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#山中柔太朗
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数日後。
太智の貧血もすっかり良くなり、ナースステーションは平和を取り戻したかに思えた。
……が、今度は別の問題が発生していた。
原因は、少し前に起きた他科とのカンファレンストラブルだ。
総合診療科の存在を面白く思わない外科のベテラン医師たちから、理不尽な書類修正や難解な症例の押し付けが連日続いていた。
佐野やナース陣に火の粉が飛ばないよう、そのすべての理不尽な圧力を一人で受け止め、冷徹な論理で突っぱね続けていたのが——吉田仁人だった。
「……はぁ」
診察室のデスク。
仁人はパソコンの画面を見つめたまま、誰にも聞こえないほど小さな溜め息をついた。
「……頭が、重すぎる……」
ここ数日、まともな睡眠どころか水分すら摂れていなかった。
神経を極限まですり減らしたストレスによる過労と、急激な脱水症状。
それに伴うじんわりとした微熱が、仁人の体温と思考を少しずつ奪っていく。
「吉田先生、さっき外科から回ってきたこのカルテなんやけど……」
書類を持って診察室に入ってきた太智は、デスクに突っ伏しそうになっている仁人の背中を見て、ピタリと足を止めた。
「……吉田さん?」
「……あぁ、太智。何かあった……?」
振り返った仁人の顔を見て、太智の表情が一瞬で強張る。
真っ白な肌は病的に青ざめ、頬には微かに熱っぽい赤みが差していた。
唇は乾ききり、眼鏡の奥の瞳は焦点が定まっていない。
「吉田さん、顔色めちゃくちゃ悪いで!? ちょっと熱測——」
「……大丈夫。疲れてるだけだから、気にしないで……っ」
立ち上がって書類を受け取ろうとした仁人だったが、その瞬間、世界が激しく横に傾いた。
「っぁ……」
「仁ちゃん!!」
足の力が完全に抜け、崩れ落ちる仁人。
太智は弾かれたように飛び出し、倒れ込んでくる仁人の細い身体を正面からしっかりと受け止めた。
バサバサッ!!
手からこぼれ落ちたカルテが床に散らばる。
太智の胸に倒れかかった仁人の身体は、驚くほど熱く、そして弱々しく震えていた。
「ぁ……はっ、ぁ……」
「熱っ……! 仁ちゃん熱あるやんか! それに脱水症状まで…!!」
意識が朦朧とし、太智の白衣をぎゅっと掴んだままと途切れ途切れに呟く仁人。
「診察……戻らなきゃ……」
「アホか!! 戻れるわけないやろ!! 外科の奴らに気遣って一人で溜め込みやがって……!」
太智は自分の背中を丸めると、ぐったりとした仁人をおんぶする。
「ん、はぁ、っ……だい、ち、おろして……、お、れ……」
「黙れ!! 今は俺の言うこと聞く場所や!!」
太智は叫ぶように言い放ち、背中の仁人が落ちないよう、しっかりと太ももを支えて処置室へ向かって歩き出した。
「佐野さん、仁ちゃんが倒れた!柔太朗と舜太、点滴と冷やしタオル持ってきて!!」
太智の声に、ナースステーション全体が揺れた。
奥から勇斗が飛んできて、柔太朗と舜太が秒で冷却シートと生食の点滴準備に入る。
処置室のベッドに、そっと仁人を横たえる太智。
仁人の意識はすでにほとんど失われており、うわ言のように、すみません、と小さな声を漏らしていた。
太智は手際よく点滴のルートを確保すると、冷やしタオルで仁人の額や首元を優しく拭ってやった。
「……ほんま、器用に見えて一番不器用なんやから……」
太智は前髪を優しくかき分けつつ、ぽつりと呟いた。
「…仁ちゃん、俺らは何のためにここにいると思っとんねん」
点滴が落ち始めると、仁人の荒い呼吸が少しずつ穏やかになっていく。
「原因的にも、熱収まれば大丈夫だと思う。太智サンキュな、」
「…うん、」
側で診察していた勇斗がと低く呟き、柔太朗と舜太も不安そうに仁人のベッドを取り囲んだ。
「早く元気になるといいなぁ、」
「んね。なんか、じんちゃんいないと落ち着かないや」
結局、最後は全員が甘やかすように包み込んでいく。
処置室には、規則的な点滴の音と、仲間たちの静かで温かな気配だけが満ちていた。
コメント
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うわあ、仁人さんの頑張りすぎるところ、胸がぎゅっとなりました……。一人で全部抱え込んで「診察戻らなきゃ」って意識朦朧としてるのに仕事を気にする姿、読んでて苦しかったです。でもそこに飛び込んだ太智くんの「黙れ!!今は俺の言うこと聞く場所や!!」って叫びがめっちゃ熱くて、こっちまでグッときました。最後、みんなで静かに見守る描写も優しくて、チームの結束がじんわり伝わってきました。お大事にと願わずにはいられないエピソードでした🌷