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君と夏

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君と夏

20 - 3話 焦れと約束

♥

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2024年11月30日

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時間の流れが早い。

普段から多少は思えど、ここまで感じるのは久方ぶりだろう。

暑い暑い帰路の途中、そう思った。


世間一般で言う間接キスをした二人は、とても紅くて少し可笑しく感じる。

藤花ちゃんは顔を背けて震え、紅は名前に恥じぬほどの赤面ぶりだ。

葵ちゃんとあんなに話し合った甲斐がある、と自分の事を褒め称えたくなる。

紅は愛が強い。一途なのは良いがそれ故に暴走しないか常に隣に居た俺は心配している。

万が一、紅が自分も周りも見失いそうになって何かしら凶行に走ろうとしたら何が何でも止めると小学生の時にひっそりと誓った。

「お熱いね二人共」

「ち、違っ!そんなんじゃ…」

「大丈夫責めてない。俺は寧ろ嬉しく感じているぞ」

「私も保護者になった気分よ」

同級生四人と言うよりかは、二人の年頃と保護者の構図になっている。

「人の色恋なんて無闇やたらに晒すもんじゃないしな。からかってる奴がよく分からねぇよ」

「朔君の言う通りよ。私達は周りに言いふらすつもりなんて全く無いから安心して」

二人に気遣いつつ声を掛ける。この時期の学生は何かと人の恋に首を突っ込みがちだ。

正直、からかったり誰かに言ったりするのは野暮だと俺は思う。

「あ、ありがとう…?」

「ドウイタシマシテー!」

何がなんだか分からないと言わんばっかりの紅にヤケクソに言う。

何でこうも変な所が鈍いのだろうか。 やはり、もう一押し必要かもしれない。

「アイス食べ終わったら紅は俺のとこ集合な!」

「えぇ…」

「返事!」

「…はーい」

何故不貞腐れる!こっちが不貞腐れたいわ!幼馴染だから「まぁ紅だし…」で済むが、他の人が聞いたら「焦れったい!」と言われてパンチ喰らっても可笑しくない。

取り敢えず今はアイスに集中することにした。


アイス食べ終わった俺と紅は隅にひっそりとあるベンチに腰掛けた。

「色々…色々言いたい」

「…そんなに?」

「そんなにだ。まずな?これだけは言わせてくれ…焦れったい! 」

多分、葵ちゃんも思っていたであろうことを紅本人に吐露する。

「まぁ、小6の時に恋愛関係で大変なことがあってから恋愛の話は避けるようになったからな…しょうがないっちゃしょうがないんだけど」

「…うん」

「学校に紅と藤花ちゃんの話が広がったら、からかわれて一緒に居づらくなるかもだろ?」

俺は諭すように声を掛ける。しっかり話せば幼馴染兼親友は分かってくれるはずだ。

「俺達は誰かに話さない。自然にバレたらどうしようもないないが…」

「とにかく!味方だから安心して恋愛をエンジョイしろってわけだ!」

「ありがとう…気に掛けてくれて」

「良いってことよ」

紅の顔は一瞬晴れたが、また表情は曇り始めてしまった。

「ねぇ…朔」

「どうした?紅」

「僕は小6の時に感情が制御できなくなって人を傷つけただろ」

「…そうだな」

紅は自らが奥手である理由を語り始めた。

「あの時からさ…怖くなったんだ。一つの感情にのめり込む程、取り返しがつかなくなるって」

「藤花のことは本当に好きだ。大好きだ 」

「…だからこそ、いつか藤花や朔、葵を傷つけてしまうんじゃないかって」

紅は、気持ちの暴走から全力で思うことを恐れてしまっているようだ。

…どうやら、ずっと口に出さなかった誓いを言う瞬間が来たらしい。

「もし…もしそんな時が来たら全力で止めてやる。必ず…絶対にだ」

「朔…君は」

「約束だ。俺は約束は破らないタチだ」

「信じさせてもらうよ」

紛れもない昔からの俺の本音だ。紅には後悔しないように恋愛を心から楽しんでほしい。

隣に座る相手の心に届くよう願って。

「うし!この話は終わり!行くぞ」

「あぁ…そうだね、二人を待たせてる!」

俺達は前に向かって走り始めた。


女子組の二人はゆるふわな、The・女の子って感じの店にいた。

「お待たせ!」

「そんなに待ってないから大丈夫だよ」

藤花ちゃんの言葉は変わらず優しい。紅は本当に良い人と出会えたと改めて思った。

「次は何処行く?」

「私、さっき二人に見せたいお店見つけたの!」

「葵ちゃんがそう言うなら行こうぜ」

「うん、行こう」

四人組は歩き出した。


気づけば、もう帰る時間になっていた。

「時の流れって早いわ〜」

「そんな爺さん臭いこというなよ朔」

「良いだろ!」

橙色に染まる空を見上げならがら、そんな会話をしていると藤花ちゃんが少し笑う

「ふっ…」

「ちょっ!笑うなって!」

「ごめん、面白くてついつい…」

「確かに面白いわね」

楽しい時間の終わりは近い。噛み締めながら駐輪場に移動する。

「じゃあ、僕達は自転車だから…じゃあね」

「うん、またね」

「二人共またな〜!」

「えぇ、また部活で…朔君はLINEで」

部活が違う疎外感をこんなところで味わうことになったが、もう気にしないことにする。

そして俺達はチャリで帰り始めた。女子組は車で帰るらしい。

「あつーい!けど楽しかったな!」

「そうだね」

「また遊びてーな…夏休みはまだまだあるし」

「確かに…夏祭りとか行ってみる?」

「おっ!良いな!」

そんな会話を二人で、別れ道まで繰り広げ続けた。


これは俺達四人組の夏の一幕に過ぎない。

まさか、あの約束を果たす日が来るとは思わなかったが結果オーライだ。

今、誰かに四人組で初めて遊んだ日の締めを伝えるならば帰り道の夕焼けが物凄く色鮮やかで綺麗であったことだろうか。

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