抵抗しようとしている。
「なぜ、私にこんなことを?」王子が目を見開きながら、弱々しく問いかける。
私はその問いに答えようとしたが、言葉がうまく出てこない。私の心の中で、王子に対する複雑な感情が渦巻いている。王子は「善」の象徴だと思っていた。しかし、その「善」が私にはどこか不気味に感じられる。彼が私を「助けよう」とすることが、私をどれほど苦しめるのか、私は知っていた。外の世界で「自由」を手に入れることが、私の力にどれほど危険をもたらすのかを、私は理解していたからだ。
私が手に入れた力は、単なる解放ではなく、支配の力だ。もし外に出れば、私の力が暴走し、世界は私の思い通りに動かされるだろう。それが恐ろしいことであり、同時に魅力的でもあった。
私の髪に絡みつかれた王子は、まだ必死に動こうとし続けている。しかし、私の力が彼を支配し、彼の動きを封じ込めていく。その瞬間、私はふと気づいた。私はもう、この塔の中だけでなく、世界そのものを支配したいと思っているのかもしれない。
「お願いだ、ラプンツェル!」王子の声が弱々しく響く。彼の目には涙が浮かんでいた。
その涙を見て、私は何かが胸の中で揺れるのを感じた。それは、初めて外の世界に触れた瞬間のような、不安とともに温かいものが混じり合った感情だった。
しかし、私はその感情に背を向けた。王子の涙を見ても、私は何も変わらない。私はまだ、塔を守り、私の力を守りたいのだ。王子がどれほど私を心配してくれようとも、彼が私を助けることが、私をどれほどの絶望に追いやるのかを私は知っている。
「あなたには、私の力を理解することはできない。」私はそう言って、髪を引き寄せた。王子はその力に押しつぶされ、足元が崩れていく。
その瞬間、私の中で何かが壊れたような気がした。私は自分がどれほど孤独だったのか、どれほど外の世界を恐れていたのか、ようやく理解した。しかし、理解しても、私はまだこの塔の中で生きるしかないのだ。
王子はもう動かなくなり、私は彼のことを無視して再び塔の窓を見つめる。外の世界は、今や私を遠ざける存在ではなく、私を引き寄せるものとして私の中で変わりつつあった。外の世界が恐ろしいものであると同時に、私はその中に何か美しいものを感じ取っていた。
その時、塔の中で何かが鳴ったような気がした。私の力が震えているのだろうか、それとも外から何かが迫っているのだろうか?
「ラプンツェル。」王子の声が静かに響いた。彼はまだ意識を取り戻していなかったが、その声が私の心に何かを触れたような気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!