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#山中柔太朗
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悪天候による気圧の乱れと、連日の激務によるストレス。
総合診療科の医師である佐野勇斗の体は、限界を迎えていた。
ひどい割れるような頭痛と、全身を苛む高熱。
脱水症状のせいで意識はすでに朦朧としていたが、自分が倒れるわけにはいかない、という持ち前の根性だけで、勇斗は現場に立ち続けていた。
もちろん、隣にいる吉田仁人がそれに気づかないはずがない。
「……勇斗」
現場報告の帰り道、廊下を歩く勇斗の歩調は不自然に重く、呼吸も荒い。
仁人は内心、ヒヤヒヤしながらその背中を追いかけていた。
熱による脱水と過労……限界を超えているのは目に見えている。
……ただ、止めたところで、聞く耳は持っていないのが、この男の最大の特徴。
だからこそ、吉田はあえて何も言わず、勇斗の歩みに付き添っていたのだった。
そんな二人が、かつてはやとが所属していた小児科病棟の前を通りかかったときのことだ。
「あ! はやちゃんせんせいだ!」
「…あぁ、りくじゃん、どしたの?」
プレイルームから飛び出してきた幼い男の子が、勇斗の白衣の裾を引っ張った。
「あのね、きょうおりがみつくったの!ほら!」
「……ん、ほんとじゃん、うまいね」
どこか空気の抜けるだけな言葉に疑問を持ったのか、男の子は勇斗の顔をまじまじと見る。
「じんとせんせい…? はやちゃんせんせい、おねつあるの……?」
子供の無垢で鋭い観察眼に、勇斗の身体がピクッと強張る。
「え……? いやいや、そんなこと……俺は元気いっぱい——」
「そう!はやと先生はね、今おねつがあるから、今日はもうお家にかえるんだ、ごめんね?」
勇斗が掠れた大声を張り上げて誤魔化そうとした瞬間、それを遮るように、仁人が今まで見たこともないような大きな声を張り上げた。
あまりの吉田の剣幕に、男の子も佐野も目を丸くする。
「……じん、ちゃん……? なんで……」
「アホか。勇斗は分かりやすくて助かる」
仁人が冷たく、けれどどこか泣きそうな目で勇斗を見つめた、その瞬間だった。
張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。
「っ、は……」
勇斗の視界が完全に途切れ、巨体が前へとなだれ込む。
「勇斗……っ!?」
仁人は弾かれたように踏み込み、倒れてくる勇斗の身体をガシッと正面から受け止める。
ズシリと重い体温。
肌からは、火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。
「余裕で38度あるだろ…」
仁人はそこまで体力があるわけでも、体感があるわけでもない。
必死に佐野の重みを支えた。
「は、ぁ………。ん、は……」
佐野の意識は完全に消失していた。
自分の名前を呼ぶ仁人の声も、すでに届いていない。
仁人はすぐさま総合診療科へ連絡を入れ、勇斗を抱え直して処置室へと急いだ。
「勇斗!しっかりしろ、勇斗!!」
ナースステーションに駆け込むと、飛び出してきた太智、柔太朗、舜太の3人が青ざめた。
「佐野さん!?」
「すぐベッドに!」
処置室のベッドに横たえられ、計測された佐野の体温計が弾き出した数値は——
『38.7℃』。
ひどい脱水症状と高熱により、勇斗は完全に意識を失っており、うわ言ひとつ漏らさないほどの昏睡状態だった。
「即時生食投与、冷却インフュージョン準備! 柔太朗、採血に回してくれ!」
「はい!」
仁人の手際よい指示のもと、全員で勇斗の全身を冷やし、点滴のルートを確保していく。
ベッドの上でぐったりと横たわる勇斗の顔は熱で真っ赤に熟し、呼吸を繰り返すたびに肩が小さく揺れていた。
いつも太陽のように笑い、みんなを引っ張ってくれる絶対的エースの、あまりにも無防備な姿。
仁人は点滴の落ちる速度を調整しながら、勇斗の冷えた前髪にそっと手を伸ばした。
「……たっく。どこまで心配させたいんだよ、お前」
普段の強がりも、熱血な言葉も、今の勇斗には届かない。
明日の朝、目を覚ましたときには、この高熱の間の記憶など何ひとつ残っていないだろう。
それでも仁人は、勇斗の手を力強く握りしめた。
「早く戻ってこい、勇斗。……君がいないと、このナースステーションは暗くて困るんだから」
傍らで見守る太智、柔太朗、舜太も、静かに、そして深く頷いていた。
太陽が休息についた静かな処置室で、仲間たちの手厚い看病が夜通し続いていった。
コメント
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ああ、もうこれは心臓にくる話だった…。普段あれだけ笑顔でみんなを引っ張る“太陽”が、限界超えてバタンと倒れるの、めちゃくちゃ切なかった。特に子供が「おねつあるの?」ってストレートに言っちゃうところ、大人をごまかせない純粋さが逆にグッとくるポイントだね。仁人が普段は見せない大声で止めに入った瞬間、「あ、この人、本当に勇斗のこと大事に思ってるんだな」って伝わってきた。連載中なら次が気になるし、ここで終わりなら温かいラストでよかった。お大事に、勇斗先生。