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本部
「定義が追いつかない」
翌週。
定例資料に、
一つだけ
空欄ができた。
> KPI補足指標:_____
誰も、
埋められなかった。
成果は出ている。
数字は揃っている。
利用者満足度も、
むしろ上向きだ。
だが、
説明ができない。
「なぜ上がっているのか」
「何が効いたのか」
「再現できるのか」
そのどれもに、
答えがない。
誰かが言う。
「……成功例が、
成功として
定義できていません」
それは、
失敗より
厄介だった。
佐伯
「数値がなくなったあと」
佐伯の端末から、
一つの指標が
消えた。
α-7。
正式には、
「誤解を招く可能性があるため
参照停止」。
削除理由は、
丁寧だった。
だが、
代替指標は
提示されていない。
佐伯は、
しばらく画面を見つめ、
それから
会議室で
発言した。
「……数字が、
なくなりました」
誰も、
驚かない。
「別の指標で
説明してください」
「ありません」
空気が、
ざわつく。
佐伯は、
初めて
数字なしで続けた。
「でも、
何かが違う
という事実は
消えていません」
それは、
本部にとって
危険な発言だった。
本部
「発言権の制限」
翌日、
佐伯に
通達が届く。
> ・定量データを伴わない
意見表明は
当面控えること
・分析部会への
出席はオブザーバー扱い
理由は、
「混乱防止」。
佐伯は、
反論しなかった。
ただ、
自分のメモに
こう書いた。
> 数値が
なくなった瞬間、
私は
危険になった。
月影
「知らされない」
月影には、
何も来なかった。
通知も、
注意も、
更新も。
会合があったことも、
知らされない。
それ自体が、
異常だと
月影は思った。
だが、
理由は
聞かれない。
聞かれない限り、
答えは
必要ない。
月影は、
業務を続ける。
未選択を、
手元に
残したまま。
利用者たち
「静かな日常」
名取 静(スタンダードプラン)
朝、
同じキッチンで
コーヒーを淹れる。
会話は、
必要最低限。
でも、
気まずくない。
「今日は夜勤?」
「うん」
それだけ。
名取静は、
これを
“依存していない”
状態だと思っている。
安心しているが、
寄りかかっていない。
本部の資料には、
この感覚を
書く欄がない。
【下僕プラン】利用者たち
指示は、
具体的。
感情は、
混じらない。
だから、
揉めない。
だから、
壊れない。
想定外に、
健全。
想定外すぎて、
売り文句にできない。
花子
「言葉を持っても、動かない」
花子は、
提出した言葉の
続きを
出さなかった。
行動も、
変えない。
相変わらず、
必要なところだけ
使う。
「完成」という言葉を、
口にもしない。
否定もしない。
それが、
一番効くと
知っているから。
本部
「不安の正体」
誰かが、
ぽつりと言う。
「……管理できてない
感じがする」
それだ。
問題は、
そこだった。
健全が、
悪いのではない。
管理できない健全が、
怖いのだ。
だが、
それを
公式文書に
書くことはできない。
理念案は、
再び
差し戻される。
収束しない余波
佐伯は、数値を失い
月影は、理由を知らされず
花子は、言葉を使わず
利用者たちは、静かに暮らし
本部だけが、理由のない不安に囚われる
そして、
誰かが
次に言い出す。
「……未選択を
定義し直す必要が
あるのでは?」