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突然の瑞奈からの謝罪。
「何がだよ」
瑞奈に目を向けると、夕暮れを見つめたままの彼女の顔の輪郭が、夕闇に溶け込んでいた。
「……結婚。お父さんから聞いたよ」
「……ああ」
言葉が続かず、俺も瑞奈も、それっきり口を噤んだ。
寄りかかってきた瑞奈に俺はハッとする。感じる重みが、……軽すぎる。命が削られている事実を、俺は突きつけられた気がした。風が強まり散り散りになるうろこ雲が涙でぼやけていく。
「でも、やっぱ、あたしとは結婚しにゃい方がいいと思う。いいと思うじゃにゃくて、んー、結婚するにゃ。あたしはもう晴翔くんの足を引っ張るだけだかりゃ」
「そんなこと言うなよ」
「言うよ!」
瑞奈の声が上擦った。下唇を噛みながら、今できる精一杯の目で俺を睨む。
「お願い。もうあたしのことは忘れて。別れよ。それがいいにょ!」
「ちょっと待て、おまえいきなり何を言いだすんだ――」
「別れて別れて別れて! それで新しいヒトを見つけて。もっと健康で、もっと優しくて、あたしの次に綺麗なヒト。それで、サッカーに打ち込んで。あたしのことにゃんか気にしにゃいでサッカーに没頭できりゅ環境を手に入れて。このままじゃ晴翔くんのサッカーへの情熱が冷めちゃう。もう、あたしから離れて、羽ばたいて。新しいフィールドへ向かって!」
「瑞奈、落ち着けって」
「落ち着いてるよ! じゃなきゃ、こんなこと言えにゃい! あたしは死にゅんだよ!でも、生きたいの! 生きることに執着するとこを晴翔くんに見せたくにゃいにょ! ねえ、分かってよ! 分かってよ!」
瑞奈が俺の胸を叩いてきた。力を込めているつもりなのかもしれないが、全く力が伝わってこなかった。幼児に叩かれているみたいだ。それでも瑞奈は叩くことを止めない。ぜいぜいと呼吸を荒げ、涙を溢れさせながらぶってくる。痛くないのに目の奥がつんと来た。
「瑞奈!」
「うるさい! もう声出すにょも大変にゃにょ!」
「瑞奈ぁっ!」声を裏返しながら叫んだ。
「帰って! もう来にゃいで! もうあたしと会わないで! 二度とここに来にゃいで! ああああああーっ……?」
ぶぶぶぶぶぶ。ぶぶぶぶぶ。ぶぶぶぶぶ。
「――」
「――」
俺のスマホが振動していた。
ディスプレイには見慣れない番号が表示されている。家電からだ。おそらくは今いる長野県に隣接する地域ないしは近くから。
ぶぶぶぶぶ。ぶぶぶぶぶ。ぶぶぶぶぶ。
嫌な予感しかなかった。
躊躇する俺に、瑞奈が言う。
「出て」
おそらく瑞奈が考えていることはあたっている。そして、それは俺が考えていることでもあった。『応答』を震える指先でスワイプした。
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