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スマホの画面を見つめたまま、ないこはしばらく動けずにいた。
まろの友達。
あの二人と過ごした時間を、ふと思い出す。
まろがいなくても、
逃げずに話せた。
ちゃんと、その場にいられた。
(……もう少し、話してみたい)
理由ははっきりしない。
感情なのか、挑戦なのか、それすら曖昧だ。
LINEを開く。
トーク画面には、以前追加したままの名前。
文章を打っては消して、
また打って、消す。
『突然すみません』
硬すぎる。
『今度、また』
用件がない。
胸の奥が、少しだけざわつく。
それでも、指を止めなかった。
しばらくして、ようやく送ったのは、短い一文だった。
『この前はありがとうございました。
もしよかったら、またお話しできたら嬉しいです』
送信。
既読がつくまでの時間が、やけに長く感じる。
——ピコン。
『こちらこそ! 全然ええで。今度また遊ぼ』
画面を見た瞬間、
ないこの胸が、少しだけ跳ねた。
(……返ってきた)
すぐに返事をしなきゃ、と思うのに、
今度は言葉が浮かばない。
深呼吸して、もう一度打つ。
『ありがとうございます。 今度、時間が合えば……』
数秒後。
『来週とかどう? カフェでも行こ』
短い提案。
でも、それは“次”を約束する言葉だった。
ないこは画面を見つめて、
小さく、息を吐く。
『はい。お願いします』
送信したあと、
しばらくスマホを持ったまま動けなかった。
怖くないわけじゃない。
ちゃんと話せる自信も、まだない。
それでも。
誰かと会う約束を、
自分から取りつけた。
その事実が、胸の奥に静かに残る。
(……俺、少しは)
翌日。
夕飯を食べ終えて、二人で片づけをしていたときだった。
まろが何気なく言う。
「そういや、スマホずっと見てたな」
心臓が、少しだけ跳ねる。
「……えっ」
皿を拭く手が、一瞬止まった。
「誰かと連絡してたん?」
責める調子じゃない。
ただの確認。
それが余計に、逃げづらかった。
「……まろの、友達」
その言葉に、まろは動きを止めた。
「友達?」
「うん。 この前、遊んだ時の…」
少し間を置いて、続ける。
「……俺から、LINEしたの。」
正直に言った瞬間、
胸の奥がひやっとする。
まろは驚いたように目を瞬かせてから、
ゆっくりと息を吐いた。
「そっか」
「……怒って、る?」
思わず出た言葉だった。
まろはすぐに首を横に振る。
「怒ってへんよ」
それから、少し考えるように言う。
「正直、びっくりはしたけどな」
「感情を、もう少し出せるように なりたくて」
言葉にするのは、まだ難しい。
「今度、会うん?」
「……うん。約束した」
一拍の沈黙。
ないこは、何か言われる覚悟をしていた。
止められるかもしれない、と。
でも、まろは静かに言った。
「ええやん」
顔を上げる。
「自分から動いたんやろ」
その声には、誇らしさが混じっていた。
「俺がおらんとこで、 誰かとちゃんと関係作ろうとしてるの、 悪いことちゃう」
「ただ」
まろは、少しだけ真剣な目で続ける。
「不安になったら、ちゃんと帰ってきてな」
“家に”じゃない。
“俺のところに”。
その意味が、俺にもわかった。
「……うん。」
小さく返事をする。
まろは、ぽんとないこの頭に手を置いて、
すぐに離した。
「応援してる」