京都の朝、薄雲がかかった空の下、都は静寂に包まれていた。だが、その静けさを破るように、遠くから重い足音が響いてきた。足元に響く足音は次第に速まり、大殿内へと迫った。
室町幕府の将軍、足利義昭がその場所に立つと、空気が一変する。彼の顔は血色を失い、重い責任感に押し潰されそうだった。義昭の背後に立つのは、権威も尽き果てた老臣たち。しかし義昭に向かって言葉を発する者はなかった。もはや、足利家の時代は終わりを告げていた。
だが、義昭は受け入れたくなかった。自分の手で、終わりを迎えるつもりはなかった。彼の脳裏に浮かぶのは、甲斐の武田信玄や越後の上杉謙信の名だ。彼らが関われば、何かが変わるはずだと信じて疑わなかった。
「――もう、終わりか。」
そう呟く義昭の耳に、銃声が届いた。京の街を震わせるその音は、まるで幕府の終焉を告げる鐘のようだった。
その時、義昭の元に一通の密書が届けられる。それは、織田信長の手によるものだった。
信長の名を耳にした瞬間、義昭は自分の中で何かが崩れ去るのを感じた。あの信長が、京に近づいている──否、彼はすでに都を掌握しようとしている。実際にその事実を突きつけられると、義昭はその重さに押し潰されるような気がした。
信長が足利家の元へ歩み寄る意図は明確だった。京の支配を狙うのは彼一人であり、義昭はもはや邪魔ものに過ぎなかった。
「信長が来る。ここから先は、我が手で決めるしかない。」
義昭は密書を握りしめ、ひとつ深いため息をつく。そこに一人、老臣が顔を出す。
「殿、信長が…動き出したようです。」
その言葉が義昭を現実へと引き戻した。老臣は恐るべき表情で続ける。
「もはや、我が幕府を支える力はありません。信長の勢力は急速に拡大し、反旗を翻す者も少なくなってきました。殿のご命令がなければ、わたくしもこの地を離れるべき時が来たのでしょう。」
その言葉を受けて、義昭は重い足取りで立ち上がる。彼は窓の外を見つめ、ひとときの沈黙の後、ついに口を開いた。
「信長を倒すか…それとも、自らが道を引くか…」
その時、突然、裏門からの物音が響く。義昭は振り返ると、彼の部屋に入ってきたのは、別の者の影だった。それは、義昭が長年信頼してきた、上杉謙信だった。
「義昭公、今こそ決断の時です。」
謙信の声は冷徹で、だがどこか切なさを含んでいた。彼は静かに近づき、膝をついて義昭に一言を告げる。
「織田信長を倒すためには、力を貸すしかありません。だが、その前に、あなた自身がどうするかを決めなければならぬ。」
謙信の目には、義昭の決断を待つ鋭い光が宿っていた。彼は確信を持って言った。
「幕府を立て直すためには、多くの力が足りません。だが、もし私が東国を支配することで、あなたが京を守る――そうすれば、いまだに残された道はある。」
義昭はしばらく黙って謙信を見つめ、その後、決意を固めたかのように言った。
「上杉謙信、お前に頼む。信長を倒すために手を貸してくれ。」
その言葉に謙信は力強く頷く。
「必ずや、信長を打倒し、あなたの元に新たな秩序を築きます。」
義昭と謙信の間に、深い理解が生まれると同時に、重い使命が二人の肩に乗った。彼らの連携が、戦国時代に新たな波乱を引き起こすのは、まだ誰にも知る由もなかった。
そして、足利幕府の滅亡が、ついに始まる。
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信長ああああああああああああああああ(←信長推しの人