テラーノベル
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第91話
少しすると、紅茶セットと一緒に、ホカホカ焼きたてのクッキーを並べた。
「わぁ……!」
「リナが帰ってきてたの見て謝らないとなって思ってな……俺、嫌われて、取り返しのつかない事になったらどうしようとか……色々と考えたんだよ」
……それは……私の方だよ。
だって……取り返しのつかないなんて……私の事、言ってるみたい。
「そっか……私ね、あの直後は正直、ノアに会いたくなかった。でも、今になって考えてみると、もう手負いの獣だったんだよね。誰を傷つけるのか分からなくて……」
私は、紅茶の水面を眺めながら、そう呟いた。紅茶って有色なのに、透明。
不思議。色があるのに先が見える。
ノアが私の隣の席に座った。
私は、クッキーを一口食べた。ホロホロしてるのに、しっとり。美味しい。
「どうかな……? クッキーを焼くの初めてだから……」
「とっても美味しい。ありがとう」
「リナは、いつも俺の作った物を美味しそうに食べてくれる。こちらこそありがとう」
不本意。とーっても不本意だよ。すごく大粒の涙が頬の道なき道を強引突破している。
「リナ?」
「ごめんね。分からないけど、安心しちゃったのかな? 安心したら、涙腺も緩んじゃった」
そう言って微笑むと、 ノアが私の頬を撫でた。
「これからも、泣きたい時は泣いてくれ。不満がある時は言って欲しい」
ノア……
「私は、ノアには隠す事なんて滅多にしないよ。例外はあるけれど、話せることは全部話してるから、心配無用! ……でも、無理してるように見えてたら、言って」
「分かった。そうする」
「良かった……相談できるのが、ノアで」
私がそう言って微笑むと、ノアは顔を紅く染めて目を背けた。否、恥ずかしいのだ。魔力の動きもそう。
「ありがとう。こんな私を嫌わないでいてくれて」
「それは、俺も……ありがとう」
私は、ノアの事を抱きしめた。そしたら、ノアも腕を回してくれる。
でも、ノアの身体に入る力が無くなった。
「ノア?」
急いで見たけど……寝落ちしちゃっただけみたい。相当張り詰めていたんだろうな……
私は、ノアの事をベットに寝かせてから、ノアの胸元に入ってるリストを見た。
守るべきリストの人たちに似たような感じだった。そう言えば、あの紙はどこか光になって飛んでいった。
……何? これは何のリストなの?
私、入ってないけど……
静かに、リストをノアの胸元に戻した。
部屋を出ようとした時、キラリと光る物が棚に飾ってある事に気付いた。
ノアの棚には、本と、花と、魔法石と……沢山飾ってある。
その中で、一つだけ壊れたブローチが見えた。クリーム色の魔法石があしらわれていて、バラバラになっている。無くなっている部品もある。
……下手な身代わりの魔法が発動する魔導回路みたいなのが見える。それに、少しだけ古ぼけているように見える。
私が作ったのかな? 昔過ぎて覚えてないや……
……でも、どこか懐かしい。
この国でブローチを贈るのは日本の指輪と同じ、愛の印だ。当時の私は、知らなかったのだろう。
「本当、何も分かってない」
私は、独りでそう呟いた。
❂
あれから――異界が現れて、元に戻した日から十日がたった。
リナは家出したり、ノアは調子が悪いし、父さんも母さんも店の仕事に追われて……エリカは倒れるし、俺だって、一瞬だけどそんな気配がしたり……散々だ。
俺のは、気の所為だったかもしれないけど……
「おはようございまーす」
いつも通り適当に挨拶して部屋に入ると……慌ただしいかった。
何の仕事だろうか?
俺は、他の資料があるけど、そんなに溜め込んでたのか?
そんな気楽に考えていると、団長が俺の方へ向かって歩いてきた。
「ニルス。リナが連れてきたやつが……全員、死んだ」
は?
それからよく話を聞くと……朝一に来たラルフが第一発見者で、死因は不明。
外傷も無く、毒でも無い。こうなると、物理的に生命機能を止められたのだろう。
「……でも、何でリナが連れてきたやつだけ……? それに、呪いでも無いのか……」
一つ心当たりがあった。俺たちは抗えないある存在。
……確か、リナに捕まえろって言ったのも……あ、そっか。一択だ。
「ニルス。身に覚えは無いか?」
「……ありません」
俺は、短く言葉を吐き捨てて資料に手をつけた。取り敢えず、死亡届の提出を一週間以内にしないといけないから……七百人超え……他の資料も合わせると、ギリギリと言ったところだ。
しばらく、鍛錬の時間は無いだろう。
「本当か? 何か隠し事をしているように見えたが……」
「不確定な事をベラベラと口に出すような行動は取れません」
「それじゃあ、確定したら言ってくれ」
団長もこれ以上攻めたら、パワハラになると分かったのだろう。
俺は、急いでこの仕事を終わらせられるように、集中した。
コメント
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第92話、読了しました……! ノアとリナがちゃんと向き合えて、あのクッキーのシーンにじんわり来ました。紅茶の描写から“色があるのに透明”っていう比喩、すごく好きです。リナが泣きながら「安心した」って言うの、胸に刺さりました。 でも最後のニルスの場面で一気に空気が変わって……“全員死んだ”の衝撃。リナが連れてきた人だけが標的って、何か壮大な仕掛けを感じます。この伏線、どう回収されるのか気になって仕方ないです。次話も楽しみにしてますね🌙
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こはる
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