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研究院を扉を開けるとそこには沢山の人や道具があり、皆それぞれの研究に夢中そうだ。周りを見てるとティティアが目を輝かせ口を開いた。
「お姉様!」
ティティアは駆け寄り姉に抱きついた。姉は少し戸惑ったような顔をしたがすぐ優しい微笑みに変わり、
ティティアの頭をゆっくり撫でた。
焦げ茶色の三つ編みは腰まであり、少しオーバーサイズの白衣を纏い、袖を捲っている。ティティアのまさにお嬢様と言う雰囲気とは違いどちらかと言うと真逆の村娘の様な雰囲気だ。前髪は鼻まで伸びている。
「貴方がノアで合ってるかしら」
「はいそうです」
「私はディータ・チーロ・フィティムよ、よろしく」
「それにしても…」
時々見える両目はティティアと同じローズクォーツの色をしている。こちらを見つめるその両目はまるで獲物を見つけた猫のようだ。
「おもしろい…」
「へ?」
「あっごめんなさい何でもないわ」
何でもないと言われたがノアは少し気になった。
ただノアは詳しく聞く勇気はなかったため、聞くのはやめた。ディータより背の小さいティティアはディータに少し上目遣いで喋りだした。
「ノアくんは研究院の人に呼ばれたのよね?お姉様が呼んだの?」
「いいえ、私じゃないわ。呼んだのは_」
「呼ばれた気がしたので来ました」
「ひえっ…」
ノアのすぐ背後で声が聞こえ、後ろを向くとノアより背の大きい男性がいた。
「…呼んではないですけど、いいタイミングでしたね。レエヴさん」
レエヴ、ディータや周りの人のように白衣ではなく漆黒のドクターコートのようなものに身を包み、くすんだ濃い青の髪に毛先は鮮血のような紅。吸い込まれそうな黒い瞳に雪の様に白い肌。
それはまるで人々を見惚れさせる妖狐の様だった。
「びっくりさせてしまいましたか?それは失礼。
わたくしはレエヴ・ドゥ・エレダールと言います」
「お姉様、この人がノアくんを呼んだ人?」
「ええ、そうよ」
「なんかちょっと…胡散臭_」
ディータが急いでティティアの口を手で塞いだ。ティティアはもごもご言っている。
「貴方、今記憶喪失で困ってるんですよね?」
「え、なんでそれを…」
「結構、噂流れてますよ?『記憶喪失の異邦人が暴走した神龍を鎮めた』なんて噂」
「は、はぁ…」
合ってはいるけどなんか変な気持ちになるな、とノアは思った。
「丁度私今、記憶の研究をやっていましてね、貴方の助けになれるんじゃないかと思いまして、私の研究も進んで、貴方の記憶も戻る。ウィンウィンだと思うんですけど?」
「なるほど…」
「まぁ聞くよりも見たほうが早いんですけど…どうです?」
「記憶が戻るかもしれないんだったら…」
「よし、OKってことですね。行きましょう」
「え、えぇ!?」
「ティティア、私達も行きましょ」
「えっ…でも、」
「あんなのに付き合ってる方が馬鹿馬鹿しいわ」
「お、お姉様がいうなら…」
「よし、着きましたよ」
「ここが私の研究室です」
「私は研究院の方々とは別の特殊な実験をしているので研究院から少し離れた所で研究してるんですよ」
手を引っ張られ、少し場所で移動してから連れてこられたのは教会の様な場所だった。地下の筈なのに何故かステンドグラスは光を透している。部屋の中央には棺桶の様な物があるようだ。棺桶に近づくとそこには_。
夢の中で処刑された女性によく似た人物が居た。
彼女の肌は異常な程青白く、黒色のワンピースを身に纏い、安らかな表情で沢山の花に包まれ眠っている。
「この方を見て何か思い出すことは?」
「分かりません…」
「…そうですか、残念ですね」
「じゃあ、こうすれば思い出せますか?」
パチンとレエヴが指を鳴らした途端、身体から力が抜け、ノアはその場に倒れ込んだ。
力が入らず立つことができない。
「私を信用してくださって有難う御座いました。まさかこんな上手くいくとは」
ノアはこの男に騙されていたのだ。
「今何を…」
「そうですね〜…どうせ次貴方が目覚めたときは忘れてるだろうし、分かりました。全部話してあげましょう」
「貴方にちょっとした術をかけただけですよ。数時間経てば解けます」
「貴方の目的は一体…」
「目的…ですか、任務ですね」
「任務?」
「私の任務は現時点で貴方が記憶を思い出したとき貴方がそれに耐えられるかどうかを調べる事です」
「今から貴方の失くした記憶の一部を見せます」
「全部思い出しても後の方々の役目が面白いものじゃなくなってしまうので…」
ノアの頭に激痛が走った。記憶が段々と戻っていく。自分が何をしたのか。自分がどんな罪を犯したか。罪悪感と自分への嫌悪感で胸が締め付けられる。
目の前には空にまで昇る赤黒い炎。その炎に包まれたノアの故郷。焼け焦げた木の匂い。人々の悲鳴。血の匂い。紅く染まった自分の両手。自分の腕の中で氷の様に冷たくなっている妹。
晒しものにされた母と父の首。それを見て歓喜の声を上げる民衆。
涙で視界がぼやける。もう何も見たくない、何も聞きたくない。そう思っても今まで失っていた記憶がどんどん頭に流れ込んでくる。頭痛も酷くなってくる。
「もう…やめてくれ…」
やっとの思いで振り絞って出した声はとても小さな嘆きだった。
「貴方の大切な者の命は皆、この世の神々とそれらを狂った様に崇拝する者達が奪っていきました」
「神界…」
「貴方の親は神に逆らった事で処され、貴方の妹は天罰を下され…貴方の大切な者達は正しい事をやっただけなのに」
「ノア、貴方に問います。貴方はこの狂った世界を作った神々共を正したいと…そう思いませんか?」
「僕は…」
ノアはうつ伏せになって倒れた。
「流石に耐えられませんでしたか。…まぁいいです、返事は待ってあげます。次会ったときは必ず答えてくださいね?」
そう言うとレエヴは白銀の水に身を包まれ姿を消した。
ステンドグラスの光はノアに影を落とし、嘲笑うかのように光り輝いていた。