テラーノベル
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お見合いから、ちょうど一年。
特別な飾りつけも、派手な予定もない。
テーブルの上には、いつもより少しだけ豪華な料理が並んでいた。
「今日で一年やな」
まろがそう言って、カレンダーを見る。
「…そうだね」
一年、という数字がまだ実感として落ちてこない。
あの日は、何も感じていなかった。
逃げ道を探しながら、座っていただけだった。
食事をしながら、他愛もない話をする。
沈黙も、もう怖くない。
「一年、早かったな」
まろの言葉に、ないこは少し考える。
「長かった気もする、」
正直な答えだった。
まろは笑って、
「どっちもやな」
そう返した。
食後。
ケーキを切り分けて、皿に乗せる。
「記念日やしな」
そう言って差し出されて、
一瞬だけ、戸惑う。
甘いものは、嫌いじゃない。
でも、こういう“意味のある時間”には、まだ慣れていなかった。
一口、口に運ぶ。
「…おいしい、」
その声は、前よりも少しだけ柔らかい。
まろはそれを聞いて、何も言わない。
ただ、安心したように息を吐いた。
「なぁ、ないこ」
「ん?」
「この一年、どうやった?」
聞かれて、ないこはしばらく黙った。
簡単に言える言葉はない。
苦しかったことも、怖かったことも、全部含めての一年。
「……まだ、全部わからない」
そう前置きしてから、続ける。
「でも前より、ちゃんと感じてる気がする」
胸の奥を探りながら、言葉にする。
「怖いとか、落ち着くとか…… たまに、嬉しい、も」
最後の言葉は、小さかった。
その瞬間。
ないこの口元が、ほんのわずかに緩んだ。
自分でも気づかないくらいの、
でも確かな笑み。
まろは、その変化を見逃さなかった。
「……今、笑ったな」
指摘されて、ないこははっとする。
「そ…か、」
慌てて表情を戻そうとして、
でも、戻せなかった。
「無理せんでええ」
まろはそう言って、穏やかに言う。
「それでええねん」
感情は、まだはっきりしない。
笑うのも、ぎこちない。
それでも。
お見合いで始まった関係は、
一年かけて、ここまで来た。
ないこは静かに思う。
俺、ちゃんと変われてる。
その夜、
二人は並んで座りながら、
いつもより少し長く、同じ時間を過ごした。
それが、一年の答えだった。
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