そんなことを考えてるといつの間にか目的地には着いていた。
「古佐くん?ここ花火会場じゃないよ?」
そう畑葉さんが言ったと同時に辺りには夜空に花が咲く音が響いた。
畑葉さんは僕の返事よりも花火に釘付けになっている。
そんな中、僕の視線は畑葉さんに向いていた。
でもこれ以上見過ぎると怒りそうだから。
そう思い、僕の視線も花火の方へ。
「──ん」
「─くん!!」
耳元でそんな声が聞こえ、ハッとする。
「何?」
そう聞けば
「何?じゃないよ!!もうお祭り終わったよ?帰ろ?」
と返される。
そう。
いつの間にかお祭りの時間は過ぎていたのだ。
「この前のお祭り楽しかったね〜!!」
お祭りのあの日から1週間後、
桜の木の下でいつものように雑談する。
なぜ1週間も合わなかったのか。
その理由は単純に調子乗ってお姫様抱っことかした自分が恥ずかしくなり、
引きこもっていた。
畑葉さんは僕の家を知っているはずなのに来なかった。
から多分、畑葉さんにも用事か事情があったんじゃないかと思っている。
「ね、今日さ私、行きたいとこあるんだけど…」
「いい?」
そう聞いてくるのは初めてかもしれない。
いつも強引に連れ回されていたから。
なんだか新鮮だ。
「いいよ、どこに行くの?」
「それは行ってからのお楽しみ!」
そう言っていつものように僕の手を引いてどこかへ向かう。
しかも鼻歌混じりで。
楽しそうでなによりだ。
そうして着いた場所は駄菓子屋だった。
こんなとこに駄菓子屋があるなんて知らなかった。
でも僕お金持ってないんだけど…
そう思いながら畑葉さんを見る。
と、
畑葉さんはいつの間にか僕の隣から消えて、
店の中へと進んでいた。
駄菓子屋の壁には沢山の蔦が這っている。
そのくらい年月が経ったのだろう。
こういうのあまり見れないから、
これこそカメラ使って写真撮ればいいのに。
そんなことを思いながら少し忘れていた畑葉さんのカメラの存在を思い出す。
そういえばあのカメラ使ってるのかな…
見たことないけど…
心の中でそう独り言を零していると
「おまたせ〜!!」
と言いながら何かを持った畑葉さんがこちらへ向かってくる。
「何か買ったの?」
そう僕が聞くと
「見てよこれ!!」
と言いながら何かを見せてきた。
『ダブルアイスバー』と書かれたパッケージ。
よくある2つで1つのアイスだった。
「2人で食べよ?」
首を傾げながらそんなことを言う。
それのせいかは分からないが、
なぜか僕の顔が熱くなった気がした。
ただでさえ夏の暑さで死にそうだと言うのに。
これじゃあ熱中症になってしまう。
「こっち!!ベンチあるから!」
そう強引に腕を引っ張られ、座る。
「暑いね〜」
「あ、これ古佐くんの分!」
そう言って溶けかけのアイスを渡してくる。
「ありがと」
そう返しながら貰ったのにも関わらず、
僕はアイスを食べようとはしなかった。
畑葉さんの頬を、
首筋を、
伝う汗が太陽と反射して眩しかったからだ。
まぁ夏なんだから暑くて汗が垂れるのは当たり前なんだけれど。
僕にはそれが美しく見えてしまって。
「古佐くん?溶けてるけど…」
既にアイスを食べきった畑葉さんにそう言われ
「うん…」
と言いながらアイスを口に運ぶ。
少し溶けたアイスが口の中で広がる。
「あーあ…」
「ハズレか…」
「古佐くんは?」
「僕もハズレだよ」
僕がそう言うといつものように口を尖らせ『ちぇっ…』なんて言う。
少し夏の暑さが消えたと思ったのにアイスを食べ終わった瞬間、暑さは元通りに。
「夏って暑いじゃん?」
急に話しかけられビクリとしてしまう。
「うん」
「夏にアイス食べたらスッキリするけど、そういうスッキリする飲み物って無いの?」
そう言われ『ラムネとか?』と声を上げそうになるが、どうせならラムネじゃないものを提案してみたい。
なぜかそう思い、
「レモネードソーダとかは?」
と言ってみる。
「れもねーどそーだ?」
オウム返しをしながら不思議がる畑葉さん。
どうやら『レモネードソーダ』を知らないようだ。
「あ!じゃあじゃあ!!」
「夏の終わりに2人で『れもねーどそーだ』飲も?」
「いいよ」
少し笑いを含みながら返答する。
「約束ね!!」
そう言って強引に僕の小指に自身の小指を絡ませてくる。
「てか駄菓子屋に居るんだから、どうせなら駄菓子買ってく?」
「いいね!!」
「あ、でも僕お金持ってないんだよね…」
提案した側なのにも関わらず、
僕はお金を持っていない。
『あわよくば貸してもらえるんじゃないかな…』そんな悪魔の声が聞こえた気がした。
「私が奢るよ!!」
「ありがとう」
「次会った時に返すね、絶対返すから!!」
そう強めに言うと
「分かったって」
と言いながら笑う。
可愛い。
何度も心の中でそんな言葉が繰り返される。
僕は畑葉さんオタクにでもなってしまったのだろうか。
「何買う〜?」
「僕これお気に入り」
そう言いながら10円チョコを見せる。
「あ!!私もそれ好き!」
そう言いながら自身のカゴに次々と入れていく。
『流石に入れすぎじゃ…』と思ったが、
自分のお金だから何してもいいのでは?
と心に言われてしまう。
「いっぱい買ったね〜!!」
そう言いながら汗を拭う畑葉さん。
畑葉さんの手にはバーゲン帰りの人達のようま両手に駄菓子いっぱいの袋を抱えていた。
ちなみに僕が買ったのは『10チョコ』と『フーセンガム』の2つだけ。
「それ食べ切れるの?」
そう質問したはいいけれど、
きっと畑葉さんなら可能な気がすると思ってしまう。
「大丈夫!!」
「それより古佐くんはそれだけで良かったの?」
「まぁ…」
確かに畑葉さんの駄菓子の数と比べればだいぶ少ないけど…
人のお金で好き勝手するのは僕にとって無理なことだったのかもしれない。
そう心で思う。
「明日は何するの?」
買ったばかりの駄菓子を食べながら歩いている畑葉さんにそう聞く。
「うーん…」
「特に何も考えてないんだよね〜…」
そんな答えを聞いて『チャンス』と思ってしまう自分がいる。
そう。
あの手持ち花火の際に畑葉さんが家族に会ったときの後、家族がもっと畑葉さんに会いたいだなんて言い出して。
「じゃあ明日、海行かない?」
海とか一緒に行ったら?
なんて提案されていた。
あまり気は乗らなかったが『水着姿が見れるわよ』なんて言われてしまったら誘わないわけにはいかない。
これでも一応、僕だって男の子なのだから。
「海?!」
「行く!!行きたい!」
先程のテンションよりも明らかに一変し、
興奮する畑葉さん。
「家族もいるけどいい?」
「全然いい!!」
『良かった』と呟きながらも内心、
畑葉さんの水着姿を妄想してしまう。
なんて悪い奴なんだ。
そう独りでに思う。
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水着……(っ ॑꒳ ॑c)…ワクワク💕 駄菓子屋に着いた後に畑葉さんの方に目をやる時、あえて文を一度切ってから『。と……』って繋げるの、予想の範疇を超えた行動をしていた事を表しているようで、すこ。