「残念ではありますが、直ぐに島を離れてください。ここに長居は無用です」
船内に用意された浴槽で湯に浸りながらシャーリィは一緒に入っているエレノアに要請する。尚、流石に広いスペースを使えないため、エレノアに後ろから抱き抱えられるように浸かっている。
そしてアスカは風呂が嫌いなため早々にあがっていた。
「やり返さなくて良いのかい?」
「今回は分が悪いです。ここまで皆さんを付き合わせてしまったんです。これ以上は望めません」
「シャーリィちゃんがそれで良いなら、私は何も言わないよ。どのみち島から離れるように指示は出してあるからね」
「ありがとうございます」
「構わないよ、付いてきたのは私達なんだ。シャーリィちゃんが悔やむ必要はないさ。それとも、お宝が惜しいかい?」
エレノアは笑い掛けると、シャーリィは困ったようにはにかむ。
「少しだけ」
「それならあがってからのお楽しみだね?」
「はい?」
「こっちの話さ。二日も経ってるんだ。今は休みな」
「二日、ですか。ご心配をお掛けしました。報酬で応えるとしましょう」
「そうしておくれ。皆も喜ぶからね」
二人はゆったりと足を伸ばして疲れを癒す。エレノアは素早くシャーリィの身体を改め怪我の無いのを確認して安堵する。
傷物にして帰ろうものなら、あの親バカシスターに何を言われるか分からないのだ。それとは別に可愛がっているシャーリィが傷付くのを許容できないが。
「どうしたんですか?エレノアさん」
「いや、怪我がなくて良かったよ。ほとんど裸に近い格好だったからね」
「刺激的な体験でしたよ」
シャーリィは簡潔に何があったのかをエレノアに話した。
「食人かい?それはまた古典的じゃないか」
「若い処女を好む変態さん集団です。根絶やしにしてあげたい気持ちはありますが、今回は諦めます」
「若い処女ねぇ。だからシャーリィちゃんを狙ったのかね?」
「随分と幼く見えたみたいですよ。失礼です」
「はははっ、私は可愛いと思うけどねぇ」
膨れるシャーリィの頭を優しく撫でるエレノア。シャーリィも嫌がる素振りを見せず拒絶はせずに受け入れていた。
ゆったりとした入浴を済ませた二人は、船長室でベルモンドを交えて情報交換を行った。本当ならシャーリィを休ませるつもりだったが、本人が状況の把握を優先した結果である。
尚、ルイスとアスカは部屋で休んでいた。
「お嬢とルイが捕まった直後からアスカの追跡は始まっていたんだ。俺はエレノアに連絡して部隊を纏めて救出に備えた」
「捜索についてはアスカちゃん一人に任せる結果になっちゃったけどね」
「地の利の無いあの森で大々的な捜索を行っていたら、被害が出た筈です。お二人の判断を尊重します」
「……ありがとな。それでお嬢達の無事を確認したんだが、森の奥地でな。救出に向かうのは難しかった。だからアスカに撹乱させて脱出させるつもりだったんだが」
「まさか自分達で脱出したなんて驚いたよ」
「相手の慢心を上手く突けた結果です。死傷者も出なかったので、今回は良しとします」
「それなんだが、お嬢の事だから直ぐに撤退を選ぶ可能性があったからな。護衛の役目を果たせなかった詫びと言っちゃ何だが、戦利品がある」
そう言ってベルモンドが取り出したのは、光輝くエメラルドグリーンの結晶だった。それを見たシャーリィは目を見開く。
「これは!?」
「墜落してた『飛空船』から、掻っ払ってきた。お嬢待望の『飛空石』だよ」
「これが『飛空石』!?」
「私とベルモンドの二人で回収したのさ。運が良いのか、現地の奴らは居なくてね」
「他にも高値で売れそうな奴を幾つか持ってきた。完全に無駄足って訳じゃない」
「最高の成果ですよ。二人に心から感謝を。正直諦めていたのですから」
ベルモンドの機転で、目的である『飛空石』と戦利品を獲得することに成功した。
「『飛空石』と多少の戦利品が手に入ったのならば、未練はありません。エレノアさん、進路をファイル島へ向けてください。急いでこの海域を脱出します」
「了解、今から全速力で戻るから明日の夕方には着くだろうね。シャーリィちゃんはそれまでゆっくり休みな」
「いえ、『飛空石』を調べてみないと……」
「ゆっくり、休みな……ね?」
ずいっと笑顔のまま顔を近付けるエレノア。その威圧感に圧倒されるシャーリィ。
「はっ、はい。休ませていただきます」
「流石に疲れてるだろうからな。お嬢にはまだまだ仕事があるんだ。無茶は禁物だぜ?」
「はい、ベル。ありがとうございます。それでは……言い付けを守って休みますね」
シャーリィは逃げるように部屋を出る。
「今のところ、全部順調だね」
「ああ。だが今回と言いお嬢は無茶が過ぎるところがある。これまで上手く行ったからな、気付かない内に慢心があるんじゃないかと見てる」
「あのシャーリィちゃんがかい?」
「忘れるなよ、エレノア。お嬢は色々規格外だがまだ十七歳だ。つまり、まだ子供だ。どんなに自制しても油断は生まれる」
「なら、どうすれば良いんだい?」
「これまでの敵は、正直お嬢相手には不足していた。もし、お互いに意識するような、ライバルみたいな奴が現れたらお嬢も変わるだろう。じゃなきゃいつか破滅する。俺達が言っても効果があるとは思えないからな」
ベルモンドは苦々しく呟く。護衛として側に居るが、突然始まるシャーリィの無茶に振り回されて怪我をさせてしまっている現状を自身の未熟と判断しているが、シャーリィに多少の自制を求めたい気持ちもあるのだ。
「勝ちばかりじゃいかん、負けも知らねば」
「なんだ?エレノア」
「妹ちゃんが言ってた言葉だよ、
シャーリィちゃんは、小さい失敗はあるけど負けたことはないからねぇ」
「そうだな」
「でも、シャーリィちゃんと互角にやれるような奴が居るかねぇ?」
「それは今後に期待したい。出来れば取り返しのつかない被害が出る前に、な」
ベルモンドと語らったエレノアはそのまま甲板に出る。
「お宝は手に入れたぁ!野郎共!シャーリィちゃんが気前良く褒美をくれるだろうから期待しときな!」
「「「おおぉおーっ!!!」」」
「長居は無用だよ!進路ファイル島!全速力で離脱する!気合い入れなぁ!」
トラブルは発生したものの、シャーリィ達は無事に目的を果たして『カロリン諸島』を後にする。
シャーリィは後に妹のレイミに今回の件を、少しだけ刺激的な数日間を堪能したと満足げに語っている。
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